2026年10⽉23⽇ 公開
企業を取り巻くリスクが多様化・複雑化する中、保険リスクマネジャー(以下、リスクマネジャー)には、全社のリスクを把握・評価し、保険を含む対応策を経営判断につなげる役割が求められています。サイバー攻撃や自然災害、地政学リスク、サプライチェーンの混乱など、一部門だけでは対応できないリスクが増えるなか、その重要性は高まっています。
本記事では、リスク管理戦略を担うリスクマネジャーの実務に焦点を当て、求められるスキルや実践のポイントを解説します。
企業のリスクマネジャーの実務とは
企業のリスク管理戦略を担うリスクマネジャーは、自社が直面するリスクを特定・評価し、保険やその他のリスクファイナンスを含む適切な対応策を検討・実行する役割を担います。従来は、保険の手配や更改管理を中心に担当するケースも多くありました。しかし近年では、リスクマネジャーには保険だけでなく、事業戦略、財務、法務、サプライチェーン、サイバーセキュリティ、コンプライアンスなど、幅広い領域を横断してリスクを把握することが求められています。
リスクマネジャーの役割は、単にリスクを避けることではありません。企業がどのリスクを回避し、どのリスクを軽減し、どのリスクを保険などに移転し、どのリスクを保有するのかを整理し、経営層がよりよい意思決定を行えるよう支援することにあります。
ERMと保険リスクマネジメント
ERM(Enterprise Risk Management:全社的リスクマネジメント)とは、企業全体の重要なリスクを把握・評価し、優先順位を付け、対応方針を経営判断につなげる考え方です。企業によっては専任のERM組織を設けていますが、独立した組織を置かず、経営企画、財務、法務などがその役割を担う場合もあります。
企業が直面するリスクには、保険による財務的な備えが可能なものがある一方、保険だけでは十分に対応できず、事業運営、財務、法務、コンプライアンスなどの観点から対策を講じる必要があるものもあります。重要なのは、それらを別々に管理するのではなく、経営に影響を及ぼすリスクとして全社的に把握し、優先順位や対応状況を継続的に確認していくことです。
保険リスクマネジメントは、損害保険の対象となるリスクについて、予防・軽減に加え、保険による移転や自社での保有を検討する領域です。リスクマネジャーには、ERM組織または全社的なリスク管理を担う部門と情報を共有し、保険の対象とならないリスクも含めた企業全体のリスク認識と、保険戦略を分断させないことが求められます。
企業にリスクマネジャーが求められる背景
企業を取り巻くリスクは、相互に連関し、その影響を強めています。たとえば、自然災害によってサプライチェーンが寸断されると、生産停止や納期遅延、売上減少、顧客対応、レピュテーションの毀損など、影響が広範囲に及ぶことがあります。サイバー攻撃も、情報漏えいだけでなく、事業中断、法的対応、顧客説明、保険金請求など、複数の部門が関わる問題へ発展します。
このような環境では、各部門が個別にリスクへ対応するだけでは限界があります。企業全体のリスクを俯瞰し、経営層と現場をつなぎながら、保険を含む全社的リスクマネジメントを推進するリスクマネジャーの存在が、企業の対応力を高めるうえで重要になります。
リスク管理戦略におけるリスクマネジャーの主な業務
リスク管理戦略において、リスクマネジャーは自社を取り巻くリスクを全社的に把握し、保険を含む対応策を経営や事業の意思決定につなげる役割を担います。リスクマネジャーは、リスク情報を部門ごとに分断させず、経営層が比較・判断できる形に整理する橋渡し役でもあります。
主な役割
- 企業全体のリスクを見える化
- リスクの発生可能性と影響度を評価
- 優先的に対応すべきリスクを整理
- 保険を含むリスク対応策を検討
- 経営層にリスク情報を報告・提言
- 事業部門、法務、財務、人事、ITなど関係部門と連携
- 事故発生時や危機対応時の社内外コミュニケーションを支援
重要なのは、リスクマネジャーの役割が単なる「保険担当者」にとどまらないことです。保険はリスク対応の有効な手段の一つですが、リスクマネジメントは保険だけで完結するものではありません。リスクマネジャーには、リスクの予防、軽減、移転、保有を組み合わせ、事業の実態に合ったリスク管理戦略やリスク対応策を設計することが求められます。また、ERM組織または全社的なリスク管理を担う部門と連携し、企業全体の重要リスクを認識した上でリスク管理戦略を検討することも重要です。
企業のリスクマネジャーに求められるスキル
リスク管理戦略を担うリスクマネジャーには、リスク管理や企業保険に関する専門知識に加え、事業を理解する力、社内外の関係者と調整する力、経営層にわかりやすく説明する力が求められます。特に、サイバーリスクや地政学リスク、気候変動リスクなど、変化の速い領域では、リスクマネジャー自身が最新の情報を継続的に学び続ける姿勢も重要です。
主なスキル
- リスクを構造的に整理する分析力
- 事業戦略や財務への理解
- 保険・リスクファイナンスに関する知識
- 関係部門を巻き込む調整力
- 経営層への報告・提言力
- 外部専門家や保険会社との対話力
企業の保険リスクマネジャーが企業価値向上に貢献する理由
リスク管理戦略は、事故や災害による財務的な影響に備えるためだけのものではありません。リスクを適切に把握し、予防・軽減策と、保険やリスクファイナンスによる移転・保有を組み合わせて経営判断に活かすことで、企業はより確かな根拠をもって新規事業、海外展開、設備投資、サプライチェーン再構築などに取り組むことができます。つまり、リスク管理戦略は全社的リスクマネジメントを支える重要な機能であり、企業の成長を支える実務的な基盤でもあります。
また、リスク情報を社内で共有し、経営層がリスクを踏まえた意思決定を行える体制を整えることは、ステークホルダーからの信頼向上にもつながります。リスクマネジャーは、こうした体制づくりを実務面から支え、企業のレジリエンスを高め、企業価値の維持・向上を支える重要な存在です。
リスク管理戦略を支えるリスクマネジャーの実務
不確実性が高まる時代において、企業にはリスクを管理する専門性と、保険を含む対応策を経営判断につなげる力が求められています。サイバーリスク、自然災害、地政学リスク、サプライチェーンリスクなどが複雑に絡み合う中で、全社的な視点でリスクを捉え、回避、軽減、移転、保有を組み合わせたリスクマネジメントを設計することが重要です。その中でリスク管理戦略は、移転すべきリスクと保有すべきリスクを見極め、企業の財務耐性と事業継続を支える役割を担います。
その中核となるのは、保険やリスクファイナンスを含む多様なリスクソリューションを理解し、企業の持続的な成長とレジリエンス向上につなげていく実務力を持ち合わせたリスクマネジャーです。これからの企業には、経営層と現場をつなぎ、リスクを事業の意思決定に活かすリスクマネジャーの視点がますます重要になります。
おわりに
企業のリスクマネジメント体制や保険プログラムの見直し、またリスク管理戦略を担うリスクマネジャーの役割強化に関心のある方は、関連コンテンツをご覧いただくか、専門担当者までお問い合わせください。
よくある質問
- Q. 企業のリスクマネジャーとは何をする人ですか
A. 企業全体のリスクを把握・評価し、経営判断や事業継続につなげる役割を担います。保険を含むリスク対応策を検討し、関係部門と連携しながら、リスクへの備えを実務面で支えます。
- Q. 保険担当者との違いは何ですか
A. 保険担当者は、保険契約や更改、保険金請求などの実務を担います。リスクマネジャーは、保険をはじめとした財務的解決手法を含むリスク対応を設計し、リスクマネジメントを経営判断や事業戦略と結びつける役割を担います。
- Q. どの部門に置くべきですか
A. 配置部門は企業の規模や体制によって異なります。財務、経営企画、法務、リスク管理などが候補になりますが、重要なのは経営層と事業部門の双方と連携できる位置づけにすることです。
経験豊富な担当者が、企業を取り巻くさまざまなリスクへのアドバイスから
ソリューションのご提案まで、お客さまのニーズにあわせてお応えします。
まずはお気軽にご相談ください。
無断での使⽤・複製は禁じます。
注目タグ
- 経営者 働き方改革 事業継続 人材確保 福利厚生 両立支援 労災 病気 感染リスク メンタルヘルス がん 健康診断 予防 自然災害 ハラスメント 海外 IT セキュリティ 火災 自動車 雇用トラブル 解雇 資金 人件費 パート 経営者から学ぶ BCP ESG ERM 法制度・法規制 M&A 訴訟リスク 水災 地震 台風 サプライチェーン 海外進出トレンド アメリカ アジア ヨーロッパ アフリカ グローバル保険プログラム 海外PL保険 D&O保険 環境保険 サイバー保険 約款 キャプティブ 製造業 建設業 販売業 飲食業 IT業 戦争・紛争 地政学リスク インフレ 環境問題 損害サービス 賠償リスク リスクコンサルティング 物流リスク 海上保険 取引信用保険 サービス業 貿易 経営保険 サイバーセキュリティ