2026年9⽉4⽇ 公開
従業員が業務中にケガをしたり、通勤中に事故に遭ったりするなどの「労災」は、企業にとって避けては通れない問題です。
労災が発生した場合、企業は速やかに対応し、従業員の身体や安全を守る必要があります。とはいえ、具体的にどう対応すべきなのか、正確に把握している人は少ないのではないでしょうか。
この記事では、労災の概要や種類、労災認定の考え方、労災が発生したときの対応、労災保険の基本、労災が起きたときの相談先などについて解説します。
労災(労働災害)とは?
参考:「労務保険給付の概要」(厚生労働省)より作成
労災(労働災害)とは、労働者が業務や通勤を原因として負った負傷、疾病、障害、死亡を指します。
一般に「労災」という場合は、業務を原因とする「業務災害」、複数の事業場での業務を原因とする「複数業務要因災害」、通勤を原因とする「通勤災害」の3つを総称し、いずれも労災保険の補償対象です。
なお、労働安全衛生法では「労働災害」を「労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡すること(労働安全衛生法第2条第1項第1号)」と定義しています。この定義は、事業主の労働災害防止義務の範囲を定めたものであり、厳密には通勤災害を含みません。
ただしこの記事では、労災保険の対象範囲(業務災害・複数業務要因災害・通勤災害)を広く「労災」として解説します。
また労災保険は、労働災害が発生した場合に、労働者を守る保険です。
労働者が業務上や通勤中の事故によって負傷したり障害を負ったり、死亡したりした場合に、労働者やその遺族へ必要な保険給付を行います。労災保険については、記事の後半で解説します。
出典:「労働災害」(厚生労働省)
労働災害の種類と労災認定の考え方
労災は、大きく3つの種類に分けられます。労災認定の考え方とあわせて確認しておきましょう。
1. 業務災害
業務災害とは、業務上の事由による労働者の負傷、疾病、障害または死亡を指します。
災害による負傷や疾病が業務災害と認められるかどうかは、状況によって下記の3パターンに分けられます。
(1)事業主の支配・管理下で業務に従事していた際に起きた災害
就業時間中、事業場の施設内において業務に従事している際に生じた災害は、労働者の業務としての行為や事業場の施設・設備の管理状況などが原因となって発生したものと考えられます。
したがって、労働者が故意に災害を発生させるなど特段の事情がない限り、業務災害と認められます。
<認められる可能性が高い例>
- 工場での作業中、機械に指が挟まりケガをした
<認められる可能性が低い例>
- 労働者が故意に設備を破損させ、その際にケガをした
(2)事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない際に起きた災害
(昼休みや就業前後など)
昼休みや休憩時間、就業時間の前後など、就業時間外に事業場の施設内に滞在し、かつ業務に従事していないときに発生した災害は、原則として業務災害とは認められません。
ただし、事業場の施設・設備や管理状況などが原因で発生した災害は、ほとんどの場合で業務災害となります。
<認められる可能性が高い例>
- 休憩中に社内の電灯が落下し、ぶつかってケガをした
<認められる可能性が低い例>
- 就業後、施設内の中庭でキャッチボールをしてケガをした
(3)事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事していた際に起きた災害
(出張や社用での外出など)
出張や社用での外出など、事業場の施設外であっても、目的地への移動や宿泊を含め業務遂行に通常伴う行動の際に発生した災害は、観光や私用の買物など私的な行為中に発生したなど特段の事情がない限り、一般的には業務災害と認められます。
<認められる可能性が高い例>
- 社用で外出し、訪問先で転んでケガをした
<認められる可能性が低い例>
- 出張中、就業後に業務に関係のない寄り道をし、自転車事故に遭ってケガをした
【業務上の疾病】
業務災害には、ケガだけでなく疾病も含まれます。
業務上の疾病とは、事業主の支配下において有害因子(労働者の健康に悪影響を及ぼすおそれのある要因)にさらされたことにより発症した疾病のことです。
この「有害因子」には、化学物質や粉じんなどの物理的・化学的要因のほか、騒音・振動・温度・放射線といった作業環境要因、さらには過重労働や強い心理的負荷などの精神的要因も含まれます。
一般的には、次の3要件が満たされる場合、原則として業務上の疾病と認められます。
<業務上の疾病と認められる要件>
- 要件1:労働の場に有害因子が存在していること
- 要件2:健康障害を起こしうるほどの有害因子にさらされたこと
- 要件3:発症の経過および病態が医学的にみて妥当であること
<業務上の疾病の例>
- 塗装作業により有機溶剤を長期間吸入した結果、頭痛・めまい・肝障害を発症した
- 度重なる残業などの長時間労働によりうつ病を発症し、就業できなくなった
2. 複数業務要因災害
複数業務要因災害とは、複数事業労働者が2つ以上の事業の業務を要因として、傷病等にり患することです。なお、複数事業労働者とは、傷病等が生じた時点において、事業主が同一でない2つ以上の事業場で働いている労働者を指します。
対象となる傷病は、脳・心臓疾患や精神障害などです。
複数の事業場における業務上の負荷(労働時間やストレスなど)を総合的に評価して、労災と認定できるか判断します。複数事業労働者であっても、1つの事業場のみの業務の負荷によると判断された場合は、業務災害と認定されます。
<複数業務要因災害と認められる可能性が高い例>
- A社とB社の2社に雇用されている労働者が、A社で月40時間、B社で月80時間の時間外労働を強いられ、うつ病を発症した
- C社とD社でパートとして就業している労働者が、C社で週30時間、D社で週35時間勤務し、D社で就業中に心筋梗塞を発症した
3. 通勤災害
通勤災害とは、通勤によって労働者が受けたケガや病気を指します。
通勤災害でいう「通勤」とは、下記の3つです。
- 住居と就業場所とのあいだで往復しているとき
- 就業している場所からほかの就業場所へ移動しているとき
- 単身赴任先の住居と帰省先の住居との間で移動しているとき
ただし、寄り道して合理的な経路から外れたり、途中で通勤と関係のない行動をとったりした場合には、そのあいだおよびその後の移動は対象外となります。
<通勤災害と認められる可能性が高い例>
- 自宅から会社に出勤する途中、交通事故に遭い負傷した
労災が発生したときの対応
労災が発生した場合、事業主は被災した労働者(被災者)の治療にあたるだけでなく、労災を補償する義務、労災を報告する義務、労働災害を防止する義務が課されます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
被災者の治療と初動対応
労災が発生した場合、まず最優先すべきは被災者の救護です。
最寄りの労災指定病院などで速やかに治療を受けさせましょう。重大な災害であれば、救急車の出動要請、警察への通報、労働基準監督署への連絡も必要です。
なお、労災保険と健康保険の違いにも注意が必要です。
労災による治療は健康保険の対象外であり、労災指定病院では治療費が直接監督署へ請求されます。
やむを得ず労災指定病院以外で治療を受けた場合は、一時的に労働者が費用を立て替え、後日申請によって給付を受けます。
■健康保険と労災保険
参考:「お仕事でのケガ等には、労災保険!」(厚生労働省)をもとに作成
労災を報告する義務(災害発生時の報告義務)
被災者の治療と並行して、事業主には労働基準監督署への報告義務があります。
労災により被災者の休業が4日以上となったり、死亡したりした場合、遅滞なく「労働者死傷病報告」を所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。また、被災者の休業が4日未満の場合、期間ごとに発生した労働災害を取りまとめた報告も必要です。
<休業4日未満の場合の報告期限>
- 1~3月分:4月末日まで
- 4~6月分:7月末日まで
- 7~9月分:10月末日まで
- 10~12月分:1月末日まで
なお、提出された報告や申請書類をもとに、労災に該当するかどうかを認定するのは、労働基準監督署長です。
そのため、報告の段階では、「いつ・どこで・誰が・なぜ災害に遭ったか」などの事実関係を正確に把握・記録しておくことが重要となります。
記録内容は、次のような局面でも活用されます。
- 労働安全衛生法違反・業務上過失致死傷の捜査への対応
- 労災保険給付を超える部分について労働者からの賠償請求
大きな事故では、警察や監督官の現場検証などが行われることもあるため、可能な限り現場や労災発生時の資料の保存に努めましょう。
労災を補償する義務(労災保険給付の手続き)
労災保険による補償を受けるためには、労働者または遺族が労働基準監督署に申請書類を提出する必要があります。
ただし、実務上は会社の証明や添付書類が多く、事業主が代理して手続きを行うのが一般的です。
労働基準監督署では、提出書類やヒアリング結果をもとに保険給付の認定が行われます。
労働災害を防止する義務(再発防止策)
労災の発生原因を明らかにした後は、同様の災害を再び起こさないための再発防止策を講じる必要があります。
直接的な原因(機械の故障、作業ミス)だけでなく、間接的な要因(作業手順の不備、安全教育の欠如など)にも目を向け、改善策を検討しましょう。
「労働災害再発防止対策書」として記録し、定期的に見直すことで、安全管理体制の継続的な改善につなげられます。
労災保険の種類
労災保険は、雇用保険や健康保険とはやや性質が異なる保険です。労災保険の概要や対象となる者、補償内容について解説します。
労災保険とは?
労災保険とは、雇用されている立場の労働者が業務中や通勤途中の事故によりケガをしたり障害を負ったり、あるいは死亡した場合に保険給付を行う制度です。
被災した労働者やその遺族の生活保護を目的とした補償制度であり、企業の安全配慮義務違反による損害賠償金を補填するものではありません。
なお、労災保険は事業所ごとに加入しますが、その対象者は、正社員だけでなく、契約社員や派遣社員、パートやアルバイトなど、雇用形態の名称を問わずその事業所に雇用されて働く人です。派遣社員については、派遣元が労災の対応をしますが、労働者死傷病報告は派遣先、派遣元の両方で提出をします。一方で、雇用関係のない役員やフリーランスなどは、労災保険の対象となりません。
具体的な例は下記のとおりです。
<労災保険の対象者の例>
- すべての一般労働者(アルバイトやパートタイマー、日雇い労働者などを含む)
- 船舶所有者に雇用されている船員などの労働者
- 派遣労働者(派遣元事業場で適用される)
- 海外への出張者
<労災保険の対象外の者の例>
- 企業や法人の(雇用関係を持たない)役員
- 事業主と同居している親族
- 海外赴任・駐在者
- 一人親方
- 自営業者、フリーランス、個人事業主
<特別加入制度について>
上記の労災保険対象外の者であっても、業務の実態や災害の発生状況からみて労働者に準じた保護が必要と認められる場合には、本人の意思で労災保険に任意加入できる「特別加入制度」があります。
中小事業主等、一人親方等、特定作業従事者、海外派遣者が対象で、2024年11月からはフリーランスも対象に加わりました。特別加入は個人または団体が申請するもので、企業の加入義務とは別の仕組みです。
労災保険の補償内容
労災保険で受けられる補償には、さまざまな種類があります。ここでは、代表的なものを5つ紹介します。
■労災保険の代表的な補償内容
| 給付名 | 内容 |
| 療養(補償)等給付 | 業務災害、複数業務要因災害または通勤災害による傷病により療養する場合の給付。労働者は自己負担なしで、労災指定医療機関において治療が受けられる(※1) |
| 休業(補償)等給付 | 業務災害、複数業務要因災害または通勤災害による傷病の療養のため、労働することができず、賃金を受けられないときの給付。休業特別支給金を含めると、休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の80%(※2)相当額が支給される |
| 障害(補償)等給付 | 業務災害、複数業務要因災害または通勤災害による傷病が治癒(症状固定)した後に、障害が残った場合の給付。障害の程度に応じ、一時金や年金が支給される |
| 介護(補償)等給付 | 障害(補償)年金または傷病(補償)年金受給者のうち、等級が第1級または第2級の「精神・神経の障害および胸腹部臓器の障害」であり、かつ現に介護を受けているときに支給される給付 |
| 遺族(補償)等給付 | 業務災害、複数業務要因災害または通勤災害により労働者が死亡したとき、遺族に支払われる給付。遺族に対して年金や一時金が支給される。遺族(補償)年金を受け得る遺族がいない場合は、所定の一時金が支給される |
- 労災指定以外の医療機関で治療を受けた場合は、立て替え後に費用の支給を受ける
- 給付基礎日額の60%相当額、休業特別支援金:給付基礎日額の20%相当額
労災が起きたときの相談窓口
労災が起きた場合、実施しなければならない手続きがたくさんあります。主な相談先は所轄の労働基準監督署ですが、状況に応じて、総合労働相談コーナーや労働条件相談ほっとラインなどを利用しましょう。
また、社会保険労務士や弁護士に相談するのも有効です。
<公的な相談窓口>
- 労働基準監督署
役割:労災保険の給付申請や労働災害の調査・指導などを行う行政機関。
相談内容:労災の報告・認定手続き、労災かくしの通報、安全衛生管理の指導など。
URL:全国労働基準監督署の所在案内
- 総合労働相談コーナー
役割:労働条件や雇用トラブルなど、労働全般の相談を受け付ける公的窓口。
相談内容:労災に関する初期相談、労働条件・ハラスメント・解雇などの相談対応。
URL:総合労働相談コーナーのご案内
- 労働条件相談ほっとライン
役割:厚生労働省が運営する電話相談窓口で、夜間・休日にも対応。
相談内容:労働時間・賃金・労災補償制度などの一般的な問い合わせや制度確認。
URL:労働条件相談ほっとライン
<民間の主な相談先>
- 社会保険労務士
- 弁護士
労災保険を補完する民間保険商品
労災保険ではカバーしきれない収入減少や生活費の補填として役立つのが、労災上乗せ保険といわれる民間保険商品です。
AIG損保では、病気になっても社員が安心して働ける「業務災害総合保険(ハイパー任意労災)」をご用意しています。ぜひ、加入をご検討ください。
よくある質問
- Q.労災が認められる条件とは?
労働者がケガをしたり病気になったりした際、それが事業主の支配・管理下で働いているときや通勤しているあいだに発生した場合は、労災と認められます。
具体的には「工場での作業中、機械に指が挟まりケガをした」「自宅から会社に出勤する途中、車と接触して負傷した」といったケースです。詳しくは、以下の項目をご確認ください。
労働災害の種類と労災認定の考え方- Q.労災と認められない事例は?
昼休みや休憩時間など、就業時間外で業務に従事していないときに発生した災害は、原則として労災とは認められません。
このほか、会社から自宅への帰りに寄り道して合理的な経路から外れたり、途中で通勤と関係のない行動をとったりした場合のケガや病気も、労災の対象外となります。詳しくは、以下の項目をご確認ください。
労働災害の種類と労災認定の考え方
<監修>
山本 喜一(やまもと きいち)
特定社会保険労務士、公認心理師、精神保健福祉士
上場支援、相談窓口の設計・対応支援、ハラスメント、個性の強い社員、メンタルヘルス不調者対応などを得意とする。著書「補訂版 労務管理の原則と例外 働き方改革関連法対応」新日本法規、「労働条件通知書兼労働契約書の書式例と実務」日本法令、「IPOの労務監査標準手順書」日本法令、「相談者を裏切らない 機能する社内相談窓口のつくり方」中央経済社など多数。
お客さまのグローバルビジネスに、世界基準の知見とノウハウを
経験豊富な担当者が、コーポレートリスクに関するアドバイスから
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