建設業や製造業などの現場で作業員を指導・監督する職長には、労働安全衛生法により特別な教育の受講が義務づけられています。しかし、職長教育の具体的な内容や対象者、受講方法について詳しく知らない経営者や人事担当者も多いのではないでしょうか。
この記事では、職長教育の基本的な概要から対象者、カリキュラム内容、安全衛生責任者教育との違い、受講方法まで詳しく解説します。
職長教育とは?
職長教育とは「職長等安全衛生教育」ともいい、建設現場や製造現場などで作業員を指導・監督する職長に対して実施する、法定教育のことです。
労働安全衛生法第60条により、政令で定める業種の事業者には職長に任命した者に対して必要な教育を受けさせる義務があります。
ここでは、職長教育の目的、職長に求められるスキル、そして職長教育が企業の義務であることについて解説します。
出典:「労働安全衛生法」(厚生労働省)
安全衛生については、下記の記事をご覧ください。
職長教育の目的
職長教育の目的は、現場での労働災害を防止し、安全で健康的な職場環境を確保することです。具体的には以下の3つの目的があります。
・労働災害を防止し、現場全体の安全レベルを向上させる
・万が一災害が発生した場合の、企業への影響を最小限に抑える
・労働安全衛生法に基づく企業の法的責任を履行する
職長は、これらの目的を達成するための適切な安全知識と指導技術を身につける必要があります。
職長に求められるスキル
職長は、建設現場や製造現場などの作業現場において、作業計画の立案や安全指導を担う現場責任者です。安全管理、品質管理、工程管理の中核的存在として、現場全体の円滑な運営を支える重要な役割を果たします。
職長には特別な資格は必要ありませんが、現場作業員への教育指導力が強く求められます。
具体的には、以下のようなスキルです。
<職長に求められる主なスキル>
・トラブルが発生した際の迅速な対応能力
・危険要因を事前に察知し適切な対策を講じるリスクアセスメント力
・作業員と円滑に意思疎通を図るコミュニケーション能力 など
職長教育では、これらの能力習得を目指したカリキュラムが組まれています。
職長教育は企業の義務
職長教育は労働安全衛生法第60条により、事業者に課せられた義務です。
この教育を受けさせずに職長業務を行わせることは違法行為となり、労働基準監督署による是正勧告や処罰の対象となる可能性があります。
<職長教育に関する主要な法令>
・労働安全衛生法第60条:職長教育の実施義務を規定
・労働安全衛生法施行令第19条:職長教育の対象となる業種を明記
・労働安全衛生規則第40条:教育内容や実施時間などの詳細を規定
また、職長教育は、職長が職務を開始する前に行う必要があり、法令や技術の進歩に応じて内容の更新や、再教育が推奨される場合もあるので注意が必要です。企業にとって職長教育は単なる法的義務ではなく、現場の安全確保と生産性向上を実現するための重要な投資といえるでしょう。
出典:「労働安全衛生法 第60条」「労働安全衛生法施行令 第19条」「労働安全衛生規則 第40条」(厚生労働省)
職長教育の対象者
職長教育の対象となるのは、建設業・製造業・電気業など、労働災害が発生しやすい危険な作業を行う業種で、現場作業者を監督する立場にある者です。
主に、一定の実務経験を持つ現場責任者やリーダー層が受講対象となります。
<対象業種>
・建設業
・製造業(※)
・電気業
・ガス業
・自動車整備業
・機械修理業
※たばこ製造業、繊維工業(紡績業及び染色整理業を除く)、衣服その他の繊維製品製造業、紙加工品製造業(セロファン製造業を除く)は除く
出典:「労働安全衛生法施行令 第19条」(厚生労働省)「4月1日から、職長等教育の対象業種が拡大となり、義務化されました!」(仙台労働基準監督署)
職長教育のカリキュラム内容
職長教育は通常、2日間(合計12時間程度)の講義で、座学と演習を組み合わせて実施されます。受講資格に特別な制限はなく、誰でも受講可能です。
ここでは、職長教育の講習時間と主な学習内容、実践的なトレーニングについて解説します。
講習時間と主な学習内容
職長教育のカリキュラムは、労働安全衛生規則第40条により以下のように定められています。各項目には最低実施時間が設定されており、確実な知識習得を目指した構成となっています。
■職長教育カリキュラム
教育項目 |
時間 |
作業方法の決定および労働者の配置に関すること 1. 作業手順の定め方 2. 労働者の適正な配置の方法 |
2時間 |
労働者に対する指導または監督の方法に関すること 1. 指導及び教育の方法 2. 作業中における監督及び指示の方法 |
2.5時間 |
危険性または有害性等の調査およびその結果にもとづき講ずる措置等に関すること 1. 危険性又は有害性等の調査の方法 2. 危険性又は有害性等の調査の結果に基づき講ずる措置 3. 設備、作業等の具体的な改善の方法 |
4時間 |
異常時等における措置に関すること 1. 異常時における措置 2. 災害発生時における措置 |
1.5時間 |
その他現場監督者として行うべき労働災害防止活動に関すること 1. 作業に係る設備及び作業場所の保守管理の方法 2. 労働災害防止についての関心の保持及び労働者の創意工夫を引き出す方法 |
2時間 |
合計 |
12時間 |
出典:「労働安全衛生規則 第40条」「職長等教育の対象業種が拡大 となり、義務化されました!」(厚生労働省)
グループ演習や実践的なトレーニング
職長教育では、座学に加えて実践的な演習も重視されています。グループディスカッションやロールプレイを通じて、現場に即した状況判断力やリーダーシップを身につけることが目的です。
演習内容には、災害事例をもとにした原因分析や、リスクアセスメントの実践、KY(危険予知)活動の模擬訓練などが含まれます。これにより、受講者は知識を単に理解するだけでなく、現場で活用できるスキルとして定着させることができます。
職長教育と安全衛生責任者教育の違い
職長教育と安全衛生責任者教育は、いずれも現場の安全管理を担う人材を育成するための重要な制度ですが、それぞれの教育には明確な違いがあります。
ここでは、教育対象・対象業種、そして講習内容の違いを解説します。
安全衛生責任者については、下記の記事をご覧ください。
教育対象と対象業種の違い
職長教育と安全衛生責任者教育は、それぞれ役割の異なる人材を対象とし、また、業種にも違いがあります。
■職長教育と安全衛生責任者教育の教育対象・対象業種
職長教育 |
安全衛生責任者教育 |
|
教育対象 |
現場で作業員を直接指導・監督する立場の者(特定の役職名は不要) |
統括安全衛生責任者と連携し、現場の安全衛生を行う責任者(安全衛生責任者) |
対象業種 |
建設業、製造業、電気業など広範な業種が対象 |
建設業および造船業に限定 |
講習内容の違い
職長教育と安全衛生責任者教育のカリキュラムは多くの項目で共通していますが、安全衛生責任者教育では、職長教育の内容に加え「安全衛生責任者の職務に関すること」と「総括安全衛生管理の進め方」の2項目が追加されます。
これにより、職長教育の講習時間が12時間であるのに対し、安全衛生責任者教育の講習時間は14時間となっています。
■安全衛生責任者教育のカリキュラムで追加される講習内容および時間
教育項目 |
安全衛生責任者教育 (時間) |
安全衛生責任者の職務に関すること 1. 安全衛生責任者の役割 2. 安全衛生責任者の心構え 3. 労働安全衛生関係法令等の関係条項 |
1時間 |
総括安全衛生管理の進め方 1. 安全施工サイクル 2. 安全工程打合せの進め方 |
1時間 |
参考:「建設業における安全衛生責任者に対する教育及び職長等教育講師養成講座等のカリキュラムの改正について」(安全衛生情報センター)
職長教育の受講方法
職長教育は、全国の主要都市を中心に、厚生労働省に登録された教習機関などが定期的に開催しています。
なお、建設業などを対象に「職長教育」と「安全衛生責任者教育」を一体化した「職長・安全衛生責任者教育」の受講も可能です。対象者にとっては、両方の教育を同時に受講できるため、効率的な受講方法といえるでしょう。
受講に際して特別な資格は必要なく、企業の人事担当者や安全衛生責任者が従業員に受講を指示することで、参加することができます。
<職長教育の受講概要>
・開催場所:全国の労働局登録教育機関や民間講習機関にて実施
・日程:基本は2日間(12時間・安全衛生責任者教育を含めると14時間)
・申込方法:各教育機関の公式サイトからWeb申し込みが可能
・講習費用:1万円台〜2万円台が一般的(機関により異なる)
・講習修了証:全カリキュラム修了後に修了証が発行される
<職長教育のオンライン講習>
近年、職長教育においてもeラーニングによるオンライン講習が広がっています。オンライン講習は、場所や時間を選ばず受講できる点がメリットです。
なお、厚生労働省が定める要件を満たしていないオンライン講習は、修了証が認められない可能性があります。受講前に、講習機関が厚労省の基準に準拠しているかを必ず確認しましょう。
出典:「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」(厚生労働省労働基準局安全衛生部)
再教育(能力向上教育)は必要?
職長教育は資格ではないため、一度受講したあとに有効期限はありませんが、現場のリスクや法令、技術は日々変化しているのが実情です。こうした状況を踏まえ、「安全衛生教育等推進要綱(平成3年1月21日付け基発第39号別添)」では職長等に対して概ね5年ごとに再教育を受けさせることを推進しています。
<再教育を実施する主な理由>
・職長としての知識や判断力の維持・強化
・新設備・新技術の導入による新たなリスクへの対応
・過去の災害事例を踏まえた安全意識の再確認
・安全衛生責任者との役割の整理・再共有
<再教育の実施タイミング>
・目安として「5年に1度」の実施が一般的
・組織変更や業務内容の大幅な変更時
・新たな機械設備や作業手順が導入されたとき など
中でも、建設業については、厚生労働省の通達(基発0220第3号平成29年2月20日)で、再教育について実施が求められています。
■職長・安全衛生責任者の再教育カリキュラムの例(建設業の場合)
項目 |
講習内容 |
職長等および安全衛生責任者として行うべき、労働災害防止に関すること(120分) |
・建設業における労働災害発生状況 ・労働災害の仕組みと発生した場合の対応 ・作業方法の決定及び労働者の配置 ・作業に係る設備及び作業場所の保守管理の方法 ・異常時等における措置 ・安全施工サイクルによる安全衛生活動 ・職長等及び安全衛生責任者の役割 |
労働者に対する指導または監督の方法に関すること(60分) |
・労働者に対する指導、監督等の方法 ・効果的な指導方法 ・伝達力の向上 |
危険性または有害性等の調査等に関すること(30分) |
・危険性または有害性等の調査の方法 ・設備、作業等の具体的な改善の方法 |
グループ演習(130分) |
・災害事例研究 ・危険予知活動 ・危険性又は有害性等の調査及び結果に基づき講ずる措置 ※上記のうち1つ以上を実施すること |
出典:「建設業における職長等及び安全衛生責任者の再教育」「安全衛生教育等推進要綱」(厚生労働省)
職長教育は現場の安全と法令遵守を支える第一歩
職長教育は、作業員の指導・監督を行う職長にとって不可欠な法定教育です。
安全衛生責任者教育との違いや対象業種、講習内容を正しく理解することで、現場の安全性を高め、企業としての法令遵守も実現できます。近年はオンライン受講も普及していますが、厚生労働省の定める要件を満たしているかを必ず確認することが大切です。
教育後も定期的な再教育を通じて知識や意識の更新を図り、企業として継続的に安全管理体制を強化していくことが、現場の信頼と持続的な成長につながるでしょう。
※本原稿は2025年8月26日時点の法令にもとづいて作成しています
監修者プロフィール:
山本喜一(やまもときいち)
特定社会保険労務士、公認心理師、精神保健福祉士
上場支援、相談窓口の設計・対応支援、ハラスメント、個性の強い社員、メンタルヘルス不調者対応などを得意とする。著書「補訂版 労務管理の原則と例外 働き方改革関連法対応」新日本法規、「労働条件通知書兼労働契約書の書式例と実務」日本法令、「IPOの労務監査標準手順書」日本法令、「相談者を裏切らない 機能する社内相談窓口のつくり方」中央経済社など多数。
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