輸送

特定技能の外国人ドライバーはトラック運送業に定着するのか? ドイツの事例から探る日本の課題

2026年5⽉26⽇ 公開

トラック運送業における特定技能外国人ドライバーの現状

2024年3月、特定技能1号の対象分野に「自動車運送業」が追加されました。制度の開始直後は様子見の企業が目立ったものの、足元では外国人トラックドライバーの受け入れが加速しています。

出入国在留管理庁(法務省)のデータによると、自動車運送業分野の特定技能1号在留外国人は、2025年6月末時点の10人から、半年後の12月末には151人へと増加しました。

また、特定技能の資格を取得するための試験を受ける外国人も増加傾向にあります。2026年3月に実施された自動車運送業分野特定技能1号評価試験(トラック)の受験者数は408人、合格者数は273人でした。多くの外国人がトラックドライバーとして日本で就労することに関心を持っています。

大手宅配事業者が、外国人ドライバーの大量採用に踏み切るとの報道もあり、特定技能外国人の採用市場は大きく動きを見せ始めました。

トラック運送業における特定技能外国人ドライバーの要件と費用

一方で、外国人ドライバーの採用は容易ではありません。現状では「採算が合わない」というシビアな意見も聞かれます。

外国人トラックドライバーの就労要件と受け入れの流れ

外国人トラックドライバーの就労要件は以下の通りです。

  • 18歳以上
  • 健康状態が良好
  • 自動車運送業分野特定技能1号評価試験に合格
  • 日本語能力試験N4以上に合格
    (または国際交流基金日本語基礎テスト、技能実習2号の良好修了でも可)

求職者は専門知識と技能を習得するだけでなく、一定水準の日本語能力も証明しなければなりません。

外国人トラックドライバーを受け入れる際は、人材紹介会社から紹介を受け、登録支援機関と連携し、採用プロセスを進めます。

採用プロセスは、雇用する外国人の方の条件により、異なります。

  • 国内の免許を持つ日本在住の外国人
  • 外国の免許のみを持つ日本在住の外国人
  • 外国の免許のみを持つ海外在住の外国人

国内免許を取得していない場合、外免切替の手続きが必要です。免許取得までの最大6ヶ月間は「特定活動」という在留資格になり、免許取得後に「特定技能」へ変更します。海外在住の求職者は渡航の準備も欠かせません。

また、受け入れ企業と登録支援機関は、自動車運送業分野特定技能協議会への加入が必須です。ここまでのプロセスが示すように、外国人トラックドライバーが実稼働に至るまでには多大な労力がかかります。

外国人トラックドライバーの採用にかかる費用

外国人トラックドライバーの採用にかかる主な費用目安は、次の通りです。

項目 費用目安
人材紹介費 〜60万円
支援委託費 〜5万円(月額)
ビザ取得・申請費用 〜20万円
渡航・国内の移動費用 〜15万円
住居・初期費用、その他 実費
※法人契約の場合、敷金・礼金・仲介手数料等の初期費用負担は必須

上記のほか、免許取得までに発生する特定活動の期間中であっても、受け入れ企業には給与の支払い義務が生じます。

実務に就く前の段階から人件費が発生するだけでなく、免許取得にかかる費用も受け入れ企業が負担することが望ましいとされています。対象となる求人者の条件によって、費用は異なりますが、上記の費用目安を合計すると約100万円です。

報酬額は、「日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること」が法律で定められており、待遇面でも差別が許されないため、転職の自由も認めなければなりません。定着を促す環境や待遇の構築が必要です。

企業はこれらのリスクやコストを事前に把握し、長期的な視点での投資対効果を見極めなければなりません。このような課題があるなか、特定技能の外国人ドライバーは、運送業に定着するのでしょうか。

特定技能の外国人ドライバーは運送業に定着するのか?

運送業では、特定技能の外国人トラックドライバーが増加傾向にあるものの、定着するかどうかは、先駆けとなる企業の取り組み次第でしょう。ここからは、外国人トラックドライバーに対する、日本国内や外国人材の反応を紹介します。

日本国内の反応

外国人ドライバーの採用に対しては、さまざまな意見があります。一部では、外国人材の増加による治安の悪化を心配する声や交通事故の増加を危惧する声もあるのが現状です。また「人手不足を補うためではなく、安価な労働力を補うための制度ではないか」と疑う声も依然として根強い傾向にあります。

しかし前提として、特定技能制度は即戦力となる外国人を受け入れる制度です。企業は日本人の労働者と同等以上の待遇で受け入れをする義務があり、制度が適正に機能すれば、過去の技能実習制度で問題視されたような人権侵害は起こりえません。特定技能外国人の採用を進める企業は、コンプライアンスを守り、外国人トラックドライバーと共に社会的信頼を築いていくことが求められます。

今後、国内の労働力人口に限定すれば、人手不足は避けられません。先行して受け入れを始めた企業は、早期にノウハウを蓄積し、将来的な人材確保における優位性の確立を狙っています。さまざまな世論があるなか、2026年現在では、中小の運送企業においても外国人材の採用が着実に進み始めています。

外国人材の反応

日本で働くことについて、外国人材はどのように感じているのでしょうか。マイナビグローバルが実施した「日本在留外国人の日本での就労意欲・特定技能への意識に関する調査」によると、日本在留外国人(注:業種等を問わない)の92.3%が「今後も日本で働きたい」と回答しました。日本での就労意欲は高い水準にあります。

ただし、この調査の対象はあくまで日本に在留している外国人です。国外にいる外国人材の、日本就労に対する意欲や需要までを正確に裏付けるものではありません。

一方で、日本在留外国人であっても、日本で働きたくない理由も存在します。同調査で明らかになった上位項目は、次の3つです。

  1. 円安だから(35.5%)
  2. 給料が低いから(26.3%)
  3. 母国で家族と住みたいから(25.0%)

外国人材からすれば、円の価値が下がると、母国への送金額が目減りしてしまいます。為替変動リスクは、外国人材にとって大きな問題です。外国人ドライバーの採用を推進する場合、こうした課題も念頭におく必要があります。

10万人のドライバーが不足するドイツの事例

外国人ドライバーの採用について、ドイツの事例は示唆に富んでいます。ドイツでもトラックドライバー不足は問題視されており、2025年時点で10万人の不足が報じられました。

企業の口コミサイト「kununu」がドイツのトラックドライバー5,481人に実施した調査では、28,400ユーロから51,100ユーロまでの年間給与幅が確認され、平均年収では36,300ユーロ。現在の日本円に換算すると、1ユーロ=185円前後と仮定して平均年収は約671万円になります。ドイツ国内全体の給与レンジと比較すると、低い水準ではあるものの、外国からの求職者にとっては魅力的です。

十分な収入が認められれば、配偶者や子供を帯同することも可能になります。「日本で働きたくない理由」として挙げられていた上位項目「円安」「低賃金」「家族と住みたい」の3つは、ドイツではおおよそ問題にならないといえるでしょう。

注目すべきは、受け入れを促し、定着させる仕組みがある点です。ドイツでは、基本的に5年間の就労を経て、定住権を申請できます。条件を満たした熟練労働者に関しては、3年間で定住権を申請できるルールもあり、環境に慣れたタイミングで帰国しなければならないといったリスクがありません。またドイツの年金制度では、5年間保険料を納めることで、受給資格が発生します。外国人労働者が母国に帰国した後も、ドイツから年金を受給できるため、将来への不安も緩和されるでしょう。

2025年には、労働力不足の解消に向けて、700人のウズベキスタン人をドイツのドライバー(トラック、バス、機関車)として受け入れるための訓練がスタートしました。

ドイツは外国人を一時的な労働力としてではなく、社会の一員、住民として受け入れる体制を整えています。国の手厚い支援が、外国人ドライバーの誘致と定着を後押ししているのです。

これに対し、現在、日本のトラック運送業には「特定技能1号」しか認められておらず、在留資格は最長5年まで、家族の帯同も認められません。一方で、建設業や造船・船舶工業などで認められている「特定技能2号」は、在留資格の更新制限がなく、条件を満たせば家族の帯同も認められる制度です。

日本のトラック運送業が労働力不足を外国人ドライバーで補うには、特定技能1号で外国人材を雇用する実績を積み、近い将来、特定技能2号を認められる方向性が望ましいでしょう。そうでなければ、国際的な人材獲得競争において安定した人材の確保は難しいのではないでしょうか。

前述したマイナビグローバルの調査では、76.3%の日本在留外国人が「5年以上働きたい」と回答しています。

人手不足の打開策から、持続可能な経営戦略へ

トラック運送業における特定技能外国人の受け入れは、始まったばかりです。採用コストや免許取得のハードル、円安による就労意欲の低下など、解決すべき課題は少なくありません。

しかし、労働力不足は目前に迫っています。安定した輸送能力を確保するためには、外国人材の雇用が避けられないといっても過言ではないでしょう。ドイツの事例が示すように、外国人ドライバーに対して長期的なキャリア形成や生活の安定を視野に入れた環境の整備が求められます。

特定技能外国人の採用を先行投資と捉え、その手法を構築できるか否かが、今後、企業の競争力を左右する分岐点となるかもしれません。

ライター:田中なお(物流ライター)
発⾏:AIG損害保険株式会社 海上保険部

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