世界のリスク事例

海外における企業の環境汚染に関する訴訟[ESG経営のリスクマネジメント:Environment(環境)]

2024年4⽉8⽇ 公開

ESG経営は未来ではなく、もう⾜元にある

海外進出する⽇本企業に求められる ESG経営の重要性

サステナブルな社会の実現を⽬指し、世界のテーマとして事業課題と社会的課題の融和が叫ばれています。

多くの企業が実務的なESGアクションを模索・実⾏し始めるいま、グローバルでは企業が起こす事故がESGというキーワードをきっかけに、巨額の訴訟に発展する動きが始まっています。

重要度が⾼まる企業のタイムリーな情報開⽰

訴訟の⽭先は企業を超えて役員にも向けられる

特にアメリカでは、近年の社会的注⽬から、株主・投資家に対するESG情報開⽰において、特別の⺠事責任が定められている法定開⽰書類における情報開⽰のほか、適時な開⽰を弁護⼠や専⾨家に相談する猶予なく要求される場合があります。 

ESG関連のイベントが発⽣した際の会社による情報開⽰に起因して会社や役員の責任が追及されたアメリカの事例をもとに、⽇本において類似の事例が⽣じた場合のリスクについて⼀緒に検証してみましょう。

ダム決壊が招いた、証券訴訟の例

産業と環境に介在するリスク

『廃滓ダム』とは

それは鉱⼭などに設置されているダムのこと。
⼀般的な治⽔や利⽔を⽬的とするダムと⼤きく役割が異なります。

採掘した鉱⽯から⽬的の鉱物を得るには、粉砕して分離したり、薬品を使って選別したり、多くの⼯程が必要になります。その際に、⼤量の廃滓(廃棄物)も出ます。

廃滓ダムは、操業⼯程で出る廃棄物の⼀時的な保管所の役割を持ち、岩⽯や不⽤な鉱物を含み、堆積物の中には重⾦属や有害な化学物質も含まれます。

廃滓ダムの決壊事故は、⼟砂被害や⼟壌汚染など、環境へのインパクトがとても⼤きく、企業や役員の責任を追及する証券訴訟に発展する可能性もあります。

企業崩壊のはじまりは、ダムの決壊

B社が管理するブラジルの鉄鉱⽯鉱⼭にある廃滓ダムで決壊事故が発⽣。
270⼈が死亡するとともに、甚⼤な環境被害、社会的被害が⽣じました。
これを受け、B社の⽶国における時価総額は40億ドル以上も下落しました。

⽶国上場企業であるブラジルのB社 ⽶国にて株主による証券訴訟が始まる

事故からわずか3⽇後

B社の株主は、会社と役員に対して、アメリカで証券訴訟を提起。

その理由は、B社が開⽰していた事業やダム決壊の潜在的リスク評価に、虚偽かつ誤解を招く内容があったというもの。

B社はブラジルの資源⼤⼿。ニューヨーク証券取引所の上場企業でもあったため、アメリカでの証券訴訟となりました。

向けられる疑惑の⽬と始まる虚偽への責任追及

原告側の主張をまとめると

重要な情報について虚偽の情報開⽰をし、または情報を隠ぺいしたと主張しました。

責任追及の加速を確かなモノにした原因が

原告側が責任追及するには背景があった

実はB社、
この事故の4年前、2015年にも同様のダム決壊事故を起こしていたのです。

その時の真摯な姿勢に、 虚偽はなかったかもしれない

B社は「将来同様の惨事を繰り返さない」、「ダムの安全性に対する監査や監督を含めた検証を進める」などのコミットメントを公表していました。

今回の原告訴訟代理⼈は、2015年の事故後のB社による情報開⽰は、虚偽かつ誤解を招く内容であったと述べています。

アメリカにおいてESGに対する社会と法の⽬は、 想像以上に厳しい

B社側は訴えの却下を求める申⽴てを⾏っていたが、裁判所は申⽴ての⼀部を却下。

論点は、 場当たり的な意思表明か、責任ある情報開⽰か

ここで注⽬すべき点は

「持続可能性はコアビジネスの⼀部を構成する」

「鉱⼭企業が⽣き残っていくためには環境的、社会的及び経済的に持続可能であることが必要である」

鉱⼭企業であるB社のこうしたステートメントが虚偽であったなら、ダム決壊事故の責任の原因となり得ると、裁判所が判断したことです。

情報開⽰でセンシティブに⾒るべきは、
「虚偽または誤解を招く内容」であるか否か

アメリカでは、ESGに関する情報開⽰を責任の原因とする証券訴訟が⽣じています。また、⽶国証券取引委員会が設置したClimate and ESG Task Forceが、企業の不実開⽰を調査するケースもあります。

その調査により被告側が開⽰しているステートメントに「虚偽または誤解を招く内容」が認められる場合、⺠事訴訟に進展することも。

事実、2022年4⽉28⽇に、⽶国証券取引委員会によってB社に対する⺠事訴訟が提起され、2023年3⽉28⽇に、B社が5,590万ドル(⽇本円にして約75億4,650万円)(※1ドル=135円)の和解⾦を⽀払う合意をしたと公表されました。

正確性・透明性・進捗 情報開⽰ひとつで未来は⼤きく変わる

持続可能な環境の実現へ向けてアクションする企業の皆様へ

B社の事案のように、⾃社の事業が環境に⼤きな影響を与える可能性がある会社の場合、環境の安全性に関する情報開⽰の虚偽は致命的です。

株主・投資家による投資判断に重要な影響を与えたとなれば、会社や役員の責任を追及される可能性もあります。

ESGのEnvironmentにあたる環境関連の情報開⽰は、有価証券報告書などの法定開⽰書類のみならず、⾃主的に開⽰するサステナビリティ・レポートなどで積極的に開⽰していくこともあるでしょう。

その際は情報の正確性については⼗分に留意し、⾃社の管理状況の実態を精査した上で開⽰書類の記載として落とし込んでいくことが肝要といえます。

掲載情報はすべて掲載時のものです。

2023年6⽉2⽇ 公開
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