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【2025年版】台風へのそなえ(過去5年間のデータから見る傾向と対策)

2025年5⽉13⽇ 公開

台風と季節の定義

日本では低気圧における低圧部の最大風速が34knot以上のものを台風と呼び、国際的には64knot以上のものをTyphoonと呼びます。したがって厳密には国際的にいうところのTyphoonと台風とは定義が異なります。本稿では気象庁分類にしたがい、季節については、12月から2月を冬、3月から5月を春、6月から8月を夏、9月から11月を秋と気象庁の定義にしたがいます。

表1 2020年以降の月別台風発生数(気象庁のデータ1から弊社で作成)

最大風速
(m/s)
最大風速
(knot)
気象庁分類 国際分類
 <17.2 ≦33 熱帯低気圧 Tropical Depression
17.2 - 24.5 34 - 47 - 台風 Tropical Storm
24.6 - 32.6 48 - 63 Severe Tropical Storm
32.7 - 43.7 64 - 84 強い Typhoon
43.7 - 54.0 85 - 104 非常に強い
>54.0 ≧105 猛烈な

台風の盛衰

台風の進路には季節性があります。これは、太平洋高気圧の盛衰による偏西風、貿易風や海水温度が関係しています。一般的に台風の進路は上空の風により、海水温度が26.5度から27度あたりで発生しやすく、逆に30度を超えると発生しづらくなるともいわれています2

ただし、低気圧が海洋上に存在するとき、海水をかき混ぜ、少し深い部分から冷たい海水を持ち上げることで発達が鈍ることもあります。台風を含む低気圧の盛衰は、単純に海面付近の温度の高低だけではなく、温かい海水の海洋内部における深さの分布も重要な要素になります。

台風の発生時期

日本において台風は夏や秋の季節性の気象現象というイメージがありますが、実際には、台風自体は熱帯低気圧を地域と風力により定義したものであり、通年発生する可能性があります。たとえば、2021年のように、あまり日本では台風の発生のイメージのない2月にも台風が発生した事例があります。

2020年から2024年の5年間のデータからみると、近年では4月から台風が発生し始め、7月ごろから増加し、11月ごろまで複数の台風が発生する傾向が続くことがわかります。

本格的に台風が多数発生するのは6月ごろからといえますが、貨物の輸送や保管を念頭に置けば、4月ごろから台風に対するそなえを考え始める必要があります。

表2 2020年以降の月別台風発生数

  1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2020年 0 0 0 0 1 1 2 6 3 7 2 1
2021年 0 1 0 1 1 2 3 4 4 4 1 1
2022年 0 0 0 2 0 2 2 5 7 5 1 1
2023年 0 0 0 1 1 1 3 6 2 2 0 1
2024年 0 0 0 0 2 0 2 7 7 3 4 0

出所:気象庁データ1より弊社作成

台風の発生位置

台風の発生位置には季節的な傾向がみられます。台風の発生条件は海水温が関係しています。海水温度は深度ごとに温度も違うため、ここでは入手のしやすい海面水温を海水温度の代表値として、海水温度の傾向を確認します。冬や春は1年間の中では相対的に海面水温が低く、夏や秋は相対的に高くなります。図1は海面水温を季節ごとに図示し、黒線は海面水温26度の等温線を表します。今回は2023年の1月1日を冬、4月1日を春、7月1日を夏、10月1日を秋の代表値とします。

26度の等温線からわかるように、冬や春と比べて、夏と秋は26度等温線の位置がより北方の日本近海に達しており、夏と秋は相対的に高い緯度まで海水が温かいと考えられます。

冬の海面水温(1月)

春の海面水温(4月)

夏の海面水温(7月)

秋の海面水温(10月)

図1 2023年の海面水温分布図
出所:気象庁のデータ3から弊社作成

台風は、台風の盛衰の項で紹介したように、ある程度温かい温度で発生し発達します。図2では2020年から2024年の台風の発生場所をプロットし、表3では季節別に緯度・経度ごとの台風の発生数を集計したものです。

高緯度で海面水温が相対的に低い冬や春には北緯10度未満で多く台風が発生し、高緯度で海面水温が相対的に高い夏や秋には北緯10度以上で多く台風が発生する傾向がわかります。

冬:青色 春:緑色 夏:赤色 秋:橙色
図2 2020年から2024年の台風発生場所
出所:気象庁のデータ1から弊社作成、地図:© OpenStreetMap contributors

冬:青色 春:緑色 夏:赤色 秋:橙色
図2 2020年から2024年の台風発生場所
出所:気象庁のデータ1から弊社作成、
地図:© OpenStreetMap contributors

表3 2020年から2024年の季節別台風発生位置*

東経100度~
120度未満
東経120度~
140度未満
東経140度~
160度未満
東経160度~
180度未満
北緯25度以上        
北緯20~25度未満        
北緯15~20度未満        
北緯10~15度未満   1    
赤道~北緯10度未満   3 1  
東経100度~
120度未満
東経120度~
140度未満
東経140度~
160度未満
東経160度~
180度未満
北緯25度以上        
北緯20~25度未満        
北緯15~20度未満 1      
北緯10~15度未満   1    
赤道~北緯10度未満   4 3  
東経100度~
120度未満
東経120度~
140度未満
東経140度~
160度未満
東経160度~
180度未満
北緯25度以上     1  
北緯20~25度未満 1 4 9  
北緯15~20度未満 5 9 2  
北緯10~15度未満 2 8 3  
赤道~北緯10度未満     1  
東経100度~
120度未満
東経120度~
140度未満
東経140度~
160度未満
東経160度~
180度未満
北緯25度以上   1 2  
北緯20~25度未満   5 4  
北緯15~20度未満 2 4 2 2
北緯10~15度未満 3 7 12 1
赤道~北緯10度未満   3 4  

*東経180度を超えるものは含まない。
出所:気象庁データ1より弊社作成

台風の進路の季節性

本稿では2020年から2024年の台風の中心位置の記録から季節性を見ていきます。

各季節の台風の中心位置のヒートマップは、気象庁のデータを用いて弊社が作成しております。なお、中心位置は、台風に至っておらず熱帯低気圧段階の位置情報を含み、温帯低気圧に変わった後の位置情報の記録を含んでいません。

春:3月から5月ごろ

3月から5月ごろに発生する台風は、フィリピン・ルソン島南東の低緯度付近で多く発生し、多くはルソン島東方付近を台湾や日本の石垣島・宮古島などがある南西諸島方面へ北上し、日本の本州や九州に到達する前に消滅する傾向が強いです。

図3 2020年から2024年の台風中心位置通過場所のヒートマップ(春)
出所:気象庁のデータ1から弊社作成、
地図:© OpenStreetMap contributors

図3 2020年から2024年の台風中心位置通過場所のヒートマップ(春)
出所:気象庁のデータ1から弊社作成、地図:© OpenStreetMap contributors

したがって、フィリピンや台湾南部付近に物流拠点をお持ちの場合は十分注意が必要です。また、日本国内では影響を受けるリスクが低くても、南方向けや南方から来る海上輸送中に台風の影響を受ける可能性があることを考慮しなければいけません。

夏:6月から8月ごろ

6月に入ると徐々に発生地域がルソン島の北東付近へと北上します。比較的南方で発生した台風はルソン島を横断し香港やベトナム方向に向かい、北方で発生した台風は太平洋高気圧に押され九州に上陸・通過し朝鮮半島方向や日本の本州東方に北上する傾向がみられます。台湾東岸や沖縄・九州地方は台風がとくに多く通過することが見てとれます。

こうした時期には、日本では西日本、九州地方、周辺国では韓国や中国の上海・寧波などの台風の勢力域に近いところに影響が発生します。また、海上輸送においても、国際港湾である釜山、上海等の港が影響を受け、港湾の混雑や船が台風から逃げるために目的港から遠くに離れるため、スケジュールにも影響が出始めます。

図4 2020年から2024年の台風中心位置通過場所のヒートマップ(夏)
出所:気象庁のデータ1から弊社作成、
地図:© OpenStreetMap contributors

図4 2020年から2024年の台風中心位置通過場所のヒートマップ(夏)
出所:気象庁のデータ1から弊社作成、地図:© OpenStreetMap contributors

秋:9月から11月ごろ

夏と比較して低緯度の南方における台風の発生が増えます。

ルソン島を東から西に横断し香港やベトナムに到達する台風や台湾南部・高雄付近に上陸する台風が多いことがわかります。また、台湾東岸や沖縄付近は依然台風が通過する数は多いですが、夏と比べると少し西寄りになり、中国・上海付近に接近・上陸するものも多くなる傾向がみられます。より詳しくデータを見ると、こうした傾向は、太平洋高気圧の勢力が強い9月ごろに多く見られます。

また、季節が進むと太平洋高気圧が若干弱まることで、偏西風も南下を始めます。これに伴い、台風は九州や朝鮮半島に到達する前に東転し、日本の南岸に沿って進むような傾向が増えます。

図5 2020年から2024年の台風中心位置通過場所のヒートマップ(秋)
出所:気象庁のデータ1から弊社作成、
地図:© OpenStreetMap contributors

図5 2020年から2024年の台風中心位置通過場所のヒートマップ(秋)
出所:気象庁のデータ1から弊社作成、地図:© OpenStreetMap contributors

冬:12月から2月ごろ

四季を通して台風の発生量が最も少ない時期ですが、全く発生しないわけではありません。2020年から2024年のデータからは、低緯度で発生した後、台湾や日本に到達する前に消滅しており、日本では台風の影響を直接的に受けづらくなります。しかしながら、フィリピンやベトナム周辺の南シナ海では台風の影響を受けることがわかります。

図6 2020年から2024年の台風中心位置通過場所のヒートマップ(冬)
出所:気象庁のデータ1から弊社作成、
地図:© OpenStreetMap contributors

図6 2020年から2024年の台風中心位置通過場所のヒートマップ(冬)
出所:気象庁のデータ1から弊社作成、地図:© OpenStreetMap contributors

企業活動へ大きな影響を与えた近年の台風

2024年 台風11号 Typhoon Yagi

Typhoon Yagiはフィリピン、ベトナム、中国の海南省、広東省に大きな被害を与えました。とくにベトナムでは人的被害が多く、報道によると16億ドルの被害4が推定されると報告されています。企業活動への被害としては、電力・通信の遮断や大規模な洪水が発生しました。

2023年 台風5号 Typhoon Doksuri

Typhoon Doksuriはフィリピン、中国の福建省から北部まで大きな被害を与え、洪水が発生しました。この台風による経済損失は250億ドル5ともいわれております。とくに北京では、1883年の降雨量集計開始以降、140年間で最大の降雨量を記録6し、浸水被害により大きな損害をもたらしました。

北東・東南アジア地域への広い影響

台風の被害は決して日本だけで発生するわけではなく、東南アジアから北東アジアの地域まで広く影響を受ける可能性があります。過去の事例では、台風の直撃するフィリピン、中国、ベトナムなどで浸水被害や停電などの被害が発生し、工場や倉庫などでも損害が発生する可能性があることが推定されます。

また、貨物損害や建物の損害以外にも、操業停止や物流の遅延によるサプライチェーン上の影響も考えられます。たとえば、台湾では自然災害の発生時や発生の可能性がある場合、行政により企業や学校に業務を停止する法律7があり、一般的に“颱風假(日本語にすると台風休暇)“と呼ばれています。

台風が発生した場合の海上輸送への影響

台風が発生した場合、周辺の海上は波風の影響が大きくなり、船舶は航行が難しくなり荒天の海域を避ける傾向にあります。また港湾では荒天による荷役事故、港湾設備への事故、待機場所における船舶同士の事故を防止することを目的に、港湾付近の接近を制限することがあります。2018年9月に台風Jebiの影響で関西国際空港の連絡橋が、近くに錨泊していたタンカーが圧流されたことにより損傷を受けた件などは記憶に残る事故です。この一件から海上交通安全法、港則法が改正され、台風時の港内管制が厳しくなりました。

通常の航路から大きく離れることや、港湾から遠く離れたところに避難することを余儀なくされるケースがあり、運航スケジュールにも大きな影響を及ぼします。台風の襲来により港湾荷役がおこなわれず、船舶が避難地から戻る事によりスケジュールも遅れ、予定通りの貨物の取り扱いができず、荷役能力と取扱貨物量のバランスが崩れ港湾の処理能力の超過に陥ることがあります。さらに、処理能力の超過により船舶が予定通り寄港できず、別の港で貨物が降ろされ回送されることにより遅延が増加する場合や、予定していた船舶の寄港スケジュールがキャンセルになるといった影響が発生する場合もあり、船舶の遅延による影響は雪だるま式に増えることがあります。

自社貨物・商品の保護

日本では夏から秋に台風の影響を直接的に受ける傾向にありますが、広い地域で見た場合、フィリピン周辺や南シナ海では年間を通して台風の影響を受ける可能性があります。国際貿易をおこなう上では、自社のサプライチェーンを把握し、輸送途上や海外の貨物保管中に台風の影響を受ける可能性が通年存在することを認識する必要があります。

台風の進路や勢力の予報は長期では精度が低く、3日前程度の短期予報になると精度が高まります。

海上輸送ルートの変更を要請することや保管場所を変更することは容易ではなく、すべての保管品を避難させることは現実的ではありません。

海上輸送の場合、梱包や積み付けの際は、暴風により通常より大きな加速度を受ける可能性や船舶への積み込み前の岸壁で長時間の待機が考えられます。こうしたリスクを考え、十分な振動に耐えうる梱包や積み付けを行ってください。また、通常より強い降雨も予想される為、雨水が浸入する可能性も考慮した梱包を行ってください。

保管の場合は、まずは浸水リスクをハザードマップで確認し、台風の季節前に止水板の設置や持ち運び式の排水ポンプを用意し施設への止水対策を整えておくことも大変重要な要素になります。排水溝などの水の流れのある場所は普段から清掃をおこない、排水能力を維持してください。水に弱い貨物・商品や高額品、生産量が少ないような希少で代替性の低い貨物・商品は一段高い場所に移動させ、避難できるような対策をとることが重要です。ドア、シャッター、窓などの開口部や強度の弱い天井の付近では、施設の風による破損や大雨による浸水が発生し、貨物・商品に損害を与える可能性を考慮し、飛来物対策にカバーをかける対策や浸水対策に土のうや水のうを用意するなどの対策をとることをおすすめします。

船舶の運航については、気象会社が提供する気象監視・アドバイスサービスである、ウェザールーティングサービスが活用できます。とくに在来船、バルク船、タンカーなどを用船し輸送を行っている場合は、荷主であってもこうしたサービスを利用し、船社が正しく運航を行っているか監視することができます。

台風へそなえるためのチェック事項

発生前に対応を検討してください。たとえば・・・

・影響を受けるときの事業体制

□ 出社体制

□ 連絡体制

□ 情報共有体制・被害時の通報体制

・自社設備の防災体制:設備周りをひと周りして、被害を受けそうな箇所を点検

□ 屋外保管品は被害の可能性の低い拠点や屋内に避難させる
□ 飛来してしまう可能性のある物を取り除く
□ 浸水被害から守るため、少しでも高い保管場所やかさ上げをおこなう
□ 開口部を閉め、防風・防水補強をおこなう
□ 天窓等、天井の弱い部分の下の保管品は雨水や破片から守るためのカバーを施す

ぜひ、平時に検討と教育を行ってください。たとえば・・・

・連絡体制

□ だれに連絡を集約しますか? 情報のフローチャートを作成してみてください。
□ どのように連絡を行いますか? たとえば、連絡用のメールスレッドを作成してください。
□ いつ情報発信を行いますか? 情報集約者から、連絡を要するタイミングを提示してください。 
□ なにを発信しますか? 情報連絡のテンプレートを用意してください。

□ だれに連絡を集約しますか?
情報のフローチャートを作成してみてください。
□ どのように連絡を行いますか?
たとえば、連絡用のメールスレッドを作成してください。
□ いつ情報発信を行いますか?
情報集約者から、連絡を要するタイミングを提示してください。 
□ なにを発信しますか?
情報連絡のテンプレートを用意してください。

・自社設備や事業のバックアップ体制

□ ハザードマップを確認し、自社の自然災害リスクを把握していますか?
□ 施設の清掃をおこなってください。排水溝などの排水設備は清掃されていますか?
□ 停電・浸水した場合、自社の保管品に問題はありませんか?ある場合の対応は?
□ 常用の輸送ルートが止まった場合、代替ルートはありますか?
□ 現在利用している保管場所、事務所が使えなくなった場合の対応方法は?

情報にアンテナを張ってください。

地図データについて

本稿の地図はOpenSteetMapOpenStreetMap ® はオープンデータ であり、OpenStreetMap財団によってOpen Data Commons Open Database License (ODbL) の下でライセンスされています。
詳しくはhttp://www.openstreetmap.org/copyrightをご確認ください。

参考文献

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