AIGナレッジ&インサイト

持続可能な⾷品業界のサプライチェーンをめぐるパワーバランスの変化

2023年11⽉28⽇ 公開

欧⽶の事例にみる「持続可能な⾷品業界のサプライチェーン」をめぐる⼩売業と製造業のパワーバランスの変化と影響

サステナビリティ(持続可能性)、ESG(環境・社会・企業統治)、SDGs(持続可能な開発⽬標)、エシカル消費(倫理的消費)などの考え⽅の広がりとともに、消費者の消費⾏動は⼤きく変わりつつあります。こうした変化は、消費者に商品を届ける⼩売業や製造業のビジネスにどのような影響を与えるのでしょうか。先⾏する欧⽶の事例をご紹介します。海外進出を検討・実施している⼩売業や製造業、海外の⼩売業や製造業とビジネスをしている企業の⽅は、参考にしてみてください。

消費者が求める「持続可能なサプライチェーン」と、⼩売業と製造業への影響

⼩売業はサステナビリティを優先的な課題と位置づけている

⼩売業は消費者のニーズにどう対応するかで、競争優位性が⼤きく変わる業態のひとつです。そのため消費者が⾼い関⼼を寄せる「サステナビリティ」への対応は、⼩売業にとって重要なテーマとなっています。しかし、消費者の期待に応えるには、それなりにコストがかかります。対応コストが利益率を圧迫し、「サステナビリティに起因する業界崩壊」を⼼配する⼩売業者もいるようですが、多くの⼩売業者が取り組みを進めています

 

⽶国⼤⼿経営コンサルティング会社の調査によると、世界の⾷料品⼩売業上位50社の実に82%が「サステナビリティを最優先課題」として挙げ、90%が⾃社ブランドのオーガニック商品を販売し、42%がサステナビリティ部⾨を設置しています。以前は極めて少数でしたが、現在は14%の企業がCSO(Chief Sustainability Officer:最⾼サステナビリティ責任者)を設置していることがわかりました。

「持続可能なサプライチェーン」によって、独⾃の影響⼒を発揮する⼩売業界

⼩売業者が「持続可能なサプライチェーン」への関⼼を⾼めている背景には、ブランドの評判向上、リスクの軽減、コンプライアンスの遵守、コストの削減などの要因が挙げられます。

 

これらの要因は、消費者や市⺠団体、公的な組織・団体のニーズに応えようという受動的な動機だけでなく、⼩売業者⾃⾝がサプライヤーに対して独⾃の影響⼒を発揮できるという主体的な認識によって⽀えられています。

 

サプライヤーを選定する⽴場にある⼩売業者が「持続可能なサプライチェーン」を掲げた場合、それらの要求に応えなければサプライヤーは商機を逸するおそれがあります。サプライヤーは⾼品質、⾼評価の商品を開発・供給するだけでなく、製造⽅法や輸送⽅法などにおいても、持続可能なサプライチェーンの⼀員としての対応が求められるのです。

データやリソースを求められるサプライヤー・製造業

⼩売業の現場では、バイヤー、マネージャー、店舗の従業員、物流担当、その他のチーム・メンバーなどが、それぞれの⽴場・裁量で意思決定をしています。そのため、経営判断として「サステナブルな取り組み」が採択されたとしても、各現場における⽇々の意思決定に組み込むのは容易ではありません。

 

こうした状況に対処するため、⼩売業は多様なツールを導⼊しています。例えば、アメリカのあるチェーン店では、⾷品格付アプリ「HowGood」を採⽤しています。同アプリは農薬使⽤や容器包装などのサステナビリティ指標で商品を評価し、データベース内の同種商品と⽐較することで格付を⾏っています。格付データは⾷料品の棚や専⽤アプリに表⽰され、意識の⾼い消費者の「責任ある購買」を⽀えています。

 

⼩売業者は消費者に選ばれるサプライチェーンを確⽴するため「HowGood」のようなツールを同時に複数導⼊する傾向にあり、その結果サプライヤーは、追加のデータ、時間、その他のリソースを⼩売業者から要求されているのが実情です。

「持続可能なサプライチェーン」に向けたさまざまなアプローチ

「持続可能なサプライチェーン」のためのツールは「HowGood」以外にも事⽋きません。欧⽶企業で採⽤されている代表的なアプローチのいくつかをご紹介します。

ケース(1)⼩売業者が⽬標や⾏動規範を策定する

⼩売業者が中⻑期的な「持続可能な調達」の⽬標を⽰し、サプライヤーが⾃社の⾏動規範として取り組んでいくアプローチです。

 

EcoVadis(※1)が2017年に⾏った調査によると、サプライヤー⾏動規範を活⽤している⼩売業者は2013年から2017年の4年間で12%増加し、全体の88%を占めました。そのうち半数の企業が、パフォーマンス評価のよりどころとして、設定⽬標を使⽤したと回答しました。

 

さらに2021年の調査では、⼩売業者の63%、サプライヤーの71%がCOVID-19の危機に耐えるのに「持続可能な調達」が役⽴ったと回答しました(※2)。「持続可能な調達」は、消費者に⽀持される価値となり、リスクや危機に対するサプライチェーンの耐性や回復⼒の向上に役⽴っていることがうかがえます。

 

また、アメリカのパッカード財団の調査レポートによると、北⽶と欧州の⼤⼿⼩売業者の⼤半は、天然の⿂介類について持続可能なコミットメントを⾏っていると報告しています。パッカード財団は「コミットメントの多くには改善の余地がある」と指摘するものの、その数は市場シェアの90%以上を占めるものでした。

  1. EcoVadisは、フランスに拠点を置くサステナビリティ・サプライチェーンの国際的な評価機関。世界175か国、10万社以上の企業評価を実施し、その結果は多くの企業がサプライヤー選定をする際に参照されています。
  2. 出典:Sustainable Procurement Barometer 2021(EcoVadis)
    https://resources.ecovadis.com/sp-barometer/2021-sustainable-procurement-barometer(外部のサイトに移動します)

ケース(2)⼩売業者が主要サプライヤー、主要商品を特定してから推進する

⼤規模な⼩売業者は、何千ものサプライヤーを抱えています。そこで⼀部の⼩売業者は、主要なサプライヤーまたは主要な商品に対して特定の基準を設けるアプローチを採⽤しています。

 

例えば、ウォルマート(世界最⼤のスーパーマケットチェーン)は、2040年までにグローバル事業全体でゼロエミッションを達成する⽬標を掲げています。2008年に省エネルギープログラムを開始した際、中国のサプライヤー上位200社(サプライチェーン全体の60〜80%に相当)を招集し、ベストプラクティスを開発し、より⼩規模なサプライヤーへと展開していくことで全体推進を図りました。

 

また、クローガー(アメリカ⼤⼿のスーパーマケットチェーン)は、⿂介類、卵、パーム油、乳製品を、社会的・環境的にインパクトのある商品として特定し、商品ごとにサステナビリティゴールを定め、調達などに取り組んでいます。

ケース(3)⼩売業者の枠組みにサプライヤーを参加させる

⼩売業者が各サプライヤーと共同体を形成し、⼩売業者のサステナビリティ⽬標や取り組みに賛同・参加してもらうアプローチです。共助が機能する枠組みには、サプライヤー間でベストプラクティスを共有できるメリットがあります。

 

世界五⼤流通の⼀つに挙げられるイギリスのテスコでは、地域や商品カテゴリーごとに持続可能な⽣産について話し合う「サステナブル・ファーミング・グループ」や、サプライヤーがテスコのチームと直接つながり、同じような課題に直⾯している仲間を⾒つけて、ベストプラクティスを共有できる「サプライヤーネットワーク」と「サプライヤーサミット」を取り⼊れています。

ケース(4)テクノロジーを活⽤してデータを統合的に管理する

データを追跡することで⼩売業者は意思決定をより効果的に⾏うことができ、データで特定された分野においてサプライヤーと協⼒することが可能になります。

 

例えば、クラウドベースのサプライチェーン管理ソフト「TraQtion」は、⾷品の品質と安全性に関するデータを⼀元管理できます。⼩売業者とサプライヤーが共通の管理ソフトを使⽤することで、データ収集から報告、パフォーマンス評価、意思決定までのプロセスを容易にしています。

ケース(5)認証システムを活⽤する

⼩売業者固有のサステナビリティ指標とサードパーティのサステナビリティ認証の両⽅を活⽤するアプローチです。サプライチェーンにおけるサステナビリティへの配慮として、認証取得をサプライヤーに課している業者もいます。

 

前述のEcoVadisが2017年に⾏った調査では、75%の組織が新規サプライヤーを選定する際にCSR(企業の社会的責任)データを使⽤し、全体の58%が年間のサプライヤー評価にCSRデータを使⽤していました。

 

また、2009年にウォルマートの⽀援を受けて設⽴された「サステナビリティ・コンソーシアム(TSC)」は、⼩売業者やサプライヤーが⽬標測定を簡単にできるプラットフォームを開発しています。現在は世界で2,000社以上のサプライヤーがTSCのプラットフォームを利⽤して、サステナビリティ⽬標の達成度や進捗状況を⼩売業者に報告しており、その過程でサプライチェーンにおける社会的・環境的リスクを特定しています。

⼩売業と製造業が「持続可能なサプライチェーン」を強みに変えるためのヒント

「持続可能なサプライチェーン」に対する社会の⾼い関⼼は、⼩売業者とサプライヤーの双⽅にとって「期待」の枠を越えて、実現しなければいけないという「圧⼒」となっています。欧⽶企業の間では「サステナビリティ」が⼩売業界における重要なコンピテンシー(能⼒・特性)になっているという認識も深まりつつあります。そのことを裏付ける重要なトレンドと成功のヒントとして、次のようなものが挙げられます。

ヒント(1)「サステナビリティ」で競争優位性を獲得する

⼩売業者にとって、消費者、投資家、その他の利害関係者からの「圧⼒」が増⼤すると予想されます。消費者は品質、健康、価格⾯と同様にサステナビリティを重視するため、⾃社の商品ラインアップや競争優位性を左右することも考えられます。

ヒント(2)より多くの情報や意味づけ・動機づけを持たせる

店頭やEC店舗に商品を並べるサプライチェーンのパートナーは、消費者からさらなる情報開⽰を求められたり、各商品カテゴリーにおける「サステナビリティ」の意味づけや購⼊する動機づけの提供を求められたりすると予想されます。

 

また、⼩売業者が達成期限を定めた「責任ある調達」の⽬標を掲げることで、商品特有のサステナビリティ基準に新たな次元が⽣まれる可能性も考えられます。

ヒント(3)サプライチェーン全体にトレーサビリティと透明性を

「持続可能なサプライチェーン」における環境的・社会的に重要なリスク領域の多くは、サプライチェーンの上流に存在します。これは⼩売業者と製造業者にとって中核的な課題となるはずです。

 

⼀部の⼩売業者や製造業者は、このことを理解して、第⼀段階のサプライヤーだけでなく、サプライチェーン全体のトレーサビリティ(追跡可能性)と透明性を提⽰し始めています。具体的には、⾃社製品の調達先を明確にしたり、商品固有の認証やラベル表⽰を検証したりしています。

ヒント(4)新たな追跡データへの対応やプラットフォーム導⼊に投資する

⼩売業者からのトレーサビリティと透明性に関する要請を受けて、製造業者はこれまで追跡したことのないデータの収集を求められる可能性があります。規模が⼤きなサプライチェーンでは、サステナビリティ⽬標の達成に向けた進捗状況を追跡するために、細部にわたる関連データが必要になることもあります。またデータ分析により、⽬標達成に向けた従来の取り組みや⽅向性の是正が必要だとわかった際には、⼩売業者と製造業者の双⽅が、新たなプラットフォームを導⼊するケースも増えると予想されます。

最後に

サステナビリティに配慮した⼩売市場でビジネスを繁栄させるためには、⼤きな努⼒が必要です。変化する市場で優位に⽴つには、⽅針策定、戦略設計、サプライヤーの参画とトレーニング、データ管理、監査、認証などの実践が不可⽋です。幅広い分野に展開する⼩売業者にとって、製造業者やパートナー、ソリューション・プロバイダーと協働する取り組みは、⾃社製品によい影響を与え、顧客を獲得し、収益を改善する機会となるでしょう。

参考⽂献

本原稿は「INCREASING EMPHASIS ON SUSTAINABLE SUPPLY CHAINS: IMPLICATIONS FOR RETAILERS AND MANUFACTURERS(2017 / NSF International)」を参考⽂献とし、AIG損保で編集しています。

グローバルリスクマネジメントの先端を追うキュレーションメディア

まずはお話をお聞かせください

AIG損保にコンタクトする

無断での使⽤・複製は禁じます。