Global Risk Manager

アメリカで求められる⾃然災害対応と雇⽤主の安全配慮義務

2023年11⽉30⽇ 公開

RIMS⽇本⽀部 × AIG損保

Global Risk Manager Vol.008 アメリカで求められる⾃然災害対応と雇⽤主の安全配慮義務

本連載シリーズは、リスクマネジメントのグローバルな⾮営利組織、RIMSの⽇本⽀部とAIG損保の共同編集により、これから海外進出を⽬指す、またはすでに海外進出している企業のリスクマネージャーのスキルセット向上を⽬指しています。⽇々の業務はもとよりビジネスの先を⾒据えた洞察・推察にお役⽴ていただければ幸いです。

⻯巻、⼭⽕事、暴⾵⾬、洪⽔、地震、⽕⼭活動など、世界中のあらゆる地域で異常気象による⾃然災害が発⽣しています。保険仲介⼤⼿のエーオン社は、2022年の⾃然災害による世界の経済損失は3,130億ドルにのぼると試算しています。

 

雇⽤主が⾃然災害の発⽣を防ぐためにできることはほとんどありません。しかし、よく練られた緊急時⾏動計画と明確な雇⽤対策は、従業員と雇⽤主を守り、企業に与える経済的影響を軽減するために役⽴ちます。海外拠点においてBCP(事業継続計画)やBCM(事業継続マネジメント)の体制を構築する際は、駐在・現地採⽤に関係なく従業員への配慮や現地の法律・規制に気をつける必要があります。今回はアメリカを例に、海外進出企業が備えておきたい緊急時の⾏動計画や安全配慮、雇⽤対策などについてご紹介します。

アメリカで雇⽤主に求められる安全配慮義務とは

⾃然災害から従業員を守る緊急時⾏動計画の必要性

⽶国労働安全衛⽣局(OSHA)は、雇⽤主に対して「安全で健康的な労働条件を提供すること」を求めており、ここには⾃然災害などの不当な危険から従業員を保護することも含まれています。

 

そのため雇⽤主は、緊急時⾏動計画を準備しておく必要があります。⽕災や洪⽔が発⽣した際の避難⼿順、⻯巻や激しい嵐が発⽣した際に使⽤するセーフルームの設置、異常気象で移動が危険な場合の在宅勤務規則など、その現場で予⾒可能な緊急事態に応じた内容であることが望ましいです。

緊急時⾏動計画の策定に役⽴つ指針

緊急時⾏動計画を策定するために役⽴つのが、⽶国労働安全衛⽣局および⽶国労働省が発⾏している「職場の緊急事態と避難を計画する⽅法(How to Plan for Workplace Emergencies and Evacuations)」という指針です。

・How to Plan for Workplace Emergencies and Evacuations(原⽂)
https://www.osha.gov/sites/default/files/publications/osha3088.pdf(外部のサイトに移動します)

この指針では、緊急時⾏動計画を策定する際に「まず危険性評価を⾏い、職場で何が緊急事態を引き起こすかを判断すること」が重要だとアドバイスしています。そして、緊急時⾏動計画には、少なくとも以下を含めなければならないとしています。

〈緊急時⾏動計画に不可⽋な要素〉

  • 緊急事態を報告し、従業員に避難や⾏動を促すための望ましい⽅法
  • 避難の⽅針と⼿順
  • フロアプラン、職場地図、安全・避難場所など、緊急脱出⼿順およびルート割り当て
  • 緊急時計画の下で、追加情報または職務と責任の説明を求めるために連絡すべき社内外の個⼈の⽒名、役職、部署、電話番号(コミュニケーションプラン)
  • 重要な業務の実施または停⽌、消⽕活動の実施、緊急警報が鳴っても停⽌できない重要な作業のために従業員を残す避難前の⼿順
  • 労働者の救護および医療に関する業務を履⾏する従業員の配置

緊急時⾏動計画を策定し、従業員に周知したら、⼗分に訓練することが重要です。危機の際、適切な訓練を受け、緊急時訓練を受けた従業員であれば、計画を思い出し、それに従う可能性がはるかに⾼くなります。

⾃然災害の発⽣時、発⽣後の対応

コミュニケーションの⼿段・⽅法は事前に決めておく

⾃然災害や業務の中断・停⽌につながる緊急事態の発⽣前、発⽣中、発⽣後に、雇⽤主と従業員がどのようにコミュニケーションを取るのか、その⼿段や⽅法も緊急時⾏動計画に含めておくべきポイントです。

 

従業員は、緊急時の連絡⼿段や必要な情報を⼊⼿する⽅法を理解しておく必要がありますし、雇⽤主は、全従業員の連絡先情報を最新の状態に維持しておく必要があるでしょう。

 

雇⽤主から全従業員への連絡⽅法としては、コミュニケーション・ツリー(連絡網)で全員に連絡をする⽅法、録⾳されたメッセージやグループテキストを送信する⽅法、事前に決めておいた番号へ電話するコールインなどの⽅法があります。雇⽤主がどのような⼿順を選択するにせよ、緊急時にその⼿順が守られ、全従業員に連絡が取れるよう、特定の担当者を決めておくといいでしょう。

⽶国公正労働基準法における、従業員の給与に関するルール

⼀般的に災害時の従業員への給与は、その従業員が⽶国公正労働基準法(FLSA)適⽤の免除または⾮免除のどちらに分類されるかによって、⽀払われるかどうかが決まります。

〈⾮免除の従業員の場合〉

雇⽤主は、実際に働いた時間に対してのみ賃⾦を⽀払う義務がある。(⼀部の例外を除く)

例えば、雇⽤主が⾃然災害に備えて職場を閉鎖して従業員を帰宅させた場合、閉鎖後の働いていない時間に対する給与を⽀払う義務はありません。

(例外となる可能性のあるケース)

  • 停電復旧の待機時間など、職場にいることを義務付けている時間
  • 週の労働時間が変動しても固定給を⽀払う契約を交わしている⾮免除の従業員
  • 保守要員や看護師など、実作業の有無に関わらず構内に滞在する必要がある場合

〈免除の従業員の場合〉

その週に労働があれば、雇⽤主はその週の給与を全額⽀払う義務がある。

例えば、⾃然災害などによる職場の閉鎖が1週間未満だった場合、雇⽤主は1週間分の全額給与を⽀払わなければなりません。ただし閉鎖が1週間続き、その期間中に免除従業員が全く仕事をしなかった場合、雇⽤主は報酬を⽀払う必要はありません。

⾃然災害では、職場に物理的な被害が⽣じる可能性もあります。労働時間の記録が失われ、給与処理が困難または不可能になる事態に備えて、オフサイトの電⼦バックアップを維持することが望ましいでしょう。

⾃然災害によって職場が閉鎖した場合、従業員を有給休暇扱いにできるのか

雇⽤主は、⾃然災害などのために従業員が働けない、または働かないことを選択した場合、有給休暇やその他の休暇を利⽤することを従業員に要求することは可能です。しかし、事後トラブルを避けるためにも、全員に配布される従業員ハンドブックに記載しておくなどして、事前に従業員に明確に伝えておくべきでしょう。

 

なお、⽶国育児介護休業法(FMLA)では、従業員50⼈以上の雇⽤主に対し、⾝体的または精神的な疾病、怪我、障害などの深刻な健康状態に陥ったために仕事を遂⾏できない、あるいは深刻な健康状態にある配偶者や⼦供、親を介護しなければならない従業員に無給の休暇を与えるよう義務付けています。FMLA以外にも、雇⽤主に休暇を提供することを義務付ける州法や地⽅法が存在する場合があります。

 

また、⾃然災害に起因して従業員が精神的または⾁体的傷害を負った場合、⽶国障害者法に基づいて従業員から雇⽤主へ宿泊施設の要請がなされる可能性もあります。

働けない、働きたくない従業員に対する雇⽤・就業の配慮

雇⽤主が随意雇⽤従業員に出勤を指⽰し、従業員が出勤を拒否した場合、休暇や宿泊施設を利⽤する法的な権利がある場合を除き、雇⽤の終了を含む懲戒処分の対象となる可能性があります。ただし、⼀部の州法や地⽅法では、強制避難命令を受けている従業員の保護が定められています。

 

また、⽶国労働安全衛⽣法では、労働条件が安全でないという合理性や確証がある場合、従業員が労働を拒否する権利を認めています。さらに、州法によっては、雇⽤主の故意または重⼤な過失によって従業員の傷害や死亡が引き起こされた場合、雇⽤主が従業員の就業中の傷害や死亡に責任を負う可能性もあります。

詳しくはRIMS⽇本⽀部の
『Risk Management』2023年3-4⽉号をご覧ください。

出典

本記事は、リスクマネジメントのグローバルな⾮営利組織、RIMSが発⾏する機関誌「Risk Management」2023年3-4⽉号の記事を、RIMS⽇本⽀部とAIG損保が翻訳・共同編集したものです。

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