2025年12⽉26⽇ 公開
海外展開企業が直面するリスクは複雑化し、地政学リスク、サプライチェーン寸断、サイバー攻撃などが相互に連関して深刻な影響をもたらしています。従来の国別・部門別のリスク管理では対応が難しくなった今、グローバル保険プログラムが注目されています。
グローバル保険プログラムとは、多国籍企業が世界各国の拠点で直面するリスクを本社主導で一元管理し、均質な補償とコスト最適化を実現する保険の仕組みです。
本記事では、2025年10月15日に開催された「AIG Client Summit 2025※」の内容をもとに、グローバル保険プログラムの6つの役割を解説します。
- 2025年に開催された AIG Client Summit では、AIGが世界で培った知見をもとに、企業のリスクマネジメント戦略への示唆を企業の保険リスクマネジメントご担当者に提供しました。
複合化する世界のグローバルリスク環境
グローバルリスクの環境では、リスクが単体で影響を及ぼすことよりも、相互に連鎖・増幅して、企業価値により大きく、深刻な影響を及ぼします。地政学的緊張の激化、世界的なサプライチェーンの寸断、気候変動による自然災害の深刻化、サイバー攻撃の巧妙さ、規制環境の変化をはじめとしたリスクは相互に連関し、予想をはるかに超える大きな影響をもたらします。そして企業の経営の屋台骨を揺るがす事態にもなりかねません。
従来型リスク管理の限界
従来のリスク管理は、部門別の縦割りで国別にリスク管理や保険プログラムを導入する手法が主流でした。しかし、ますます複雑化する現在のグローバルリスク環境下では、以下の3つの限界が顕在化しています。
- グローバルリスクの変化への即応性不足
各国・各拠点での個別対応では、急速に変化するグローバルリスク環境に迅速に対応できません。 - 海外拠点の情報の隔たり
本社と現地法人の間で情報共有が不十分になり、全社的なグローバルリスクの可視化が困難です。 - 補償・プロセス・意思決定のばらつき
拠点ごとに保険補償内容やリスク対応プロセスが異なり、グローバルで均質なリスクマネジメントが実現できません。
グローバル保険プログラムとは
グローバル保険プログラムとは、海外拠点を含む企業グループ全体のリスクを統一した方針で管理するための保険の仕組みです。国・地域ごとに異なる法規制や事業環境に対応しながら、マスターポリシーと各国の現地保険を組み合わせることで、補償内容、リスク管理プロセス、意思決定の一貫性を確保します。
これは、単なる保険手配の仕組みにとどまらず、リスクマネジャーが海外現地法人を含めたグループ会社全体のリスクを可視化し、経営の意思決定につなげるための重要な役割を果たします。この役割は、次章で説明する「6つのC」という観点から整理することができます。
AIGのマルチナショナル・プラクティス
AIGのマルチナショナル・プラクティスは世界200超の国と地域に広がるネットワークを持ち、グローバルに500名を超えるマルチナショナルサービスプロフェッショナルが在籍し、多国籍企業のグローバル保険プログラムの設計・運営を支援しています。
<AIGのマルチナショナル・プラクティスの強み>
- Fortune 500企業の60%超のグローバル保険プログラムを構築
- 高度で複雑なリスクを管理
- キャプティブの活用
- 各国の法規制・税務対応に関する情報提供
- AIG Risk Management Academyを通じた世界標準のリスクマネジメントの知識共有
- 保険代理店/保険ブローカーとの協業
- One POC (単一窓口)による対応
グローバル保険プログラムの役割:6つのC
AIGのマルチナショナル・プラクティスでは、グローバル保険プログラムの役割を6つのCで整理しています。
Control(コントロール)
「Control (コントロール)」とは、本社主導で保険プログラムを管理し、補償内容、コスト、リスクの全体像を可視化することです。各国の拠点が個別に契約している保険内容や条件を把握し、グループ全体として整合性のとれた運営を行うことで、計画的なリスク管理が可能になります。
Consistency(一貫性)
「Consistency(一貫性)」とは、国や地域によってばらつきがちな補償内容や手続き、対応方針をグローバル全体で統一する考え方です。グローバル保険プログラムにより共通の基準を設けることで、どの拠点でも同じ考え方でリスク対応ができ、均一な補償とサービスレベルを維持・確保することができます。
Claims(損害サービス)
「Claims (損害サービス)」とは、事故発生時に迅速かつ適切な対応を行い、損害を最小限に抑えるための重要な要素です。グローバル保険プログラムでは、各国で発生した事故情報や保険金請求の状況を本社で把握し、社内の関係者間での情報連携を強化することができます。これにより、対応の遅れや情報不足を防ぎ、グループ全体で一貫した保険金請求対応が可能になります。AIGでは、海外と日本の損害サービス部門が連携し、事故情報の可視化を行い、均質なサービスを提供しています。
Compliance(コンプライアンス)
「Compliance(コンプライアンス)」とは、各国・地域の保険規制や税制、法制度を遵守したうえで、適切に保険を手配・運営することです。グローバル保険プログラムでは、各国の規制を踏まえたローカル保険とマスター保険を組み合わせることで、法令順守と補償の確保を両立します。AIGのマルチナショナル・プラクティスの専門家が複雑な国別の法規制を遵守しながら適切なグローバル保険プログラムを運営します。
Cost(コスト)
「Cost(コスト)」とは、保険料や関連費用をグローバルで最適化する視点です。グローバル保険プログラムを導入することで、契約を一元管理し、スケールメリットを生かした交渉や効率的なコスト配分が可能になります。単に保険料を削減するだけなく、リスクの全体像を踏まえたうえで、経済合理性のある保険プログラムを設計・運営することが重要です。
Captive(キャプティブ)
「Captive(キャプティブ)」とは、企業が自ら設立・活用する保険会社(自家保険)を通じて、グループ全体のリスクと保険を管理する仕組みです。リスクを外部に移転するのではなく、自社の一定のリスクを保有することで、リスクの実態に合った補償設計や長期的なコスト管理が可能になります。また、市場のハード化リスクの影響を緩和し、より戦略的なリスクファイナンスを実現することができます。
グローバル保険プログラムで実現する統合的リスクマネジメント まとめ・今後の展望
複雑化し相互に連関するリスク環境の中で、企業が持続可能な成長を実現するには、グローバルかつ統合的なリスクマネジメントが不可欠です。
グローバル保険プログラムは、単なる保険の仕組みではありません。リスクを可視化し、均質な補償を確保し、コストを最適化し、法規制に対応し、さらにはキャプティブを活用することで、企業のリスクマネジメント戦略全体を支える戦略ツールとなります。
不確実性の時代を勝ち抜くために、グローバル保険プログラムの導入あるいは既存のプログラムの見直しを検討してみてはいかがでしょうか。