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物流効率化法と海外のCLO設置事例から⾒る物流統括管理者の役割

2026年1⽉8⽇ 公開

2026年、特定荷主に義務化される物流統括管理者の選任

物流統括管理者とは、企業の物流全体を適正化し、統括管理し、持続可能性を確保する役職を指します。

改正物流効率化法により、⼀定規模以上の物量を扱う荷主企業に対し、2026年4⽉から物流統括管理者の選任が義務付けられました。本項では、2024年成⽴の改正物流効率化法(以下、物流効率化法)に沿って解説いたします。

ここでいう物流の適正化とは、「輸送」「保管」「荷役」「包装」「流通加⼯」などの物流機能の改善にとどまりません。

調達、⽣産、販売といった各部⾨の物流との垂直連携、社外の取引先との⽔平連携も含めた全体最適化の観点が求められます。

そのため、法律上の名称は「物流」統括管理者でありながらも、「ロジスティクス」の最⾼責任者にあたるCLO(Chief Logistics Officer)としての働きも期待されているのです。CLOに求められる基本的な役割は、企業のロジスティクスのビジョンや戦略を策定し、推進していくことであり、物流部⾨はもとより、調達や⽣産、販売部⾨に対しても責任を負うことになり、より広い責任範囲に及びます。これらの理由により、物流統括管理者は経営管理の視点が必要であり、事業運営上の重要な決定を⾏うため、役員クラスからの選任が要件とされています。

物流統括管理者選任の契機となった2024年問題

物流効率化法の改正、および物流統括管理者選任のきっかけとなった出来事に「物流の2024年問題」が挙げられます。

働き⽅改⾰の⼀環としてトラックドライバーに時間外労働の上限規制が適⽤され、1⽇に⾛⾏できる距離が短くなりました。この影響で、2030年には国内の輸送⼒が約3割不⾜する可能性があるという調査結果が報じられたのです。

輸送⼒不⾜の解消に向けて、共同輸送やモーダルシフト、荷待ち・荷役時間の削減、需要予測の強化、特売品・新商品等のリードタイム確保などの取り組みが各社で進められてきました。

2024年はBtoBの荷動きそのものが低調であったため、輸送⼒に⽀障をきたすことはありませんでしたが、2024年は物流危機の始まりにすぎません。物流、ひいては事業の持続可能性を⾼めるために、物流統括管理者の求⼼⼒が必要です。

物流統括管理者設置義務の対象企業

物流統括管理者設置義務の対象企業は、取扱貨物重量が9万トン以上の荷主事業者です。荷主事業者は以下の3種類に分かれます。

種類 定義
特定第⼀種荷主 主に発荷主。運送事業者と継続的に運送契約を締結して運送を委託する事業者
特定第⼆種荷主 主に着荷主。他の事業者が運送契約を結んだ運送事業者から貨物を受け取る、または引き渡す事業者
特定連鎖化事業者 加盟店と運送事業者の貨物の受け渡しに関する指⽰ができるフランチャイズチェーンの本部

表1 荷主事業者の種類と定義

取扱貨物重量は年度単位で算定し、9万トン以上の場合は5⽉末締めで所管⼤⾂に届出を提出します。

これらに該当する特定荷主は、すみやかに物流統括管理者を選任し、同様に届出をしなければなりません。

物流効率化法に求められる物流統括管理者の役割

物流効率化法上で求められる物流統括管理者の役割は以下の通りです。

  1. 中⻑期計画の作成
  2. トラックドライバーの負荷低減と輸送される物資のトラックへの過度の集中を是正するための事業運営⽅針の作成と事業管理体制の整備
  3. その他トラックドライバーの運送・荷役等の効率化のために必要な業務

出典:「物流効率化法」理解促進ポータルサイトより⼀部抜粋

これらを達成するために、次のような業務が必要となります。

● 定期報告の作成

● リードタイムの確保・発注適正化のための部⾨間連携

● 設備投資、DXの促進

● 標準化に向けた事業計画の作成・実施、評価

● 社内研修の実施、物流効率化に向けた調達先・納品先などの関係事業者との連携

⼀⼈ですべてを担うにはハードルが⾼いと感じる⽅も多いでしょう。各部⾨、関係事業者のキーパーソンとコミュニケーションを図りながら、チームで取り組みを進めるのが現実的ではないかといわれています。

⼀⽅で、実際には、企業単位で物流統括管理者に求める役割の範囲が異なる可能性もあります。後述する海外のCLO設置の事例では、財務的観点に⽴って、企業価値を⾼める、より幅広い運営上の決定を⾏っていることがわかります。

CLOと物流統括管理者についての解説は、下記の記事もご参照ください。
CLO(Chief Logistics Officer)と物流政策ガイドラインにおける物流統括管理者

海外のCLO(CSCO)とその取り組み

欧⽶では、⽇本より早くロジスティクスやサプライチェーンの重要性が認識され始めました。また、その特徴として、ロジスティクスより広い概念であるサプライチェーンを統括する責任者CSCO(Chief Supply Chain Officer)等の名称が多く⽤いられています。

ここからは、⽇本の先をいく事例として3⼈の最⾼サプライチェーン責任者とその取り組みを紹介します。

マクドナルド|マリオン・グロス(Marion Gross)

マクドナルドのマリオン・グロス⽒は、2022年にエグゼクティブバイスプレジデント兼グローバル最⾼サプライチェーン責任者(Executive Vice President and Global Chief Supply Chain Officer)に就任しました。

2013年から北⽶担当上級副社⻑兼最⾼サプライチェーン責任者として、約140億ドル相当の⾷材、設備、包装を担当。1万5000店以上のレストランを統括してきた実績を持ちます。

その取り組みのひとつとして挙げられるのが、クォーターパウンドバーガーを冷凍⽜⾁から⽣⾁に切り替えた事例です。サプライヤー側の設備投資や適切な温度を保つサプライチェーンの仕組みが必要になりましたが、マリオン・グロス⽒の求⼼⼒により、これを成し遂げました。

製造⾯、供給⾯での安全性確保に成功し、ビジネスに付加価値を⽣んだ⼀例です。マリオン・グロス⽒は現在、退任しています。
出典:McDonald’s Global Chief Supply Chain Officer Retires,McDonald’s

ナイキ|ベンカテシュ・アラギリサミー(Venkatesh Alagirisamy)

ベンカテシュ・アラギリサミー⽒は、2020年にアパレルブランド「ナイキ」のCSCOに就任しました。原材料、製造、物流、フルフィルメントを包括的に管理しています。

サプライチェーン部⾨のプロセスマネージャーとして2006年に⼊社以来、グローバルサプライチェーンやサスティナビリティを牽引。特に「エクスプレスレーン」と呼ばれる企業戦略を指揮してきました。

エクスプレスレーン戦略では、新商品のデザインから販売までの期間に、数ヶ⽉かかっていたところ、数週間までに短縮する成果を残しています。

移り変わりの速いアパレルのトレンドにスピーディーに対応し、ニーズを掴むと共に、環境や社会に対する⽬標達成にも取り組んでいます。
出典:Venkatesh Alagirisamy, Nike: Sustainable Global Operations,Supply Chain Digital Magazine

ユニリーバ|ウィレム・ウイエン(Willem Uijen)

ウィレム・ウイエン⽒は、1999年エンジニアとしてユニリーバに⼊社。2022年に最⾼調達責任者を経て、2025年にCSCOO(Chief Supply Chain and Operations Officer)に就任しました。

2021年には、ヒンドゥスタン・ユニリーバで同社のプラスチック使⽤量よりも多くのプラスチック廃棄物を回収、リサイクルし、プラスチックのニュートラル化を達成しました。

現在は、2039年までにネットゼロを⽬標に掲げ、持続可能性を重視。サプライヤーに期待する基準の遵守を求め、解決策を共に探る姿勢を明らかにしています。

そのほか、再⽣農業プロジェクトを進⾏するなど、サプライチェーンのレジリエンスを強化する牽引者として期待されています。
出典:Lifetime of Achievement: Willem Uijen,Procurement Magazine / Unilever, Willem Uijen

CLOと共に持続可能な物流の実現

海外のCLO事例に⽬を向けると、グローバルサプライチェーンやESG経営を包括した取り組みが⾒られました。物流効率化法に定められた物流統括管理者の役割だけに固執せず、広い視野で持続可能性を模索していくことが重要なのではないでしょうか。

また、持続可能なサプライチェーンの構築を⽬指す中では、リスクマネジメントの観点も重要です。グローバル企業が重視する職種のひとつ「リスクマネージャー」は全社的な視点でリスクを判断する役割を持ちます。そのため、物流統括管理者は、この⼀部を担う⼈材として適任です。

例えば、物流に直結する部分では労災リスク、輸送中の賠償責任や⾞両損害、営業倉庫の⽕災リスク、サイバー攻撃、外航貨物の損害リスクなどのうち、何をリスクの⾼いものとして重視するか。メンテナンスや改善活動にとどめるか、保険をかけるかといった判断を⾏います。

まずは⽬下の物流効率化に取り組みつつ、ぜひリスクマネジメントにも⽬を向けてみてください。

本記事について

執筆:⽥中なお(物流ライター)
発⾏:AIG損害保険株式会社 海上保険部

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詳しくは、海上保険部までお問い合わせください。

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