海外進出白書

コロナ禍から読む!企業の海外進出ナレッジ #2 ASEAN(東南アジア)編

2022年8⽉15⽇ 公開

⾃社の強みを最⼤限に活かすための海外進出とは?

コロナ禍から読む!企業の海外進出ナレッジ #2 ASEAN(東南アジア)編

海外ビジネスを考えていく上で、「どの国で⾏うか」は、⾮常に重要なファクターです。コロナ禍において中国・アメリカへの⽇本企業の進出が増加した裏で、急成⻑を⾒せていたはずのベトナムを中⼼とする東南アジアへの海外進出はブレーキ傾向?

 

世界的なインパクトを与えたコロナ禍において、ASEAN各国における海外進出のトレンドはどのように変化したのか。「海外進出⽩書リスク管理版2020-2021(発⾏:株式会社Resorz/制作協⼒:AIG損害保険株式会社)」のデータから考察し、海外進出に役⽴つナレッジとして参考にしてみてください。

ASEANにおける⽇本企業からの海外進出注⽬度No.1 ベトナム。 進出企業の業種は?マーケット変化は?その理由は?

ITのオフショア開発地から、もう⼀度、消費市場へ?

2019年こそASEAN の中での順位をフィリピンに譲りましたが、安定したニーズにより、2020年度はASEAN ⼀番⼿に返り咲きました。フィリピンが新型コロナウイルス対策に喘ぎ、⼤きく順位を落としたのに対し、世界の中でも屈指の抑え込みに成功したベトナムへの進出ニーズは増加しました。

過去8年間の進出先国ランキングの推移

ベトナムへの進出業種の割合について、数年前までは、オフショア開発企業を中⼼にIT業の進出割合が⼤きかったのですが、マーケットの飽和などもあり、近年は減少傾向にあります。それと変わるように⼤きくなっていたのが「製造業」でした。

 

その割合は2020年度も維持されています。⼀⽅で、割合として最も⼤きいのは、ここでも「卸売・⼩売業」です。また、全体から⽐較して割合が増加するのは「サービス業」となっており、現地を消費市場として捉えた進出がベトナムにおいても増加傾向にあることがわかります。

業種別割合(ベトナム)2019年度

業種別割合(ベトナム)2020年度

⼤きく流れを変えたのは、ベトナムの⼯場品質というメリット

ベトナムはエンジニア育成に国策として取り組んでおり、⼤量に優秀で安価なエンジニアを確保できる国となっていました。事実として、⽇本企業のIT開発を海外で請け負う「オフショア開発」という⼿法の中⼼となっているのが、ベトナムの⽇系企業であり、そうしたIT企業の進出が急増していたのです。

 

⼀⽅、⼯場での作業などは、ベトナムよりもさらに労働コストの安い国へのシフトが始まっていました。ベトナムの労働コストは年々上昇傾向にあり、技術的に代替可能なものであれば、ミャンマーやバングラデシュといった国へのニーズが⾼まっていたのです。

 

しかし、2018年度では製造業の割合が急増し、そうした流れが⼀変しました。それは、⽇本の製造業の⼯場設⽴が増えたからではありませんでした。ベトナムの⼯場の品質レベルが向上したことにより、⽇本企業から「製造委託」が増加したのです。これまでの「製造委託先」は中国などが主流でしたが、⼈件費の⾼騰やカントリーリスクの側⾯からベトナムシフトが始まったということです。

勤勉な国⺠性×強固な政府が、コロナ禍の市場価値を⽀える

その傾向は、2019年度も変わらず、むしろ他のASEAN 各国へと広がっていきました。しかし、2020年度に関しては、新型コロナウイルスの影響を受け、製造業の投資がストップしたり、現地での⼯場操業がままならなくなり、若⼲の減少傾向となっています。

 

その影で増加したのが、「卸売・⼩売業」「サービス業」の進出でした。海外への販路拡⼤事業が、新型コロナウイルスの影響でペンディングとされていく中、経済活動が正常化したタイミングの早いベトナムへの注⽬が集まりました。

 

新型コロナウイルスの抑え込みが成功した背景には、「勤勉な国⺠性」、そして「社会主義国としての強い政府」が挙げられると思います。国家として政策をリードしていける国であることは、進出先を選定する上でも重要です。その点、今後も⽇本企業のベトナム進出は増加傾向になっていくと推測できるでしょう。

⽇本企業の海外進出ニーズが急増したトップ3。 傾向とデメリット

ITサービスの海外進出ニーズ⾼まるシンガポール

⽇本企業の進出が急増したシンガポール。進出業種の割合を⾒ていくと、「IT・通信業」の割合の⾼さが⽬⽴ちます。

 

過去の傾向としては「飲⾷業」の進出の割合が全体と⽐べて多い国だったのですが、新型コロナウイルスの影響か2020年度は割合が減少しています。また、相談内容を⾒てみると、全体の相談内容割合と⽐べ、税務会計や法務といった会社運営に関連する相談が若⼲増加しています。

 

もちろん、販路拡⼤に関する相談も多く寄せられているのですがASEANのハブとして⾦融⾯でも発展するシンガポールにおいて、ヘッドクォーターを設⽴し、グローバル展開の礎にしていこうという流れはまだまだ続いているようです。

業種別割合(シンガポール)

相談内容別割合(シンガポール)

特にITサービスを運営するような若い会社が、そのような取り組みを開始していました。シンガポールへの進出が増加した背景には、ここでも新型コロナウイルスが影響しています。シンガポールは、新型コロナウイルス対策として、ベトナム同様に政府が強いリーダーシップを発揮しました。

 

2020年3⽉というかなり初期の段階で「接触追跡アプリ」を世界で初めて配布した国でもあります。その結果として、⼤きな感染拡⼤を防ぎ、市場の回復が早かったと⾔えます。

⽇本企業が現地法⼈の設⽴を⽬指すマレーシア

マレーシアは全体の割合と⽐べ、傾向として顕著なのは「サービス業」の割合の⼤きさ、そして「卸売・小売業」の割合の⼩ささです。相談内訳としても、「海外会社設⽴・登記代⾏」が⼤きく割合を増やしており、かなり特徴的な進出先国と⾔えそうです。「海外税務・会計」に関する相談も多いことから、これまでの「販路拡⼤」をニーズとした進出とは若⼲異なった進出があることがわかります。

業種別割合(マレーシア)

相談内容別割合(マレーシア)

マレーシアは国家として外資優遇措置を進め、外国投資を獲得しようという意図が強い国です。例えば、クアラルンプールの郊外にある「サイバージャヤ」というエリアを、ASEANのシリコンバレーにしようと、優遇措置などを充実させています。

 

また、ジョホールバルというシンガポールと隣接するエリアで、シンガポールのベッドタウンとして、そしてアウトソーシングの受け先として、多くの労働⼒を抱えています。また、⽇本⼈が知らないアジアのタックスヘイブンとして近年注⽬されているラブアン島などもあります。このような点から、⽇本企業がマレーシアで法⼈を設⽴し事業を進めていくことにはメリットがあります。

 

⼀⽅で、やはり⼈⼝の少なさは否めず、市場規模の⼤きさと伸びしろから、⼩売業の進出先としての軍配は「ベトナム」にあがります。これは、イスラム圏であることも影響していると推測できます。そのため、イスラム教徒のために「ハラール認証」を取得しなくてはならないといったビジネス上の課題があります。そうしたことも「卸売・⼩売業」の割合がやや⼩さいことに影響を与えているでしょう。

新型コロナウイルス対策の成功から活路が⾒えた台湾

台湾は、以前より中国市場のテストマーケティングの場としての進出が多く、⾼いニーズを維持していました。⽂化圏を共にしつつ、親⽇であり、規模的にもそれなりの台湾で成功することは、中国進出の⾜がかりになります。

 

その中で、2018年度には、⽶中関係の悪化を背景に⼤きく順位を伸ばしました。「中国に進出するのは今ではないけれど、ゆくゆくは⾒据えていかなくてはいけないため、今のうちに台湾でテストマーケティングしておこう」というニーズが増⼤しました。

 

そうした傾向は2019年度には落ち着きを⾒せ順位を下げていましたが、2020年度は再び急浮上しています。この背景には、新型コロナウイルスの抑え込みに成功したことが挙げられるでしょう。新型コロナウイルス対策の成功例として、台湾デジタル担当⼤⾂のオードリー・タン⽒が注⽬されたことも記憶に新しいのではないでしょうか。

 

業種別割合や相談内容の割合は全体との差異がそれほどなく、バランスが取れたグラフとなっています。

業種別割合(台湾)

相談内容別割合(台湾)

海外進出に課題を抱え解決の⽷⼝を待つASEANの3国。 その理由と、苦戦の裏にあるポテンシャルとは?

アフターコロナを待つフィリピン

2019年度に最も相談が寄せられ、⾮常に注⽬されたフィリピンについてですが2020年度は進出ニーズが落ち着きを⾒せてしまいました。新型コロナウイルス感染症の流⾏に際し、ドゥテルテ⼤統領の強いリーダーシップのもと対策が進められていきました。出⼊国規制や都市のロックダウンに関してもいち早く取り組み、感染拡⼤をどうにか抑え込もうとしていました。

 

その効果は決して低いものではなかったのですが、その反⾯、経済に⼤きな影響を及ぼしてしまった印象があります。結果として回復しつつあった財政を圧迫し、国としての成⻑に少しブレーキが掛かってしまっています。

 

業種としては、「建設・インフラ」の割合が増加傾向にあります。⼤規模な都市開発が進むフィリピンにおいて、⼤きなチャンスを感じている企業が多いようです。⼀⽅で、2019年度に増加していた「サービス業」「飲⾷業」なども、減少傾向にあります。先述したコロナの影響で、消費市場としての魅⼒は後退してしまったようです。

業種別割合(フィリピン)

相談内容別割合(フィリピン)

ただし、フィリピンはASEAN の中でも特に伸びしろの⼤きい国です。平均年齢はベトナムよりも7歳も若く、⼈⼝も1億⼈超と多いです。また、購買活動の指標となる⼀⼈あたりの名⽬GDPも、⽣活に余裕が出て嗜好品や家電が売れるようになる3000ドルに迫っている状況です。

 

他のASEAN諸国よりも⼈⼝ボーナス期が⻑く続き、ASEAN屈指の成⻑を遂げることが期待されます。コロナ禍が落ち着いたタイミングで、再度注⽬したい国と⾔えるでしょう。

隣国の成⻑・ASEAN市場の変化に苦戦するタイ

かつて、東南アジアにおける⽇本企業の進出先として、まっさきに挙げられていたタイ。しかし、近年はその順位が低迷しています。インドシナ半島の⻄側に位置し、マレーシア、カンボジア、ラオス、ミャンマーの4ヵ国との国境を持つタイは、「東南アジア諸国全体のハブ」としての機能も期待できます。ただし、現在、急成⻑しているベトナム、フィリピンなどは国境をともにしておらず、海路・空路を通じてのハブとしての座をシンガポールに譲ってしまっている状況です。

業種別割合(タイ)

相談内容別割合(タイ)

また、2014年の軍事クーデターの影響が後を引いています。2014年を境に順位が低下傾向。2016年にプミポン国王が逝去したことも国家としての成⻑に影を落としています。加えて、⾼齢化も進んでおり、ASEANの中での⽴ち位置を模索していかなければならない状況と⾔えるでしょう。

 

地理的なメリットや消費市場としても、ポテンシャルが⾼い国であることは間違いないため、今後の再浮上のカギとして、まずは政情を安定させていく必要があるかもしれません。

⾸都移転が今後の鍵となるインドネシア

インドネシア進出の業種として「製造業」の割合が⼤きいことがわかります。また、相談内容の内訳を⾒てみると、全体の割合や他のASEAN の国の割合と⽐べても、とりわけ「販路拡⼤」に関するニーズが⼤きいことがわかります。

業種別割合(インドネシア)

相談内容別割合(インドネシア)

⼈⼝2億6000万⼈抱えるインドネシアは「⼀⼈あたりのGDP」も4,000ドルに迫っており、市場規模がASEANで最も⼤きいと⾔えます。

 

マレーシア同様、イスラム国家であること、また島嶼国家であり物流関連の課題があるなど、解決すべきことが少なくないため、ベトナムやフィリピン、タイといったASEAN の中の⼈気国の後塵を拝してきましたが、ここにきて市場の可能性が再注⽬されています。

 

新型コロナウイルス対策で、⼀旦棚上げにはなっていますが、2024年にはジャカルタからカリマンタン島への⾸都移転が控えています。島嶼国家であるがゆえのジャカルタへの負担集中を軽減するためのものですが、その⾸都移転を成功させられるかどうかは、今後の⽇本企業の進出に⼤きな影響を与えます。いずれにしろ、今後の動向に注視が必要と⾔えるでしょう。

出典

本原稿および全てのグラフは、2020年4⽉〜2021年3⽉の期間に、海外ビジネス⽀援プラットフォーム『Digima 〜出島〜』へ寄せられた海外進出相談の約4000件を、国別に分けて集計した『2020 年度 進出先の国・⼈気ランキング』と『過去8年間の進出先国ランキングの推移』を出典元にAIG損保で編集したものになります。

海外ビジネス⽀援プラットフォーム「Digima 〜出島〜」のページ(外部のサイトに移動します)

詳しくは「海外進出⽩書リスク管理版 2020-2021
(企業の海外進出ナレッジ #2 ASEAN(東南アジア)編)」をご覧ください。

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