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2025年10⽉15⽇ 公開

サプライチェーン上で狙われるトラック輸送

世界全体のサプライチェーンにおける、貨物の窃盗は損害の41%は貨物の輸送中(物流施設の通過時などを含む。)に発生しています。さらに、窃盗が発生する輸送モードを紐解くと、76%は陸上輸送中のトラックにおける損害であることが報告されています1

アメリカでは、貨物窃盗の被害が増加し記録的な被害額となり、議会でも取り上げられています。とくに、近年では窃盗の手口が巧妙化し、荷主や運送業者へのなりすましといったサイバー犯罪も絡むような犯行も報告されています2

高付加価値品の窃盗リスク

窃盗のターゲットとなる貨物は、高付加価値で、扱いやすく、転売されやすい商品、大きな困難なく取り扱うことができ、違法な市場で流通されやすい貨物と定義されています。AIG Marine Risk Consulting (MRC)ではこのような貨物をHVTT (High Value Theft-Targeted) 貨物と呼びます。この呼び方はAIG MRCだけではなく、サプライチェーンのセキュリティの認証をおこなう団体であるTAPA (Transported Asset Protection Association) でも用いられております。

HVTT貨物は3つのレベルに分類されます。 HVTTレベル1は、盗難リスクが最も高く、輸送中、常に盗難の危険に曝されていると考えられます。

Level 1 HVTT Level 2 HVTT Level 3 HVTT
医薬品、特に指定医薬品
高価バイオ医薬品
たばこ
高価電子機器(携帯電話、パソコンなど)
高価な美術・骨董品
貴金属製品
生物
高級アパレル製品
化粧品、香水、パーソナルケア製品
高級食品(甲殻類、 食肉、魚介類など)
銅などの高価な金属原料・製品(スクラップを含む)
一般家電(テレビ、オーディオ、白物家電など)
市販医薬品
一般的な装飾品類
一般消費財
一般食品
建築部材
タイヤなどの自動車部品

表1 高付加価値品(HVTT)のリスクレベル例

窃盗リスクの地域的な傾向

いくつかの貨物の窃盗に関するレポートにおいて報告されるように、欧州全域、北米(とくにアメリカ合衆国)、ブラジル、メキシコ、インド、南アフリカは貨物の窃盗のホットスポットといえます1, 3。一方で、日本はこうしたグローバルな窃盗に関すレポートに名前があがることは現状では稀であり、相対的には窃盗リスクが低い国と考えることができます。

窃盗リスクの高い地域におけるトラック輸送での注意点

輸送経路の計画

原則的に、事前に計画したルートを必ず利用することが推奨されます。輸送計画とは、出発地点と到着地点を結ぶ経路において利用する道を特定することだけではありません。保安の観点から、安全な休憩場所や燃料補給地点といった停車場所も検討する必要があります。車両を停車させることはリスクになります。したがって、休憩場所などの停車場所の保安対策が取られていることや停車する時間も重要な要素です。

到着時間を順守することも重要です。早着をすることで、トラックバースに空きがなく待機をする必要があり、必ずしも安全な場所で待機できるとは限りません。

冬:青色 春:緑色 夏:赤色 秋:橙色
図2 2020年から2024年の台風発生場所
出所:気象庁のデータ1から弊社作成、
地図:© OpenStreetMap contributors

運行管理

運行中のトラックとの連絡手段の確立が必要です。トラックに運行上の問題がないことを確認し、計画通りに輸送が遂行されていることを確認するためにも、定期的な連絡を手順化することが推奨されます。

定期的な連絡以外に、運行車両の現在地を追跡するサービスも、欧米では一般的に提供されております。こうしたサービスでは、輸送経路から逸脱している場合に警告を発するジオフェンシングや、異常が発生した場合に当該車両の所在地まで保安担当者が急行するようなサービスも用意されております。治安に不安のある地域を通過するような輸送の場合はこうしたサービスを利用することが強く推奨されます。

さらに武装勢力が存在するようなケースでは、武装警備員を配置する場合もあります。南アフリカやメキシコなどの地域においては、こうした保安対策もおこなわれる場合があります。

また、緊急時の場合や、やむを得ず車両を離れる場合のことを考えて、ドライバーは必ず二人以上乗車させることが推奨されます。

トラックドライバーへの注意

車両を不審者に明け渡さないようにするためにも、不正な乗り込みに注意を払う必要があります。輸送計画の注意事項にもあるように、予定外の停車時間はできるだけ短くすることで狙われるリスクを提言する必要があります。

運転席への侵入を防ぐためにも、輸送中は不用意に扉や窓を開放せずに施錠する必要があり、荷台の施錠の状況も確認が必要です。

また、車両が犯罪に巻き込まれることを防ぐためにも、輸送計画や位置情報を第三者に共有することを防ぐことや、不審車両を発見した場合や不審人物が接触した場合は、安易に接触や接近を許さず、運行管理者と連絡をとることが推奨されます。こうした対策はドライバーへの教育が重要です。

緊急の際の連絡先情報を安全情報シートとしてまとめ、ドライバーと共有することも重要な保安対策になります。

詐欺への注意

近年、世界的には貨物を狙った詐欺は”Freight Frauds”として注目されており、被害が拡大しています4,5。犯行の手口は巧妙化し、被害を防ぐためには十分な対策が必要です。

昨今の犯行では、書類を偽造して身分を成り済ました輸送業者に貨物を詐取されるようなケースもあります。もっとも基本的な対策としては、貨物の引き受けと引き渡しに際しては、必ず引渡人と引受人の身元の確認をおこなうことが重要です。この中には、自社が採用する輸送に関係する従業員の身元確認も含まれます。

また、輸送計画、貨物情報を共有する関係者をできるだけ限定し、第三者に情報が洩れることを防ぐことも重要です。輸送中、輸送計画や貨物情報を聞き出そうとするような不審な接触や連絡などにも注意することが大切です。

日本における貨物犯罪への教訓

貨物の窃盗犯罪リスクが低いと考えられている日本の場合、上記に挙げるような対策は一部で過剰に映り、現実的ではないと考えられるかもしれません。しかしながら、ひとつひとつの対策は基本に忠実な部分であり教訓とできることが多くあります。

例えば、2024年に高級時計が窃盗された事件では、内部情報を入手していた可能性が報じられております6。また、窃盗は運転手が車両を離れた数分間におこなわれたと伝えられています。この事件で伝えられている一部分だけから評価すれば、内部情報の保護や高価品輸送の場合は車両を不在にしないといった対応をとることで、リスクを低減できる可能性があります。

冬:青色 春:緑色 夏:赤色 秋:橙色
図2 2020年から2024年の台風発生場所
出所:気象庁のデータ1から弊社作成、
地図:© OpenStreetMap contributors

ドライバーのためのセキュリティチェックリスト

AIG Marine Risk Consultingでは、盗難に遭いやすい高付加価値な貨物輸送のリスクを低減するための、ドライバーのためのチェックリストを用意しておりますのでご活用ください。

その他にも高付加価値品(HVTT貨物)輸送のための資料をご用意しております。詳しくは、海上保険部までお問い合わせください。

ドライバーのためのセキュリティチェックリスト (1.2 MB)

本記事について

編集:AIG損害保険株式会社 海上保険部

AIG損害保険株式会社のマリン・リスクコンサルティングでは、
専門家によりお客さまの貨物に対しての損害防止および軽減の
改善案を提供しています。
詳しくは、海上保険部までお問い合わせください。

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