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グローバル化やDXの浸透、AIの進化、気候変動など、世界はますます複雑になっている。不確実性を増す世界情勢の中で、地政学的・社会的変化、インフレ、サプライチェーンの問題など、グローバルなビジネス環境も大きく変化している。日本においても、人口減少、為替変動、久々のインフレなど、特有の課題もある。
「この不確実性の時代の中で、企業は直面するリスクを再検討する必要がある。経営幹部はこれまで以上に、リスクとリスクマネジメントについて議論し、自社が直面しているトータルリスクコストを理解すべきだ」
そう語るのは、AIGジャパン・ホールディングスおよびAIG損害保険代表取締役社長 兼 CEOジェームス・ナッシュ氏だ。
AIGは200以上の国や地域で、大企業、中堅・中小企業、そして個人に保険ソリューションを提供しているグローバル企業。
日本におけるAIGグループのCEOであり、日本をはじめ様々な国のビジネス環境を熟知するジェームス・ナッシュ氏に、日本企業がどのようにリスクに対応し、管理しているのか、そして効果的なリスクマネジメントがもたらす成長の可能性について聞いた。
変化するリスク
──近年、企業に及ぶリスクにどのような変化が見られますか。
ナッシュ 30年前の時価総額上位の企業は、ほとんどが自社ビルや工場、設備などの有形資産を持つメーカーであり、私たちはそうした有形資産に対する保険を提供してきました。
以前は、企業は工場で火災があった場合にはどのくらいの被害額になるのかなど、有形資産のコストを把握しておけばよかった。
有形資産に関するリスクはマネージする方法も至ってシンプルでした。
ただ、現在では、時価総額が最も大きい企業のリストの上位をテクノロジー企業が独占するようになり、その最大のリスクは無形のものになる傾向があります。
こうしたビジネス環境の変化に伴い、事業活動に伴うリスクも複雑化しています。
ますますグローバル化が進み、世界が相互に結びつくようになるにつれて、テクノロジーの進歩がパラダイムシフトを起こし、リスクの状況も劇的に変化しています。
この変化に伴い、サイバー攻撃の脅威など、30年前には存在しなかった新しいビジネス上の課題が発生しています。グローバル化している企業がサイバー攻撃の被害を受けた場合、どの国でどのような影響が出るのかを算出するのは容易ではありません。
さらに、今日の世界では、有形資産のリスクでさえもますます複雑になっています。気候変動を理解する必要がありますし、サプライチェーンに支障をきたしビジネスが中断することも重大なリスクエクスポージャーです。
気候変動については、地震、台風、雹、豪雪、洪水などのリスクは以前からありましたが、異常気象や自然災害の激甚化や頻発化によって、もはや無視できないほど重要なリスクマネジメント課題となっています。
新たな無形資産に関するリスクに加えて、有形資産に関するリスクが増加し、企業に大きな影響を与える可能性があります。また、これらのリスクをマネージしていくことは非常に複雑です。
一方で、万が一のことがあった際の被害額を、企業のトップをはじめ経営陣がしっかり見通し、マネージすることができれば、成長のための投資に大きく踏み切ることができるようになります。
リスクマネジメントが挑戦を呼ぶ
──日本企業のリスクへの対応をどのように見ていますか?
日本では生命保険、損害保険ともに普及率は高く、個人も企業も一般的に保険に加入しています。しかし、特に企業の場合、特定の分野のリスクに対する補償が不足しています。
企業は有形資産に関するリスクに対しては保険に加入していますが、新しいリスクや複雑なリスクに対する認識が低く、それらのリスクに適応した保険への加入率は低い状況にあります。
例えば、企業は有形資産に関わる火災保険や、社用車の自動車保険の加入率は高い一方で、休業補償に関する保険の加入率は圧倒的に低い。企業の地震保険や、サイバー保険の加入率も同様に高くはありません。
その結果、新たなリスクへの備えが不足することになります。そのため、お客さま(企業)が直面するあらゆるリスクを理解し、そのリスクに合った保険を提供することが、保険会社としての役割であると考えています。
──どう対応すればよいのでしょうか。
まず、新しいリスクを認識する必要があります。
リスクにはどのような種類があるのかを認識し、そのリスクの発生を予防し、回避するのか、リスクの発生源を特定し、頻度を低くするのか、もしくはリスクを受け入れるべきか。また、保険でそのリスクを移転する方法などについて議論し、リスクについて理解するきっかけをつくるべきです。
リスクが財務諸表に与える影響をマネージできれば、資産や企業の意思決定に余裕が生まれます。リスクマネジメントは海外展開や新規事業などに積極果敢にチャレンジするなど、ビジネスチャンスにつながるのです。
──どうすればリスクマネジメントの意識が高まるのでしょうか?
人員の配置や人材の確保が可能な場合、社内にリスクマネジャーを配置することが一つの方法です。
リスクマネジャーはリスクを把握し、リスクの回避、低減、保有または保険への移転などをグローバル規模で管理する専任職です。
最近では、世界各国に拠点がある企業は、各国の様々なカテゴリーのリスク情報を吸い上げ、その情報を一元管理するようにしていますし、優秀な人材をリスクマネジャーに選任することがリスクマネジメントの前提となっています。
日本でもリスクマネジメントは進化しており、リスクマネジャーの役割は大幅に増加しています。
また、事業規模的に、社内にリスクマネジャーを配置するのが難しい中小企業の場合は、その企業のリスクは何かを見極め、対策するために外部のリスクマネジメントアドバイザーの活用をお勧めします。
われわれAIGはリスクアドバイザーの役割を持つプロ代理店と共に日本の中小企業を支えるDNAがあります。地域の実態に即した専門知識や世界基準の知見とノウハウに裏打ちされた、きめ細かいリスク分析やコンサルティング・サービスを提供しています。
こうしたリスクマネジメントのプロからのアドバイスを受けることで、リスクへのリテラシーが高まります。
また、お客さまに保険への加入を提案するだけでなく、お客さまにリスクマネジメントの意識を高めていただき、未然に事故を防ぐことや、リスクの低減・保有のサポートも行っています。
グローバル基準の損害保険
──複雑化するリスクに直面している企業に対して、リスクマネジメントをどのように支援していますか?
AIGは、お客さま本位のアプローチを確立し、お客さまのリスクを理解し、予防・低減することに注力しています。日本では、リスク予防・低減の評価とアドバイスを行い、お客さまに価値を提供する戦略的パートナーであるプロ代理店の強力なネットワークがあることが大きな強みです。
また、常に新たなリスクを予見して、保険商品を開発しています。
例えば、われわれはサイバー保険の世界的なパイオニアであり、25年間にわたってこの拡大するリスク領域においてお客さまの対応を支援してきました。
グローバルな知見を日本のマーケットに提供し、中小企業から大企業まで、様々な企業をサポートしています。
そうした強みがあるからこそ、90年代に会社役員賠償責任保険(D&O保険)や環境汚染賠償責任保険を日本で初めて展開することができたのです。
──グローバル規模の損害保険会社として、AIGは日本のお客さまをどのようにサポートしていきますか?
グローバル企業として、文化的、法律的、社会的、経済的な違いなど、国や地域によって状況や環境が異なるということを常に念頭に置いています。
企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化する中で、ビジネスを継続していくためには、「レジリエンス(事業継続力)」を強化していくことが必要不可欠だと考えています。
特にレジリエンスの観点から、変化するお客さまのニーズをよりよく理解するために、トレンドを注視し、現在および新たに発生する未来のリスクを評価しています。
複雑なリスクが増加する中で、経営幹部や取締役会は、企業のリスクやトータルリスクコストを理解し、必要なリスクの予防と軽減策を確保することが重要です。
保険とリスクは、もはや総務部だけの議論ではなく、取締役会の場で話し合うべき重要なテーマになっています。
グローバルな保険業界のリーダーの一員として、事業を展開する各国の様々な状況に適応し、お客さまにリスクの最適解をお届けすることが、損害保険会社としてのAIGの役割です。
私たちは、ますます複雑化する世界において、リスクマネジメントを支援し、安心を提供する、すべてのお客さまの貴重なパートナーであり続けます。
執筆:村次龍志(アジト)
撮影:小池大介
デザイン:小鈴キリカ
取材・編集:山口多門
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