近年、国内外でEC(電子商取引)市場が急成長しており、販路拡大を狙う中小企業には大きなチャンスですが、対策を怠ると思わぬ損害を被る可能性があります。EC市場の急拡大に伴うリスクを回避するにはどうすればいいのか、小野智博弁護士に伺いました。

EC市場の急拡大に伴うリスクとは?中小企業がとるべき対策について

近年、国内外でEC(電子商取引)市場が急成長しており、販路拡大を狙う中小企業にとっては大きなチャンスとなっています。しかし、EC市場での製品販売には対面販売とは異なるリスクも存在し、対策を怠ると思わぬ損害を被る可能性があります。では、中小企業がEC市場拡大のチャンスをうまく活用するには、どのような準備をし、何に注意すればいいのでしょうか。

今回は、国際ビジネス法務サービスを手掛ける、弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所の小野智博弁護士に、EC市場の急拡大に伴うリスクと中小企業がとるべき対策について伺いました。

EC市場が拡大している要因

――EC市場の現状はどうなっているのでしょう?

近年、ECの市場規模は、国内のBtoC※1市場、BtoB※2市場、越境EC市場のすべてで拡大が続いています。2019年の国内BtoC市場規模は前年比7.65%増の19.4兆円。国内BtoB市場の規模は、このBtoC市場の20倍近くになるといわれていて、こちらもBtoC市場の拡大に比例してさらに拡大が見込まれています(経済産業省「電子商取引に関する市場調査」)。

※1企業が個人に対して商品・サービスを提供する取引のこと

※2企業が企業に向けて商品やサービスを提供する取引のこと

 

同様に、越境EC市場も急速に拡大しています。世界の越境ECの市場規模は、2020年現在9,123億USドル(約96兆4,270億円)で、2027年には4兆8,561億USドル(約513兆2,730億円)になると予測されています(Zion Market Research調べ)。

現在、日本からの越境ECにおいて、購入金額が特に大きいのはアメリカと中国です。以前はAmazonやeBayなどの既存モールへの出店が主流でしたが、自社サイトでの販売へと移行していく企業も増えています。

――EC市場の急拡大は、何が要因なのでしょうか?

物流業者が優秀であることがひとつの要因です。また、BASEやShopifyなどのECサイトの構築支援サイトが、中小企業のEC市場参入を後押ししていることが大きいですね。これらのサービスは、直感的な操作で簡単に販売ページを作成できるだけでなく、PayPalやGoogle Payなど、越境ECでも利用可能な決済方法にも対応しています。さらに、新型コロナウイルス感染症拡大によるオンラインショッピング需要の高まりも、EC市場拡大を後押しする要因のひとつになっています。

――EC市場の拡大は、中小企業にどのような影響がありますか?

中小企業の強みは、大企業にはない意思決定の迅速性・機動性と、自社が特化する分野についての高度な専門性を持っていることです。特に、中小企業の機動性は、目まぐるしく変化し続ける経済環境下では大きなアドバンテージでしょう。EC市場の拡大は、販路拡大のチャンスです。大企業は販売方式を容易に変更できませんが、中小企業であれば、EC市場への参入がしやすいので有利な状況だといえます。

 

ですが、EC市場に参入するには、相応の準備が必要になります。国内ECや越境ECを行う場合、商品販売に関係する許認可や行政規制を確認しなければなりません。そして、自社の販売方法や商品に応じて、利用規約・プライバシーポリシー・特定商取引法に基づく表記を定めるなど、法的な準備を整えておくことが非常に重要です。

さらに、越境ECの場合は、多言語での問い合わせに対応できる体制も不可欠です。この対策が不十分だと、トラブルや訴訟につながってしまう可能性があります。

EC市場参入でトラブルに巻き込まれないために

――トラブルに巻き込まれないために、企業はどのような対策をすればいいのでしょうか?

基本的なフローは、国内ECでも越境ECでも同じで、やるべき対策は3つのステップにまとめられます。

 

1つ目は「目指すEC市場(国内/販売先の国)で自社の製品を販売するにはどのような規制があるのか、どのような許可が必要なのかをきちんと調べる」こと。

2つ目は、「自社が販売を行う方法や商品に合わせて、利用規約・プライバシーポリシー・特定商取引法に基づく表記などを整え、販売サイトに掲載する」こと。

そして3つ目は、「協力してくれる物流業者、代理店、広告業者などと契約する」ことです。

 

利用規約・プライバシーポリシー・特定商取引法に基づく表記などの作成やチェックは、弁護士事務所などに相談するのがベストです。特に、越境ECの場合、販売を行う国の言語とルールでの作成も必要です。当事務所でも、EC事業への参入の相談が増えております。

 

また、事前の対策だけでなく、事後の対応策も必要です。製造業者には、自社で作った製品に責任を持つ製造物責任などがあり、問題があれば訴訟されることもあります。裁判に負ければ賠償金なども支払う必要がありますので、賠償金や訴訟費用、弁護士費用などを補償する「生産物賠償責任保険(PL保険)」に入っておくことも有効です。

保険に入ることで訴訟を免れることができるわけではありませんが、金銭的補償が受けられれば、万が一トラブルが起こった場合にも企業として責任を果たすことができ、同時に深刻なダメージを回避することができます。

――さらにEC市場が拡大することで、どのような問題が起きると思いますか?

今後は、プライバシー関係の問題が増えるのではないかと思います。EC事業では、企業は顧客の個人情報を預かることになりますが、預かった個人情報は「個人情報保護法」に従って管理・利用する必要があります。海外にも、もちろん同様の法律があります。ですが、個人情報の取扱いに慣れていない企業ですと、情報漏洩が起きたり、許可を得ないまま顧客リストを使ってマーケティングを行ったりしてしまい、「利用者から損害賠償請求を受ける」「情報漏洩により企業の評価が下がる」といった問題や、日本や海外の個人情報保護に関する法令に違反してしまい、行政処分を受けるような問題が起きる可能性があります。

グレーマーケットが企業のEC市場参入リスクを高める

――EC市場の拡大により、グレーマーケットも増えていると聞きました。

グレーマーケット(※)は、越境ECの拡大とともに拡大しており、同時に製品を製造・販売した企業のリスクも高まっています。

特に近年では、建設機械・農業機械などの大型機械や高額な製品もECサイトで取り引きされるようになった結果、これまで海外における製造物責任のリスクをあまり考える必要がなかった企業も、リスクに対処する必要が出てきました。

 

※製造業者によって適切に販売された製品が、流通過程で転売されるなど、当初の製造業者・販売業者が意図しなかった第三者に渡ってしまう取引のこと。

――グレーマーケットが拡大すると、なぜ製造業者のリスクが高まるのでしょうか?

グレーマーケットが拡大することで製造業者のリスクが高まる理由は製造物責任法、いわゆるPL法にあります。日本のPL法は、製造物の欠陥が原因で他人の生命・身体・財産に損害が生じた場合、製造業者などに損害賠償責任を課す法律です。

例えば、ネットオークションで購入した製品でも、新品か中古かにかかわらず、製品の設計や製造の過程で起きた欠陥が原因で損害が生じたことが立証されれば、製造業者が損害賠償を支払わなければなりません。

 

日本企業が作った製品が海外で販売された場合も、その国のPL法に則ることになります。越境ECによってアメリカで事故が発生した場合、日本のPL法と同様に、アメリカのPL法によって製造物責任を負う可能性があります。契約で免責条項を設けていても、被害者が提訴すれば製造業者側は応訴して責任がないことを証明しなければなりません。また、無責になったとしても、高額な弁護士費用が発生することもあります。

つまり、製造業者が意図せず、グレーマーケット経由でアメリカに製品が流通すれば、PL訴訟のリスクが高まるのです。PL法については、当事務所のウェブサイトの記事で詳しく紹介していますので、参考にしてみてください。

 

参考:製造物責任法(PL法)の基本を理解しよう!販売した商品で事故が起こったらどうなる?(弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所)

――EC市場での販売には、どのような対策が必要ですか?

自社の製品を自ら販売する場合はもちろんですが、海外に販売する意図はない場合でも、転々流通して海外で販売される可能性を考慮し、PL訴訟リスクに備えておくことをお勧めします。

製品の転売自体を禁止しても、海外で販売された場合、現地のPL法に基づく製造物責任の訴えを逃れることはできません。ですから、販売が想定される国のPL法については事前に調査を行い、自社で販売する場合は、関連法規を遵守する形で販売をスタートすることが重要になります。なお、転売により会社が損害を受けた場合において、転売を行った者との間で、利用規約などで転売禁止の合意がなされていれば、転売者に対して損害賠償請求をすることが可能です。

 

一方、製造・仕入・広告・物流・販売などの各段階において専門企業との契約を締結する際に、自社のPL訴訟リスクやその他の損害賠償リスクをどこまで減らすことができるか、契約条件をよく確認・交渉して締結しましょう。さらに、自ら海外に販売した製品はもちろん、意図せずに国外に流出する製品についても、海外での賠償リスクをカバーする海外PL保険に加入し、万一の場合に金銭的な補償を受けられるようにしておくことも大切です。

 

参考:海外PL保険(AIG損保)

 

転売された商品の製造業者がアメリカの消費者から訴えられるケースは、従来はあまりありませんでした。

しかし今後は、アメリカ国内で起きているPL訴訟と同様の訴訟が、商品の輸出元・製造元である日本企業に対して起こる可能性が高いと予測されます。これらの法的なリスクの予防は、国際取引に関係する専門的な内容になりますので、関係する契約書を作成する段階で、その分野を専門的に扱う弁護士に相談するのがおすすめです。

――EC市場の拡大はチャンスでもありますが、しっかりとした対策も必要ですね。

EC市場の拡大は、中小企業にとっては販路拡大の大きなチャンスです。一方で、企業の意図と関係なく自社製品が海外で販売されて製造物責任を問われるリスクも発生しています。また、PL訴訟に対する準備が不十分なままEC市場に参入してしまうと、多額の損害賠償などで思わぬ損害を受ける可能性があります。

国内外のEC事業への参入や契約関係に強い弁護士事務所をお探しでしたら、私が代表を務める弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所もございます。いつでもご相談ください。

プロフィール: 

小野 智博(おの ともひろ)

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士

企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持ち、日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。

ウェブ通販・EC事業については特に強みがあり、事業の立上げ・運営・販売促進・トラブル対応・海外展開まで、一貫してサポートできる体制を整えている。

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