はじめに

年次有給休暇(ここでは略して有給と表記します)は労働基準法で付与することが定められた、労働者の権利です。しかし、取得するための申請方法については法で定められているわけではなく、会社が独自に決めているのが現状です。そのため、会社によっては社員が「申請方法がわからなくて有給が取りづらい」と感じているかもしれません。

 

厚生労働省が公表している「平成30年就労条件総合調査」の「年次有給休暇の取得状況」によると、2017年の有給休暇の取得率は51.1%となっています。経営側としては、社員の権利への配慮やワーク・ライフ・バランスの実現のためにも、有給はきちんと取得してほしいものです。

 

出典:「平成30年就労条件総合調査」の「年次有給休暇の取得状況」」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/dl/gaiyou01.pdf

 

社員の有給休暇の取得率向上や、事業の円滑な運営のために、申請ルールは事前に共有しておきましょう。

有給の基本ルールとは?

まずは、有給の基本的なルールについて確認しておきましょう。

 

有給は、労働基準法によって労働者が一定の条件を満たすことで付与されるものと定められています。厚生労働省が発行している「有給休暇ハンドブック」によれば、「雇入れの日から6カ月間継続勤務し、その間の全労働日の8割以上出勤した労働者に対して最低10日を付与しなければなりません」となっています。これは正社員に限ったことではなく、アルバイトやパートなどの雇用形態にかかわらず付与しなければなりません。一度付与された日から1年ごとに有給が発生し、勤務年数が増えるごとに付与される日数が増え、最終的には年に20日となります。

 

有給の取得は労働者の権利であるため、原則として会社の承認や許可は必要ありません。そのため、社員から「○月○日に有給を取りたい」という申し出があれば、指定日に付与するのが基本的なルールです。

 

出典:「有給休暇ハンドブック」(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kinrou/dl/040324-17a.pdf

知っておきたい有給の「時季変更権」

有給は申し出ることで権利が発生するものですが、繁忙期だったり複数人が前日に申請したりすれば、業務に支障が出ることもあるでしょう。そのため、労働基準法第39条第5項では、「時季変更権」という権利が認められています。

 

時季変更権とは、社員から申請された有給の取得時期が「事業の正常な運営を妨げる場合において」、使用者(経営側)が取得日を変更できるというものです。

 

ただし、単に繁忙期や日常的な人出不足といった理由で、時季変更権を行使することは認められません。「事業が正常に運営できない状態」は、会社の規模や事業内容、労働者の作業内容などによって総合的に判断されます。

 

使用者はできるだけ労働者が有給を取得できるよう配慮することが義務となっているので、代わりの人員の調整や、業務を別の日にずらすなどの調整をする必要があります。それでも運営が困難な場合に、時季変更権の行使が認められるでしょう。

有給取得の事前申請をルール化するにあたって

社員が申請した日に希望通りに有給を取得し、会社の業務にも影響が出ないようにするためにはどうしたらいいのでしょう。そのためには、ケガや病気といった事後申請となるケースを除いて、事前に有給取得を申請してもらえるよう、ルールを作っておくといいでしょう。さらに、そのルールをしっかり社員と共有しておく必要があります。

 

事前申請のルールは会社側の都合だけでなく、社員の権利に配慮した合理的なルールにしなければなりません。例えば、「有給取得は1カ月前に申請すること」といったルールを設けると、事前申請期間が長すぎるため、「合理的な期間なのか」「社員の権利に配慮しているのか」という疑問が残ってしまいます。

 

事前申請の期間を決めるにあたっては、会社の規模や業種によっても変わるでしょう。代替要員の確保や業務日の振替を行うために必要な日数が2日なのか3日なのか、合理的な日数をよく検討して事前申請のルールを定めてください。

事前申請の義務化によるメリット

有給取得の事前申請を義務化することで、会社と社員それぞれ、どんなメリットが生まれるのでしょうか?

 

社員にとっては、希望どおりに有給を取得できる可能性が高くなるというメリットがあります。一方、会社側は事前申請期間を設けることで、業務やほかの社員の休暇との調整がしやすくなり、運営に支障が出るリスクを回避できるのではないでしょうか。

 

ルールを作成したら、社員の意見を聞いたうえで就業規則に記載するなどして、社員に共有しておくことも必要でしょう。

おわりに

有給の取得は労働者の権利であるため、原則は会社の承認や許可なしで取得できるものです。しかし、同じ日にたくさんの社員が休んだり、前日に有給取得を申請されたりすることが続けば、業務に支障が出ることは十分にあり得ます。時季変更権はなかなか行使できるものではありませんし、社員側も気を遣ってしまって有給の申請がしにくくなっているかもしれません。

 

事業運営のバランスを保ち、社員にも気持ち良く休暇を取得してもらうためには、事前申請のルールが必要です。会社も社員も合理的と思えるルールを検討し、作成してみてはいかがでしょうか。

 

(追記)

直近では、平成30年6月29日に労働基準法などの改正案を含む「働き方改革関連法」(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)が成立したことにより、平成31年4月1日から 一定の条件を満たす労働者については、年に5日(以上)の有給休暇を取得させることが義務化 される予定になっています。

 

参考:厚生労働省HP リーフレット『「働き方」が変ります!!』https://www.mhlw.go.jp/content/000405463.pdf

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