中小企業に求められる子育てと仕事の両立支援とは?

従業員が十分な力を発揮してもらうために企業がすべきことは、働きやすい職場環境を用意することです。中でも「子供を授かり、育てながら仕事が続けられること」は、必要不可欠な要素でしょう。

ここでは、中小企業に求められる子育てと仕事の両立支援の現状についてご紹介します。また、両立支援が必要な理由と、導入する際のポイントについても見ていきましょう。

企業の子育て支援制度の歴史と現状

子育てと仕事の両立のための環境は、ここ30~40年程で少しずつ整えられてきました。

例えば、出産前に就業者していた女性が、第一子出産後に退職する割合は、1985~2009年頃までは40%前後でしたが、2010~2014年では33.9%と減っています。

また、2019年の育児休業の取得率は男性7.48%、女性83.0%です。男性の育児休業取得割合は1割にも届いていないことから、まだ十分な環境整備がなされていないと考えられます。

 

出典:「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」(国立社会保障・人口問題研究所)を

出典:「「令和元年度雇用均等基本調査」結果を公表します ~女性の管理職割合や育児休業取得率などに関する状況の公表~」(厚生労働省)

中小企業の両立支援制度の整備は大企業よりも遅れぎみ

子育てと仕事の両立支援の取り組みは、大企業では何らかの制度を整えていることが多いのに対し、中小企業では企業によって対応は異なります。

例えば、2019年に育児休業制度の規定がある事業所の割合は、500人以上の規模の事業所では99.8%です。しかし、5~29人規模の事業所では規定を持つのは76.1%にとどまっており、残り約4分の1の24.9%は規定を持たず、対応は異なっているのです。

 

このような状況から、厚生労働省では中小企業の両立支援制度整備を後押しするため、制度導入マニュアルや導入事例の紹介、両立支援等助成金の交付といったサポートを行っています。

 

出典:「令和元年度雇用均等基本調査」(厚生労働省)

事業所調査 結果概要」(厚生労働省)

子育てと仕事の両立支援制度で得られるメリット

では、なぜ子育てと仕事の両立支援制度を充実させる必要があるのでしょうか。それは、働きやすい環境を整えることで、中長期的に企業にさまざまなメリットをもたらすからです。特に下記の2点は、企業にとって見逃せないメリットではないでしょうか。

人材確保・人材の定着に効果がある

子育てと仕事の両立支援制度推進の最も大きな効果は、女性従業員の定着です。中期的にも長期的にも、女性従業員の定着率が高まれば、意欲や能力のある女性に活躍してもらえる可能性を高めることができます。

また、定着率が高まることで、「職場全体の雰囲気が良くなる」「社員間の信頼が深まる」「社員のモチベーションが高まる」「仕事の効率化・業務改善など、生産性向上に結びつく」といった効果も期待できます。

 

出典:「企業における子育て支援とその導入効果に関する調査研究(平成18年3月)概要」(内閣府)

労使トラブルを回避できる

企業が育児休業などに関するルールを設定していない場合、育児休暇などを申請しても、上司によって許可が下りたり、下りなかったりと、属人的で場当たり的な対応になるケースもあります。場当たり的な行動はマタニティ・ハラスメントに該当しますので、労使トラブルに発展したり、職場の雰囲気も悪くなったりすることもあるでしょう。

ですから、不必要な労使トラブルを回避するためにも、事前にきちんとルールを定めておくことが必要なのです。

両立支援制度を導入する上でのポイント

大企業に比べて人材や資金に余裕がない中小企業では、子育てと仕事の両立支援制度の整備を進めるのは難しいように思えます。しかし、フットワークが軽い分、トップがやる気になれば導入が進めやすいこと、従業員のニーズに即した制度構築ができることは、中小企業ならではの強みといえるでしょう。

そこで、これから子育てと仕事の両立支援制度を導入する場合は、厚生労働省が出している「中小企業のための『育休復帰支援プラン』策定マニュアル」にもとづいて、従業員の育児休暇の取得と職場復帰についてのプラン策定・運用から始めることをおすすめします。

具体的には、次の3ステップに沿って進めていきましょう。

 

<育児休暇の取得と職場復帰についてのプラン策定の流れ>

1. 制度を設計し、導入や周知を行う

・法律内での制度を整備

・掲示物やリーフレットの配布などで、制度の内容を従業員に周知徹底

・法律以上の支援制度を検討

 

2. 制度対象者に対する支援を行う

・制度対象者、上司、企業の三者面談などで対象者の希望を確認

 

3. 育休復帰支援プランの策定

・職場の状況や制度利用者の業務を踏まえて、育休復帰支援プランを策定

 

出典:「中小企業のための『育休復帰支援プラン』策定マニュアル」(厚生労働省)

 

男性従業員の育児のための休暇・休業取得支援の現状

育児のための休暇・休業の取得は、男性の権利でもあります。ですが、厚生労働省の調査研究事業によると、育児のための休暇・休業制度の利用を希望していながら、利用しなかった男性の割合は37.5%にも上っています。

ワーク・ライフ・バランスがとれる職場を働きやすく感じ、安定して仕事と生活が両立できることで力を発揮できるのは男性も同じです。男性も育児のための休暇・休業を取りやすい制度づくりが必要ではないでしょうか。

 

出典:「仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業」(厚生労働省)

企業が両立支援制度を実施する際に利用できる両立支援等助成金

中小企業が実際に子育てと仕事の両立支援制度を実施する場合、国からはどのような支援が得られるのでしょうか。厚生労働省では、子育てと仕事の両立支援制度整備を後押しするため、下記のような両立支援等助成金」を設けています。なお、助成金の支給機関は、都道府県労働局になります。

育児休業等支援コース  

育児休業等支援コースは、規定の条件を満たした育児休業の円滑な取得・職場復帰のための取り組みを行った事業主に支給される助成金です。従業員が正社員の場合、従業員の育休取得時に28万5,000円、職場復帰時に28万5,000円、業務代替手当を支給。さらに、残業抑制のための業務見直しなどの取り組みをした場合に職場支援加算として19万円、代替要員を確保した場合に1人あたり47万5,000円などが事業主に支給されます。

また、生産性要件を満たした事業主の場合、さらに追加の支援金が支給されます。生産性要件とは、3年前の生産性よりも6%以上伸びているかどうかを計るもので、政府が用意した「生産性要件算定シート」に人件費、減価償却費、動産・不動産賃借料、租税公課、営業利益を入力することで計算することが可能です。

出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)

出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)とは、男性労働者が育児休業や育児目的の休暇を取りやすい職場風土づくりに取り組み、男性労働者が子の出生後8週間以内に連続5日以上(中小企業以外は14日以上)の育児休業を取得した場合に支給される助成金です。

正社員の場合、1人目の育児休業取得時に57万円、個別面談などの育児休業の取得を後押しする取り組みをした場合に個別支援加算として10万円が事業主に支給されます。また、こちらも生産性要件を満たした事業主の場合、さらに追加の支援金が支給されます。

女性活躍加速化コース

女性活躍加速化コースとは、女性が出産や育児などを理由として退職することなく、働き続けられる職場環境を整備するための助成金です。「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」にもとづいて、課題解決にふさわしい一般事業主行動計画を実施し、数値目標を達成した中小企業事業主に47万5,000円が支給されます。また、生産性要件を満たした事業主の場合、さらに追加の支援金が支給されます。

 

出典:「両立支援等助成金」(厚生労働省)

中小企業における両立支援の実践例

厚生労働省の「女性の活躍・両立支援総合サイト」では、女性活躍・両立支援に積極的に取り組む企業の事例を調べることもできます。いくつか事例をご紹介しますので、こちらも参考にしてください。また、ほかにも厚生労働省では、「仕事と家庭の両立支援プランナーによる(育児)無料支援」もありますので、参考にしてください。

I社(窓装飾インテリア商品の製造・販売業)

I社では、スキルや経験を持ちながら、妊娠・出産を機に退職してしまう女性社員が多かったことを課題として、女性が働きやすい環境づくりの取り組みを開始。育児目的休暇の導入や相談窓口の設置とともに、人事面談制度の導入や男性中心だった技術施工職への女性採用にも積極的に取り組みました。その結果、出産で退職する社員が減り、採用や育成コストを軽減することに成功しました。

O社(製造・販売業)

O社では、「社内に保育園があると働き続けられる」との女性社員の声がきっかけで、2005年から女性が働きやすい環境づくりを進め、育児休業制度の整備や社内保育所の開設、転勤なしの地域限定勤務制度、テレワーク・時差出勤などを導入しました。2004年と比較すると、2019年には女性の勤続年数が4年以上延び、離職率は10.4%から2.6%に減少するなど、はっきりと成果が表れています。

K社(人工知能サービスの研究・開発業)

K社では、社員の増加に伴い、妊娠・出産する社員も出てきたことから、トップが先頭に立ち、1日6時間勤務の短時間正社員制度や特別有給休暇制度などを整備しました。また、年に一度全社員に働きやすい環境づくりについてアンケートを行い、寄せられた意見をいかに具現化するかを議論し、さらに制度を充実させようとしています。

 

出典:「女性の活躍・両立支援総合サイト」(厚生労働省)

中小企業が成長していくために、子育てと仕事の両立支援制度は必須

中小企業が成長していくためには、優秀で経験の豊富な従業員の定着がひとつの目安となるでしょう。そのためには、女性従業員の定着が期待できる、子育てと仕事を両立しやすい環境は必須だといえます。また、子育てと仕事を両立しやすい環境が整えることで、「子供の成長を見られる」など男性従業員のモチベーションアップにつながるといったメリットもあります。

子育てと仕事の両立支援制度を導入した後も、従業員の意見を聞きながらブラッシュアップすることで、より良いものにしていきましょう。

MKT-2021-512

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