今や社会問題となっているカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)は、パワハラ規制法の対象とすべきか否かで議論の対象になりました。カスハラとは、カスタマー(消費者、利用者、顧客)によるハラスメントを指します。「暴力」や「暴言」、「悪質なクレームを繰り返す」などがこれに該当します。

 顧客からの再三にわたるクレームといったものから、極端なケースでは暴力的なもの、金品のゆすり、執拗な叱責、長時間拘束などのほか、SNSを用いた根も葉もない中傷行為により、従業員のみならず企業全体もおとしめられるなど、カスハラの事例は多岐にわたっています。 

 こうした現状を受け、衆議院厚生労働委員会の付帯決議でも「自社の労働者が取引先、顧客等の第三者から受けたハラスメント及び自社の労働者が取引先に対して行ったハラスメントも雇用管理上の配慮が求められること。」とされました。しかし、現実の対応がなかなか一様ではなく、規制をすることが難しいことから、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応することが望ましいとされています。

 日常的に顧客からの悪質クレームに悩まされるといったカスハラが発生する一方で、反対に、自らの雇用する従業員が他社の従業員に対してハラスメントを行ってしまう場合もあります。

 ここではそれぞれの具体例に沿って、必要な対策をご紹介します。 

自社の従業員が、顧客や取引先企業から迷惑行為を受けたら?(従業員被害型)

 本来、顧客や取引先企業との関係は従業員任せにするのではなく、事業主がその対応を明確に従業員に指示するべきものです。顧客や取引先からの迷惑行為、いわゆるカスハラに対して、どこまで顧客の要望に応じなければならないのか、どの程度になったら要望を拒否してもいいのかなどの線引きは、企業が自ら示すべき事項です。また、こうしたカスハラに対して、従業員からの相談に対応するなどのサポート体制の整備なども重要です。 

 カスハラの生じやすい業種や職種では、企業としてあらかじめ様々な対応への取り組みをしておかないと、安全配慮義務違反に問われることになります。

 例えば、顧客からのしつこいクレームに悩まされているドラッグストア従業員のAは、どのように対応するべきか店長Bに相談しました。しかし店長Bは「相手はお客様だから、お客様の納得のいくように対応しろ」、「その程度のことは自分で解決しろ」と繰り返すだけで、何らの対応もしてもらえませんでした。そんなことが繰り返されることで軽いうつ状態になったAは、診断書を持参して休職することになりました。従業員Aは、店長Bが対応してくれなかったことがうつの原因だとして後日、安全配慮義務違反でお店を訴えました。

 こうしたカスハラは、労働者に大きなストレスを与える悪質なもので、時には人権侵害もなり得る無視できない問題です。従業員がカスハラに苦しみ、心身の健康を損ねかねない状況に陥っているにもかかわらず、事業主がその状況を放置すれば、安全配慮義務違反の責任を負う可能性が出てくるのです。 

どのような対応が求められるのか?

指針ではこうした場合、事業主の望ましい取り組みとして、以下の対応が示されています。

① 従業員の相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

② 被害を受けた従業員のメンタルケアや、加害の疑いがある顧客への個人対応をさせないなど、被害者への配慮のための具体的な取り組み

③ 他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや、顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための措置(顧客対応マニュアルの作成や、研修の実施など)

 こうした対応は、事業主が自社の従業員の就業環境を守るために雇用管理上の配慮として必要なものであり、また従業員の被害を未然に防止する上でも重要と考えられます。

自社の労働者が他社や個人事業主や求職者などに対してする迷惑行為(従業員加害型)

一方で、自社の従業員が他社従業員に対して、ハラスメントを行ってしまうことも想定されます。 

例えば、自社の従業員Aが、出入りの事務用品の納入業者Bの商品間違いを咎めて厳しく叱責しました。緊急対応のため、納品を急がせたことが原因だったのですが明らかにパワハラと言われても仕方がない言動があり、納入業者から抗議を受けたため、企業として従業員Aの処分を検討せざるを得ない状況となりました。

 昨年のハラスメント規制法改正では、自らが雇用する労働者が「他の労働者(他の従業員が雇用する労働者及び求職者を含む)に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をする」こととされています。

 つまり自社の従業員のみならず、取引先の従業員などに対する言動についても、パワハラに値するようなことがあってはならいないという明確な方針を提示することが、必要とされているのです。

どのような対応が求められるのか?

 自社の従業員が顧客や取引先に対してパワハラの加害者となってしまった場合には、企業は信頼を失い、また時には大きな経済的損失を被ることにもなりかねません。そのため被害者がどこに所属しているかに関わらず、このような加害行為に対しては、自社ルールに従った厳しい処分が求められます。 

 一方、被害者に対しては事前に外部の訴えに対応できる相談窓口を設けて対応をすることが必要です。また、このケースのように、他社からの抗議により厳重処分を求められた場合には、円滑な問題解決が図られるよう、他社が実施する事実確認や再発防止のための措置に協力するよう努めることも必要になります。

 自社従業員が、顧客や取引先に対してパワハラの加害者とならないよう事前の対策を徹底した上で、仮に発生してしまった場合にも迅速に対応できるよう、あらかじめ備えておくことが重要です。

執筆)職場のハラスメント研究所 金子 雅臣 

MKT-2020-502

ハラスメントは自社には関係ない、その認識が大きな問題に。

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