企業は事業を行う上で、労働者の安全(労働安全)と健康(労働衛生)を守らなければなりません。また、単に安全で健康というだけではなく、快適な職場環境を形成するための取り組みが求められています。労働安全衛生法で定められた基準を守ることはもちろん、安全と健康が保たれた安心できる職場環境づくりを積極的に進めることで、労働者のモチベーションやパフォーマンスの向上にもつながります。
 

安全衛生に配慮した快適な職場環境を整える取り組みのひとつが、安全衛生委員会です。では、安全衛生委員会はどのような場合に設置が必要なのでしょうか。

ここでは、安全委員会と衛生委員会の役割、安全衛生委員会の役割や設置から開催までの流れについて解説します。

安全委員会とは?

安全衛生委員会は、労働安全衛生法によって安全委員会と衛生委員会の両方の設置が義務付けられている事業場が、この2つの委員会を統合して設置することができる委員会です(労働安全衛生法第19条)。
 

まずは、安全委員会について解説します。

安全委員会の設置義務がある企業

安全委員会は、主に労働者の安全に関する調査審議を行う場です。一定規模以上の事業場では、業種によって安全委員会の設置が必要です(労働安全衛生法第17条)。

安全委員会の設置が必要な企業は、業種や労働者の人数によって異なります。労働安全衛生法では、下記のように定められています。
 

■安全委員会の設置が必要な業種

常時使用する労働者が50人以上 林業、鉱業、建設業、製造業の一部(木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業、輸送用機械器具製造業)、運送業の一部(道路貨物運送業、港湾運送業)、自動車整備業、機械修理業、清掃業

常時使用する労働者が100人以上

上記以外の製造業、上記以外の運送業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等小売業、 燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業

安全委員会の役割

安全委員会は統括安全衛生責任者、安全管理者、安全に関して経験のある労働者などで構成し、毎月1回以上開催しなければなりません。主な審議内容は、労働者の危険防止対策や、安全に関わる労働災害の原因と再発防止対策、安全に関する規定の作成、安全教育の実施計画などです。
 

出典:「職場のあんぜんサイト:安全委員会[安全衛生キーワード]」(厚生労働省)

衛生委員会とは?

続いて、衛生委員会について見てみましょう。衛生委員会とは、労働者の健康障害を防止するための対策などを調査審議する場です。業種を問わず、一定規模以上の事業場では衛生委員会の設置が義務付けられています(労働安全衛生法第18条)。

衛生委員会の設置義務がある企業

衛生委員会の設置については、業種による違いはありません。常時使用する労働者数が50人以上の事業場では、すべての業種で衛生委員会を設置する必要があります。

衛生委員会の役割

衛生委員会は、統括安全衛生責任者、衛生管理者、産業医、衛生に関して、経験のある労働者などで構成されます。主な審議内容は、労働者の健康障害の防止や健康の保持増進のための対策、衛生に関わる労働災害の原因と再発防止対策、衛生教育の実施計画、定期健康診断などの結果に対する対策などです。安全委員会と同様、毎月1回以上開催しなければなりません。
 

出典:「職場のあんぜんサイト:衛生委員会[安全衛生キーワード]」(厚生労働省)

安全衛生委員会の目的と役割とは?

安全衛生委員会とは、労働安全衛生法によって安全委員会と衛生委員会の両方の設置が義務付けられている事業場が、この2つの委員会を統合して設置することができる委員会です(労働安全衛生法第19条)。安全衛生委員会の目的と役割について確認しておきましょう。

安全衛生委員会の目的は労働者の危険や健康被害の防止

安全衛生委員会の設置目的は、労働者の意見を反映しながら、労働者の危険や健康被害を防止することです。

労働災害防止の取り組みは、労使が一体となって行う必要があります。そのため、労働安全衛生法では、前述の安全委員会衛生委員会の設置を義務付けており、この安全委員会と衛生委員会の両方を設置しなければならない事業者が、それぞれの委員会に代えて2つを統合した形で設置できるのが安全衛生委員会です。安全委員会と衛生委員会の設置義務のある事業場では、それぞれ個別の委員会を設置しても問題ありませんが、運営上の効率性などから安全衛生委員会を設置する事業場も多くあります。

安全衛生委員会の役割は安全や健康被害防止対策などの調査審議

安全衛生委員会は、統括安全衛生責任者、安全管理者または衛生管理者、産業医、労働者などの委員で構成され、安全委員会と衛生委員会での審議事項を調査審議します。

なお、安全衛生委員会は、毎月1回以上開催しなければなりません。議事については、開催のたびに概要を労働者に周知した上で、重要なものは3年間の保存が必要です。
 

統括安全衛生責任者や安全管理者などについては、下記の記事をご覧ください。
安全衛生とは?企業に求められる人員や業務体制を解説
 

出典:「職場のあんぜんサイト:安全衛生委員会[安全衛生キーワード]」(厚生労働省)

安全衛生委員会の設置から開催までの流れ

では、安全衛生委員会を設置・開催するには、どのような流れで行えばいいのでしょうか。安全衛生委員会の設置・開催の流れは下記のとおりです。

1. 委員選出

まず、安全衛生委員会の委員構成を満たす委員を選出します。委員会の構成人数について法令上の定めはありません。事業の規模や作業の実態などに応じて、最適な人数を選出しましょう。

原則として、議長は統括安全衛生責任者、または事業の実施を統括管理する者が務めます。また、それ以外の委員の半数については、労働者の過半数で組織する労働組合(労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)の推薦にもとづいて指名しなければなりません。

2. 安全衛生委員会規程を作成

委員を選出すると共に、安全衛生委員会規程を作成します。規程によって、会社の安全衛生管理体制を確立すると同時に、労働災害防止や健康保持・増進に対する従業員の責務も明らかにすることができます。安全衛生委員会規程には、安全衛生委員会における調査審議事項や委員の構成、任期などについて定めておくといいでしょう。

3. 年間計画を立てる

安全衛生委員会規定を作成したら、安全衛生に関わる1年間の活動を示した計画(年間安全衛生推進計画)を立てます。会社としての基本方針や年間目標とともに、月ごとの重点目標や安全衛生に関わるイベントの実施などについても盛り込みましょう。年間を通じた実効性のある計画を立てることで、安全衛生委員会の計画的な開催に役立ちます。

4. 安全衛生委員会を開催

年間計画に沿って、毎月1回以上安全衛生委員会を開催します。開催後は議事の概要を労働者に周知し、議事録は3年間保存する必要があります。

5. 改善の実施状況などの振り返り

労働者の安全と健康を守るためには、計画を実施して終わりにしてはいけません。労働者の協力のもと、計画・実施・評価・改善のPDCAサイクルを繰り返し、安全衛生管理のレベルアップを図る必要があります。実施した対策は必ず振り返りを行い、より良い内容へと改善していきましょう。

職場の安全衛生管理体制を整えよう

一定規模以上の事業場では、安全委員会や衛生委員会、またはその両方を統合して安全衛生委員会の設置が必要です。安全衛生委員会を適切に運営することで、職場の安全衛生管理体制を整えれば、労働者にとって快適で安心できる環境を目指すこともできるでしょう。

安全衛生管理体制についてわからないことがあれば、社労士に確認するといいでしょう。社労士がいなければ、労働基準監督署に相談することも可能です。
 

業務上でのリスクを認知し、労働者の安全衛生を確保する取り組みを行うことは、福利厚生の充実などと同様に人材確保の大きな決め手になります。求職者から選ばれる企業になるためには、リスク認知とその対策が必須といえます。

監修者プロフィール:

山本喜一(やまもときいち)

社会保険労務士法人日本人事

特定社会保険労務士、精神保健福祉士

上場支援、労働基準監督署、労働組合、メンタルヘルス不調者、ハラスメント、問題社員対応などを得意とする。著書「補訂版 労務管理の原則と例外 働き方改革関連法対応」新日本法規、「労働条件通知書兼労働契約書の書式例と実務」日本法令、「IPOの労務監査標準手順書」日本法令など多数。

MKT-2023-507

「ここから変える。」メールマガジン

経営にまつわる課題、先駆者の事例などを定期的に配信しております。
ぜひ、お気軽にご登録ください。

お問い合わせ

パンフレットのご請求はこちら

保険商品についてのご相談はこちらから。
地域別に最寄りの担当をご紹介いたします。

キーワード

中小企業向けお役立ち情報