地震や台風などの自然災害は、企業にとって致命的なダメージを与えるおそれがあります。地震については「いつ起きるかわからない」という不安はありますが、絶対に起きるとは限りません。しかし、台風に関しては、7~11月にかけて日本列島に上陸する可能性が高いので、毎年被害に遭う可能性はあります。

そこで、台風の被害で企業の事業活動を停滞させないために、台風対策をしておくことが大切といえます。ここでは、中小企業が台風シーズンに備えるべき対策や、台風で被害に遭った場合の補償についてご紹介しましょう。

台風接近に備えて企業が準備しておくこと

台風は、毎年シーズンになると日本列島に上陸することが多いため、大規模な地震に比べて慣れてしまい、危機管理を軽視してしまいがちです。しかし、実際に台風が上陸すれば、土砂災害や洪水など、さまざまな被害が予想されます。台風の規模や風速などは毎回異なりますから、たとえ前年度に被害がなくても、本年度も大丈夫とは限りません。

まずは、台風接近に備えて企業が準備しておくべき対策を見ていきましょう。

従業員の安全を最優先に考えた対策

企業は、従業員の安全を最優先に考えた台風対策を行う必要があります。台風が直撃した場合、主要な交通機関が運行をとりやめる可能性があります。ですから、通常どおり出勤することは難しいですし、出勤できたとしても平時と同様の業務ができるとは限りません。このような状況で無理に出社させ、万が一にも死傷事故が起きた場合は、企業責任が問われる可能性があります。

もちろん、業務によってはどうしても出勤の必要があるかもしれません。そのような場合は、台風時に出社する従業員とそうでない従業員を区分し、出社の必要がある従業員には社内に前泊させるなどの対策をとるのも、ひとつの方法です。いずれにせよ、従業員の安全を最優先に考えた対策をとることが大切といえるでしょう。

事業継続を意識した対策

従業員を守るだけでなく、事業継続を意識した台風対策も必要です。例えば、サポートセンターなど業種によっては休めないサービスの場合、テレワークを導入することで自宅からリモート作業をするといった対策も可能です。

また、台風による被害が、今後の事業継続を危険にさらすケースもあります。例えば、パソコンが浸水して、ハードディスクに記録された顧客情報が消失してしまう可能性もあるでしょう。そこで、クラウドサービスを利用したり、定期的にバックアップをとったりするなどの対策が必要になります。

会社の資産を守る対策

会社の持つ資産を守る対策も必要です。屋外に設置物などがあれば、屋内にしまうなどの対策をとればいいでしょう。問題は、屋内にしまうことができない社用車などです。

台風などで車が浸水してしまうと「エンジンがかからない」「電気系統がショートする」「シートが汚水で濡れる」「車内で細菌が繁殖してにおう」といった被害が起きます。そこで、ハザードマップなどで車の保管場所の浸水リスクを確認し、危険だとわかったら車を高台に移動させるといった想定をしておくことも有効です。

 

ですが、想定を超える災害のため人命を優先させ、車の被害は容認せざるをえないといったケースも考えられます。そして、被害に遭った車がカーリースの場合、全損時に一括返済(中途解約金)を求められる可能性もあるのです。そのようなときのために、自動車保険の車両保険の加入についてもご検討ください。

第三者を守る風災対策

台風が企業に与える被害は、自社の従業員や設備への被害だけではありません。例えば、強風により企業が所有する建物の看板が落下し、駐車している他社の営業車を壊してしまったとします。この場合、第三者の所有物を破損させていますので、損害賠償を求められるかもしれません。さらに、直接的な被害だけでなく、営業車を壊したことによる事業中断などの補償も必要となる可能性があります。

ですから、企業は台風時の風災対策として、屋根・外壁・ドアなどの状態を確認し、必要に応じて修理する必要があります。また、台風接近時には窓やシャッターを閉めたり、屋外設置物を固定したりする必要もあるのです。

 

そのほか、企業に求められる風災対策としては、「風災被害による賠償事例と対応策とは」をご参照ください。

安全を最優先に考えたプロアクティブ行動とは?

台風の進路は予測できますが、実際に台風が来るかどうかはわからず、結果として進路がそれ、杞憂に終わるケースもあるでしょう。そのような事例が続くと、社内に「今回も台風は来ないのでは」という雰囲気が出てくるかもしれません。こうなると、台風などの防災担当者は、自宅待機や臨時休業などの判断を下しにくくなります。

しかし、さまざまな台風対策を立てたところで、実践できなければ意味がありません。そこで、防災担当者が、従業員などの安全を最優先に考えた場合にとるべきとされているのが「プロアクティブ行動」です。

 

プロアクティブ(proactive)は、「積極的な」「先を見越した」という意味ですから、プロアクティブ行動は必要に迫られる前に行動することを指しています。その考え方を発展させたのが、一般財団法人消防防災科学センターが提唱している「プロアクティブの3つの原則」で、「疑わしいときは行動せよ」「最悪事態を想定して行動せよ」「空振りは許されるが見逃しは許されない」とされています。

この3原則を参考にするのであれば、「台風が来るかもしれない」とわかれば、天気予報を注視しつつ防災対策をとるべきですし、台風の規模は大きくないといわれていても、突如として大型化することも想定して準備するべきです。

これらが、すべて無駄になったとしても、従業員への自宅待機や臨時休業などの判断を、迅速に行うようにしましょう。

 

出典:「地域防災実戦ノウハウ(62)」(一般財団法人消防防災科学センター)

台風による被害などで従業員への補償はどこまで必要?

大型の台風が上陸すると、電車やバスなどの交通機関が運行を見合わせることがあるため、企業や店舗などでも臨時休業となる場合があります。台風で業務を停止することになれば、企業として経済的な被害を受けますが、従業員たちも「働く機会」を失うわけです。しかし、休業をしなければ死傷者が出るケースも考えられるため、慎重な判断が求められます。

続いては、台風による被害などで従業員への補償がどこまで必要なのかを見ていきましょう。

台風の接近による従業員への休業手当は?

会社都合で、社員やアルバイトなどの従業員を休ませた場合は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」として平均賃金の6割以上の額を休業手当として支払う義務があります。これは、労働基準法26条で決まっていることです。では、台風が接近し業務を行うことが困難となった場合でも、従業員を休ませたら休業手当を支払わなくてはいけないのでしょうか。

 

「使用者の責に帰すべき事由による休業」には、業務量減少など使用者の経営的な都合も「使用者の責に帰すべき事由による休業」として含まれます。ですから、台風が接近した場合には、店舗であればオープンができない、あるいは客足が途絶えるなどの業務量減少があるでしょうから、休業手当を支払わなくてはいけないように感じるかもしれません。しかし、台風が接近し業務を行うことが困難となった場合は不可抗力といえ、使用者の責任ではありませんので、「使用者の責に帰すべき事由」には含まれません。

 

したがって、休業手当を支払う必要はありません。これは、台風通過後も同様で、「台風で店舗が浸水して営業ができない」など、使用者の不可抗力で業務を再開できないケースも該当します。

ただし、実際に台風が接近していても業務を行うことが困難とはいえない場合は、会社都合の休業になり、休業手当を支払わなくてはいけないのでご注意ください。

 

出典:「休業手当について」(厚生労働省群馬労働局)

台風により従業員が死傷した場合の補償は?

台風の影響により業務中に従業員が死傷した場合も、休業手当の場合と同様に補償の必要はないように考える人もいるかもしれません。しかし会社は、従業員に対して安全配慮義務を負っています。

安全配慮義務とは、労働契約法第5条の「従業員の就労に伴う身体生命への安全への配慮を行う義務」で、これを会社が怠り、従業員に死傷の結果が生じた場合、従業員に生じた損害を会社は賠償する義務を負います。例えば、裁判で会社が安全配慮義務違反を問われる主なパターンとしては、ハラスメントや過重労働、労災事故関連があります。

さらに、台風が来るとわかっているのにあえて出勤を命じたのではないかという疑いは残りますので、「ブラック企業である」「安全配慮義務違反をする企業だ」というレッテルを貼られる可能性もあります。これらがSNSなどで拡散されれば、会社として甚大なダメージが残るかもしれません。

ですから、従業員の自主判断に任せるのではなく、会社として安全性を考えたプロアクティブ行動をとることが、最善の方法になるのではないでしょうか。

損害保険会社と相談し、台風被害に備えよう

万全な台風対策をしてプロアクティブ行動をとったとしても、台風の被害を完全に防げるわけではありません。ですから、最終的なセーフティーネットとして損害保険への加入を検討することも大切です。

 

例えば、自然災害の補償はもちろん、使用者賠償責任などもカバーできる保険もありますので、台風被害に備えるのであれば損害保険会社に相談してみてはいかがでしょうか。

監修者プロフィール:

近藤 敬(こんどうたかし)

レイ法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)  

厚生労働省「労働条件相談ほっとライン」相談マニュアル改訂委員会委員

元東京地方裁判所職員(裁判所書記官)

 

東京地方裁判所在籍時は労働専門部に通算6年半所属し、労働事件に特化した裁判実務を数多く経験。その経験を活かし、弁護士となってからは労働事件に力を注ぎ、使用者側労働者側問わず、労働事件全般、特にハラスメント問題を得意とする。また、法廷シーンなどが登場する多数の映画、ドラマ、書籍の法律監修も行っている。

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