1 はじめに

最近は、がんの診断を受けた人の多くが、仕事と両立させるために治療の選択を考えたり、仕事の仕方を工夫したりしています。しかし、治療がある程度落ち着いた後で、医療費や職場復帰などの悩みを抱える社会人は多く、雇用側の支援が問われている状況です。
ここでは、就労者とがんを取り巻く現状について解説します。がんに関して国が実施する主な対策や事業を踏まえた上で、企業による治療と仕事の両立支援の必要性について考えていきましょう。

2 就労者とがんを取り巻く環境

まずは、日本におけるがんと就労者の現状について理解するため、治療と仕事を両立させている就労者に関するデータや、国が実施してきたがんに関する対策・事業などをご紹介しましょう。

がんと就労に関する主なデータ

厚生労働省の調査によると、がん(悪性新生物)の治療のために、仕事を持ちながら通院生活を送る人々は32万5,000人に上るというデータがあります。
また、「現在の日本の社会は、がんの治療や検査のために2週間に1回程度病院に通う必要がある場合、働き続けられる環境だと思うか?」という世論調査に対して、64.5%が「そう思わない」と回答。半数以上ががんの治療を受けながら働き続けることの難しさを感じていることがわかります。
さらに、厚生労働省のがん患者を対象とした調査では、がんと診断された後の就労者について、「勤務者の34%が依願退職または解雇されている」「自営業等の者の13%が廃業している」といった就労問題が発生しています。

以上のようながんと就労に関するデータからも、国だけでなく、企業などの雇用側が、がん治療を受ける就労者を積極的に支援する取組みを実施することが必要だといえるでしょう。

※出典:厚生労働省「第1回がん患者・経験者の就労支援のあり方に関する検討会」資料3「がん患者の就労や就労支援に関する現状」
※出典:内閣府「がん対策に関する世論調査」(2016年11月調査)

厚生労働省におけるがんに関する対策・事業

厚生労働省は、2006年に成立した「がん対策基本法」以降、がんに関する対策の計画や事業を実施してきました。「がん対策基本法」は、「がん予防及び早期発見の推進」「がんの標準的な専門医療を全国どこでも受けられるための取組みの促進」「がんに関する研究の推進」といった施策を、国と地方公共団体が連携して推進することを定めた法律です。
2006年以降、厚生労働省が、がんについて具体的にどのような対策を行ってきたのか、主な事業を抜粋して紹介しましょう。

・がん対策推進基本計画(2007年~)
がん対策推進基本計画では、2007年からの10年目標として、「がんによる死亡者の減少(75歳未満の年齢調整死亡率の20%減少)」「すべてのがん患者とその家族の苦痛軽減、療養生活の質の維持向上」の2つが定められ、がん患者および経験者の就労についての課題を明確にすることになりました。
また、がん対策推進基本計画は、2012年の見直しで、「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が追加され働きながらがんの治療ができるように、環境整備などの目標が掲げられました。

・治療と職業生活の両立等の支援対策事業(2013年~)
疾病を抱える労働者が働き続けるために、事業場における支援対策を検討することを目的とした事業を実施しています。2015年度には、治療と仕事を継続している事例の収集や、両立支援に関する指針の作成および周知が行われました。

・がん患者等に対する就職支援モデル事業(2013年~)
ハローワークにおける、がん患者への就職支援事業の実施がスタートしました。これは、がん治療を行う拠点病院などの最寄りのハローワークに専門相談員を配置し、がん患者の希望や治療状況などに応じて、職業相談や職業紹介をはじめとする支援を行うモデル事業です。
2013年度には、全国5ヵ所のハローワーク(東京、神奈川、静岡、兵庫、愛媛)で実施されました。

3 仕事との両立支援サポートの必要性

がん治療と仕事の両立支援の必要性が、国だけでなく企業側にも問われています。この背景としては、企業を取り巻く外部環境の変化や、がん治療の進歩などがあるといえるでしょう。

企業を取り巻く外部環境の変化

近年では、人材確保の必要性や、企業における健康経営の意識が高まりを見せています。こうした企業を取り巻く環境変化が、就労者の治療と仕事の両立支援の推進を助長させているといえそうです。

・人材不足、人材確保に対する危機感の高まり
多くの中小企業が人手不足を課題としており、人材確保のニーズは高まりを見せています。雇用側が業務に精通した従業員(がん患者)の治療と仕事の両立支援を通して、積極的に離職防止や職場復帰のサポートを行う必要があるのです。

・健康経営に対する認識・意識の高まり
従業員の生産性向上や組織の活性化を目指す、従業員の健康管理を含めた経営戦略を実践する「健康経営」の認識も広まりつつあります。治療と仕事の両立支援は、従業員への健康投資として重要な位置付けとなるでしょう。

がん治療の進歩

2006年のがん対策基本法の成立以降、日本におけるがん治療が進み、医療体制や相談支援体制も徐々に充実してきました。こうしたがん治療の進歩も、就労者の治療と仕事の両立支援の重要性をさらに高めています。

例を挙げると、2007年にはがん診療連携拠点病院数は「286ヵ所」でしたが、2018年には「401ヵ所」に増加しています。
ほかにも、治療の初期段階からの緩和ケアの実施や、相談支援センターの設置による相談体制の確立など、がん患者に向けた医療体制の充実度は高まっています。
治療を続けながら働く人々が増えたことで、企業側からの支援も必要になっているといえるでしょう。

※出典:厚生労働省 がん・疾病対策課「我が国のこれまでのがん対策について」

4 おわりに

企業の治療と仕事の両立支援の事例を見てみると、従業員ががんと診断されたり、亡くなってしまったりしたことをきっかけに、本格的に対策を始める企業も少なくありません。
従業員の健康と組織の維持のためにも、健康管理を推進する取組みの見直しや両立支援を、企業として検討してみることをおすすめします。

MKT-2019-501

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