いま、目の前にある課題にいかに向き合い、行動していくべきかー。リーダーに求められる挑戦し続ける姿勢とは。

「経営者から学ぶ」対談シリーズは、企業経営にも通ずるチームマネジメントのスペシャリスト、青山学院大学陸上競技部を箱根駅伝4連覇、大学駅伝3冠へと導いた原晋監督が様々なフィールドで活躍する経営者オーナーの実例を検証し、日本を革新していく中小企業経営のヒントを探っていきます。

第一回はまず、ナビゲーターである原 監督自身のマネジメントメソッドについてお話を伺いました。

2015年から箱根駅伝で4年連続総合優勝を達成した青山学院大学(以下、青学とする)陸上競技部。しかし、2004年に原晋監督が就任した当初は、優勝はおろか、28年間、大会に出場することすらできない弱小部でした。自らがサラリーマン時代に培った手法を大学の陸上部に取り入れ、わずか10年余りで日本屈指の強豪校に育て上げたその過程の中には、会社経営に通じるヒントがあるはずです。

監督就任当時に見えていた課題。

ーー監督に就任した当時の状況を教えてください。

2004年、37歳のときにサラリーマンを辞め、青学陸上競技部の監督に就任しました。当時の青学は28年間、箱根駅伝から遠ざかっているチーム。そして私自身ランナーであり、大学卒業後も社会人チームで活動していましたが、27歳で選手生活を引退し、その後はずっとサラリーマンとして過ごし、約10年間陸上界を離れていました。ところが久しぶりに現場に戻ってみると、そこには10年前となんら変わらない状況が広がっていました。

ーーどういう部分で10年前と同じと感じたのでしょうか。

例えば上意下達の一方的な指導で、褒める指導というのはほとんどなく、昭和の体育会気質のままでしたね。ウォーミングアップなんて、私が小学生の頃となんら変わらない体操をしているし、補強運動も腕立て腹筋、背筋が主体。陸上界は10年前どころか20年、30年前と同じだったんです。私は監督経験はありませんでしたが、これは何とかなる、勝てる、強くなるなと実感しました。

人を育てるために、まず組織を作り上げる。

ーー勝てるチームにするために、まず何を変えていったのでしょうか。

旧態依然としていたのは陸上界だけではありません。青学陸上競技部も同じでした。寮は門限もなく、みんな好き勝手に酒を飲んだり麻雀をしている有様。どこから手をつけるかを考えたときにまずは土台となる組織づくりからスタートしました。

ーー組織づくりからスタートしたのはどうしてですか。 

「より良い組織が、より良い人材を育てる」というのが私の考えです。もし一人のカリスマに頼るんだったら組織はいらないと思います。とてつもない才能を持ったランナーが圧倒的な大差をつけてくれるのであれば、それで勝てるでしょう。でも、当時の青学にはそんな優秀な人材は来ませんし、そんなスーパースターがいたとしても、活躍できるような状況ではありませんでした。2015年に初めて箱根駅伝で総合優勝をしましたが、そのときのメンバーが監督就任1年目に揃っていたとしても、私は優勝できていなかったと思います。どんなに良い人材がいても、土壌が良くなくては花は咲きません。人を育てるためには良い組織を作る必要があると思います。

組織に関わる人、全員に理念を表明する。

ーー組織を作る上でトップは何をするべきなのでしょうか。

全員が同じ方向を向いていなければ、チームはバラバラになってしまいます。そこで大切なのがチームの理念です。私が部を任されたときに決めた理念は「箱根駅伝を通じて社会に有益な人間を作る」でした。人として成長させてあげられるかどうか。駅伝に勝った負けたということではなく、箱根駅伝というステージを利用しながら、部の取り組みを通じて様々なことを学ばせ、社会に役立つ立派な人間に育てるというものです。

ーー理念を実現させるために、具体的には何をしたのでしょうか。

そんなことかと思われるかも知れませんが、「規則正しい生活を徹底させること」でした。長距離界においてはこれを疎かにするとパフォーマンスを発揮できません。いくら素晴らしい環境を整えて良いトレーニングをしても、走る当人が適当に過ごしていたら、それは血となり肉とならないわけです。朝起きて、夜早く寝て、3食しっかり食事をとる。このごく当たり前のことをやらせるためには、寮則を作り、走る以前の「生きる基礎」を築く必要があります。当然、今までは自由にやってきたわけですから、反発する子もいます。でも、そこは説得材料を持って、理論武装をして立ち向かうんですよ。侃々諤々しながら一緒にルールを作っていきました。

身近にいることで見える景色がある。

ーー就任当初の目標は「3年で箱根駅伝に出場する」ことでした。ところが、3年目は予選落ちという結果に終わりました。

このとき監督を解任されそうになりました。私の読みの甘さや努力不足もありますけど、やはり3年という期間では時間が足りなかったですね。私は組織の成熟を4ステージ(段階)で考えています。ステージ1は、命令型。監督の命令で全員が動きます。その次のステージ2は、指示型。監督が代表者に指示を出し、代表者が部員に伝えて動きます。ここまでが一般的な運動部の組織だと思います。でも、私の考える組織はここからさらに成熟を促します。ステージ3は、投げかけ型。監督が代表者に方向性を伝え、代表者と部員が自主的に考え動きます。そして、ステージ4は、サポート型。外部指導者も巻き込み、部員が考えて動き、監督は部員のサポート役に徹します。現在の部はステージ4になっていますが、3年目のこのときはまだステージ1の状態で、組織としてまだまだ未熟でした。それでも私としては、間もなく花開くときが来るという確信がありました。

ーー実際、その翌年の箱根駅伝予選会では大会出場にあと一歩のところまで迫り、これまでの過程が間違いではなかったことが証明されました。でも、どうして原監督は確信を持つことができたのですか。 

学生達の顔つきです。私は寮で一緒に暮らしていましたから、改革を進めていくにつれ表情が豊かになっていくのを感じていました。練習もやらされるのではなく、自主的にするのが当たり前になってきたなと。部員達と同じ釜の飯を食べ、日々接してきたからこそ、彼らの変化を肌で感じとることができました。

これは中小企業の経営者のみなさんにも通じるのではないかと思っています。大企業では社長と社員が接することはあまりないですよね。でも、中小企業の良さというのは、社長さんと社員の距離が近いことだと思います。社員と密に接することで、成長や変化を感じることができます。

チーム作りの基本形と、組織を成長させる5つの要素。

ーー青学陸上競技部は成長を遂げ、常に優勝争いをする強豪校になりました。大学は4年間で学生が卒業し、メンバーが毎年変わっていきます。それでも成長を続けられたのはどうしてでしょうか。

実は最近整理できたのですが、チーム作りには基本形というものがあるのです。それは次の3つです。①目標理念が根付いていること。②傍観者主義にならない。③他者責任にしない。この3つの要素がきちんとできていると、好循環を生みだし、チームは成長します。

もう一つ大切なのが、組織を成長させる5つの要素です。①知ること。②理解すること。③行動すること。④定着させること。⑤相手に教える・伝えること。これらを常に意識することが、とても大切です。知ったことをしっかりと理解し、行動に移し、自分のものとして定着させる。すると、相手に伝えることができるようになります。組織にいる人間が常にこれを意識していれば、たとえメンバーが変わったとしても、組織は同じように進んでいきます。

成熟したチームに必要なもの。

ーー勝ち続けていくことで、チームにはどんな変化が起こりますか。

チームが成熟し、ある程度の成果を上げると学生達は、この部に入ったらそれだけで強くなると錯覚し出すのです。だからいつも学生達には「部にいるだけで強くなると思うなよ。強化メソッドはちゃんとあるけれど、やるかやらないかは最終的にはお前達次第だよ」という話を口酸っぱく言い続けています。

ーー原監督ご自身の中では何か変化がありますか。 

勝ち続けていると、モチベーションは常に高いままと思われるようですが、自分のなかでは乱高下しています。もう辞めたいなと思うことだってあります。そういうときは違う業界の人と夢を語るようにしています。私はよくベンチャー企業の社長さんとお話をしますが、みなさんの熱い想いを聞くことでモチベーションが高まりますし、全く違う業界の話を聞くことで、物事を見る視点が変わり、新しい発見をすることもあります。それでも熱意が湧かなくなったときは、辞めるときだと思います。学生達は夢を持って入部してくるわけですから、能力を引き上げるだけの熱量を私が持っていないとダメですよね。

ーートップに立つ人間にとって熱量は必要なのでしょうか。

これは中小企業の経営者の皆さんも同じだと思いますが、トップが熱い想いを持たないと、組織を活性化することはできないのではないでしょうか。もし違う業界の人と話をすることが難しければ、テレビのドキュメンタリー番組や映画でもいいと思います。心に響くものを見て、自分と同化させて、また頑張ろうと自分を奮い立たせることが大切だと思います。

経営者のチャレンジはつづく

ーー最後に頑張っている中小企業の経営者のみなさんへメッセージをお願いします。

中小企業を経営するみなさんが日本社会をしっかりと支えてくださっていることお蔭で、日本の成長は続いているのだと思います。日本の技術、働く意欲、そういうベースを作られているのは、中小企業で働くみなさんです。ぜひ、これからも熱き想いを持って、チャレンジを続けて行ってほしいと思います。

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