1 海外展開を検討する中小企業が増えてきています

人口減少等の影響により国内マーケットが縮小していくと考えられる中、大企業だけではなく中小企業においても、成長著しいアジア市場等の海外の需要を取り込むため、海外展開を検討する企業が増えてきています。

もっとも、海外展開をする際には、国内とは異なる海外特有のリスクに対し適切に対応をしていく必要があります。実際、海外展開を始めたものの、リスクマネジメントがうまくできず、撤退を余儀なくされてしまった例も少なくありません。

本コラムでは、「新輸出大国コンソーシアム」など中小企業の海外展開を後押しする施策について、代表的なものを紹介したうえで、海外展開に伴うリスク等について、概要を解説いたします。

 

※出典:独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)「新輸出大国コンソーシアム

2 充実した支援体制~中小企業の海外展開を後押しする様々な取り組み~

現在、中小企業の海外展開を総合的に支援する観点から、国や行政により様々な施策が行われています。

平成28年2月に独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)を中心に創設された「新輸出大国コンソーシアム」は、政府系機関、地域の金融機関や商工会議所など国内 各地域の企業支援機関が幅広く結集し、海外展開を図る中堅・中小企業等に対して総合的な支援を行っています。

大企業と比べて十分なマンパワーをもたない中小企業の実情を踏まえ、海外ビジネスに精通した専門家を活用しながら、海外事業戦略の策定から販路開拓、さらには現地人材の確保等に至るまで、総合的な支援が行われています。

 

 

また、中小企業庁が運営しているポータルサイト「ミラサポ」では、課題に応じた専門家を選び、支援機関を通じ派遣を受ける専門家相談制度や『「我に続け、海外展開!」応援隊』と題して、既に海外展開を行い、成功している中小企業の事例を紹介するなどしています。

 

※出典:中小企業庁「ミラサポ☆海外展開

 

このほかにも、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)や株式会社国際協力銀行(JBIC)等の政府系金融機関等においても、様々な施策が行われており、一般的にリソースの限られた中小企業においては、海外展開に際し、これらの制度をうまく活用することが有用です。

 中小企業庁では、海外展開支援施策を活用する際の手引きとして「明日から、世界が相手だ。-中小企業海外展開支援施策集2019-」を公表しています。まずは手引きを参考に、自社で活用できる制度はないか、情報収集から始めてみると良いでしょう。

 

※出典:中小企業庁「明日から、世界が相手だ。-中小企業海外展開支援施策集2019-

3 海外展開に伴うリスク

次に、海外展開に伴うリスクについて、具体的に見ていくことにしましょう。

中小機構が作成・公表している「中小企業のための海外リスクマネジメントマニュアル」では、海外進出に際し、事業可能性調査(Feasibility Study)を実施し、以下のリスクについて調査しておくことが推奨されています。

 

※出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のための海外リスクマネジメントマニュアル

海外では言語や文化、商慣習はもちろんのこと、法制度も日本とは異なります。たとえば、「賄賂」と聞くと、公務員に対する金銭等の利益の供与を想定してしまいがちですが、中国では、いわゆる商業賄賂についても規制がされており、注意が必要です。

JETROからは日系企業がトラブルに巻き込まれないように注意喚起の資料も公表されており、中国への海外展開を検討している場合には、事前に確認をしておくと良いでしょう。 

※出典:独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)「中国における商業賄賂立法の最新動向-日系企業が商業賄賂に巻き込まれないための留意点-

4 特に注意が必要な訴訟リスク

海外展開に伴う上記リスクのうち、特に注意が必要なのは、製品不良や環境問題、知的財産権の侵害、さらには独占禁止法違反など、現地における訴訟に発展する可能性があるリスクです。

現在では、消費者の権利意識の向上により、アメリカだけでなくアジア諸国を含む各国において、PL訴訟制度や集団訴訟制度が整備されており、製品の欠陥に起因するPL訴訟や環境破壊等を原因として、企業が高額の損害賠償請求に晒されるリスクが高まっています。

また、海外で訴訟等の法的トラブルが生じると、弁護士費用が高額なため、損害賠償とは別に多額の弁護士費用等の争訟対応費用が必要になることにも注意が必要です。

5 中小企業こそリスクマネジメントを!

マンパワーが限られ、潤沢な予算があるわけではない中小企業においては、想定されるリスクを洗い出したうえで、優先順位をつけて計画的に対策を実施していくことが大企業以上に求められます。

中小機構では、アジアの諸国を対象に、上記リスクについて、各国別にAからDまでランク分けし、かつ、固有の留意事項をまとめており、参考になります(「各国別リスク事象」)。

また、実務的には、社内におけるリスク管理体制の整備を進めつつ、十分な体制が整うまでの間は、海外PL保険や貿易保険等を活用し、リスクヘッジを行うことも工夫の一つです。

本コラムを参考に、各種支援施策等をうまく活用しつつ、リスクマネジメントにも十分留意しながら、海外展開に向けた準備を進めて戴ければ幸いです。

※出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「各国別リスク事象一覧 中小企業のリスク認識と想定事例

 (このコラムの内容は、令和元年5月現在の法令等を前提にしております)。

(執筆)五常総合法律事務所 弁護士 持田 大輔

19-2F8022

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