1 温暖化の影響等による水災の増加

近年、温暖化の影響などにより、全国各地で台風や局所的な集中(ゲリラ)豪雨などによる水災が増加しています。

気象庁によると、全国(アメダスによる観測)の1時間降水量50mm以上の年間発生回数は、年々増加傾向にあり、最近10年間の平均年間発生回数(約238回)は、統計を開始した最初の10年間(1976年~1985年)と比べ約1.4倍に増加しているとのデータも公表されています。

このように増加傾向にある水災リスクに対し、企業にはどのような対応が求められているのでしょうか?

本コラムでは、企業に求められる水災対策にスポットを当てて、基本的な事項を解説いたします。

2 外水氾濫と内水氾濫

まず、水災には様々な種類のものが含まれますが、企業の対策を考えるうえではいわゆる「外水氾濫」と「内水氾濫」の違いを認識することが大切です。

外水氾濫とは、河川の堤防から水が溢れ又は堤防が決壊して、河川の水が流れ出して引き起こされる浸水害をいい、内水氾濫とは、下水道の雨水排水能力を超える降雨により雨を河川等の公共の水域に放流できない場合に発生する浸水害をいいます。

(※国土交通省HPより引用)

都市部においては、道路がアスファルトで覆われており、雨水が地面に浸水しにくい構造のため局所的な集中豪雨により、降雨量が排水路や下水管の処理能力を超えてしまうことで内水氾濫が発生します。

このため、仮に自社の近くに河川が存在しない場合でも集中豪雨を原因とする内水氾濫により被害を受ける可能性があります。

また、自社が被災し事業の中断を余儀なくされた場合はもちろんのこと、仮に自社が直接の被災を免れた場合でも、周辺の電気・水道・ガス等の公共インフラ設備が被災しライフラインの供給停止が発生することで、事業を中断せざるを得ず、売上の減少や事業中断中の固定費(例えば、従業員の給与等)の支出等の間接損害が生じる場合があることも、事前に想定しておく必要があります。

3 求められる水災リスクへの備え

それでは、増加傾向にある水災リスクに備えるため、企業には具体的にどのような対策が求められているのでしょうか。

(1)浸水リスクの確認と被害の想定

まず、外水氾濫や内水氾濫が生じた場合に、自社の周辺でどの程度の浸水が想定されているかについては、行政が公表している浸水ハザードマップ※で確認することができます。

自社の立地等を踏まえ、どの程度の浸水リスクがあるのか確認をしてみましょう。

次に、実際に被災した場合、自社にどの程度の損害が生じるのか、直接的な損害だけではなく、売上の減少や事業中断中の固定費の支出等の間接的な損害も含めて、具体的にシミュレーションしてみることが大切です。

※内水氾濫についてはハザードマップを公表していない市区町村もあります。

 

(2)浸水対策用品の準備と被害軽減策

そのうえで、事前にできる対策としては、まず土嚢や止水板などの浸水対策用品の準備や排水系統の点検と清掃が挙げられます。

また、物理的に可能な場合には、サーバーや機械、さらには電気設備等や自社で商品・製品等の保管場所を一定の高さがあるところへ設置する、あるいは緊急時に移動できる準備を進めておくことも有用です。

特に、顧客情報等の重要なデータについては、日頃から定期的にバックアップを行う仕組み作りを心掛けましょう。


(3)リスクファイナンスの活用等

そして、早期に事業を復旧させる観点からは、損害保険等のリスクファイナンスを活用し必要な資金等の備えをしておくことも大切です。

平成29年にSOMPOリスクケアマネジメント株式会社(現 SOMPOリスクマネジメント株式会社)が公表した資料によれば、平成27年の関東・東北豪雨においては、約30%の企業が保険や共済に未加入でした。また、加入していた企業でもその半数は事業の復旧に必要な費用の半分しか保険でカバーできていなかったとの調査結果が示されています。特に、中小企業においては、平時の備えとしてのリスクファイナンスの活用が喫緊の課題であると言えます。

4 水災を想定したBCP(事業継続計画)の策定

これまで見てきた通り、水害リスクが事業に大きく影響を与える可能性があると言えます。そのためには、地震だけではなく水災をも想定した事業継続計画を策定しておくことも必要です。

地震は事前に予測することが難しい一方で、水災は事前にある程度予測が立つことが多いです。また、被害が生じるまでに一定の時間的猶予があり、この時間的猶予を防災に活用できるところが地震防災と水災防災の大きな違いです。

被害発生までの時間的猶予を使い水災を想定した事業継続計画を策定し、緊急時の対応業務を明確にしておくことが求められています。

 

(このコラムの内容は、平成31 年2月現在の法令等を前提にしております)。

(執筆)五常総合法律事務所 弁護士 持田 大輔

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