会社の利益と従業員を守るためには、業務で使用する社用車の維持管理は欠かせません。日常はもちろんのこと、降雪の可能性がある冬は雪対策を含め十分な対策を講じておきたいものです。

雪への対策を怠り、万が一事故を起こしてしまうと、従業員と社用車を管理する立場の会社が罪に問われることもあります。そうならないために、本記事では雪道における社用車のトラブルとその対策などについて解説します。

冬に起こりやすい車トラブル

ヒトの場合、暑ければ薄着になり寒ければ厚着をすることで調整し、気温や天候の状況に合わせることができますが、機械である車は自らの意志で対策できません。

個人所有、会社所有を問わず、降雪や路面の凍結が起こり得る冬の道では、思わぬトラブルや事故に巻き込まれる可能性があります。それらのトラブルや事故に巻き込まれない、起こさないためには、事前にどのような事象があるのかを把握しておくことが大切です。

冬に起こりやすい車トラブルについて、「業務で車を使う」という観点から対応を解説していきます。

冬の道で注意したい「ブラックアイスバーン」と「ホワイトアウト」

北陸から東北、北海道などの日常的に雪が降る地域で注意しなければいけないのは、降雪や積雪に起因する交通トラブルです。

 

「雪=滑る」という感覚は、もはや当たり前かもしれませんが、路面の凍結(アイスバーン)は積もった雪よりも滑りやすく、もっとも注意しなければなりません。特に、夜間は凍った路面が目視で判別できない「ブラックアイスバーン」が発生します。

また、大荒れの天候で起こりやすい「ホワイトアウト」では、前が見えないだけでなく方向感覚や平衡感覚まで奪ってしまうため冬の道で注意しなければならない現象です。

万が一ホワイトアウトに巻き込まれてしまったときは、ハザードを点け最徐行するか、路肩の判別ができる場合は視界が回復するまで待機する必要があります。このような冬に起こりやすい現象や対処方法も従業員に周知する必要があるでしょう。

寒さによる車の不具合

降雪、非降雪地域を問わず車自体に起こるトラブルとして注意しなければならないのは、バッテリー上がりやフロントガラス、窓ガラス、燃料の凍結です。

スマートフォンのバッテリーもそうですが、車に搭載されているバッテリーも温度によって大きく影響を受けます。

 

また、気温が低いことで起きる凍結も注意したいポイントです。

例えば朝イチで営業先に向かう際、フロントガラスが凍っていたら、ついお湯を掛けてしまいたくなりますが、ガラスは急激な温度変化により割れてしまう可能性があります。お湯ではなく水道水やぬるま湯、または、市販の「解氷スプレー」の使用がおすすめです。

そのほかにも社用車に備えておくべきグッズについても後ほど紹介するので、会社として用意しておくと良いでしょう。

雪対策を行わないと法令違反になる?

ノーマルタイヤで雪道を走行した場合、個人はもちろんのこと会社としても法令違反となってしまう恐れがあります。

自動車の運行に伴う安全について定めた道路交通法71条には、他人を危険にさらしてはならないという趣旨のことが書かれ、それに伴い基づき、各都道府県の公安委員会では、積雪時や凍結時のルールを定めています。

 

また、交通事故被害者の救済と保護を目的に設けられている「自動車損害賠償保障法」では、実際に運転していた人以外に、運転者を指導監督し管理する人、自動車の運行によって利益を得ている人を「運行供用者」と定めています。

 

例えば、従業員が社用車を運転中に人身事故を起こしてしまった場合、会社も運行供用者としてその責任を負い賠償金を支払わなければなりません。

また、従業員が自己判断で外出し起こした人身事故であっても、使用者責任(民法第715条)によって、会社として従業員(加害者)と連携し、被害者に対して損害賠償の責任を負わなければならない可能性も十分考えられます。

そのため、雪が積もり運転に危険な状態になることが予期されるのであれば、従業員の自動車運転を控えさせるなどの社内ルール整備も検討すべきです。この点は後段であらためて述べます。

 

こちらの記事もあわせてご覧ください。

運行供用者責任とは?会社が問われる責任を社用車事故のケース別に解説

企業としてリスクを未然に防ぐための心構え

これまで紹介してきたトラブル以外にも、雪道には思わぬ危険が潜んでいるものです。

企業として従業員と社用車の安全を守るためには、起こるかもしれないリスクを予測し、未然に防がなければなりません。

 

例えば、先に紹介したホワイトアウトやブラックアイスバーンは、天気予報である程度予測することが可能です。

ホワイトアウトは降雪量が多く、台風並みの風が吹く状況で発生しやすくなります。また、ブラックアイスバーンは、昼間に雪が溶け再び気温が下がり再凍結する現象です。

上記のような急な天候の変化に備え、社用車には基本的な雪対策を講じなければなりません。そして、明らかに荒天が予想される場合は、外出させないといった決断が従業員と社用車を守り、会社の利益を守ることに繋がります。

企業が行うべき社用車の具体的な雪対策

降雪地域の企業はもちろん、1シーズンに降るか降らないかという非降雪地域であっても、冬は道が凍結する恐れがあります。

社用車の備えと運転者の心構えなど、経営者としてこれだけは押さえておきたい基本的な雪対策を紹介します。

社用車の不具合に備える

車がきちんと機能しなければ、普段の道以上に過酷な雪道での安全は確保できません。社用車の状態を整え、雪道に備えておきましょう。

まずは、普段からの点検項目に加え、冬の道ならではのポイントを解説します。

スタッドレスタイヤに交換する

スタッドレスタイヤへの交換は、もはや一般的な冬季の装備です。

非降雪地域に拠点がある企業の中には、スタッドレスタイヤを用意していないケースがあるかもしれません。しかし、最低気温が3度程度でも路面凍結の恐れがあるため、スタッドレスタイヤに交換しておいたほうが安心です。

 

また、スタッドレスタイヤの寿命は4年程度、冬用タイヤとして使用できる限界の残溝は、新品の50%までとされています。スタッドレスタイヤで安全に走行するため、定期的な点検を心がけましょう。

エンジンルームの点検

季節を問わず、安全運転のためにはエンジンルームの点検が欠かせません。雪道や冬の対策として、特に注意したいのはバッテリーと冷却水です。

まず、バッテリーは気温が低下すると本来の能力を発揮できなくなり、バッテリー上がりを起こしやすくなります。前回の交換から3年以上経っている、または、バッテリー液の減りがバラバラでバッテリー自体が膨らんでいる場合などは、早めの交換がおすすめです。

 

冷却水を点検するポイントは、量と濃度です。冷却水のリザーバータンクが規定量(LOWレベル)を切っている場合、オーバーヒートの危険があるため補充しましょう。

冷却水は日々使用しているだけで量が減少すると共に、空気中の水分が混ざることで濃度が薄くなっていきます。濃度は目視確認することができませんが、色が薄くなっていたり変色していたりする場合には早めの交換が必要です。

冬用ワイパーに交換する

雪が降るような気温では、ワイパーのゴム自体が固くなることに加え、ワイパーブレードやワイパーゴムに付属する金属が凍結する可能性があります。無理に動かすとフロントガラスを傷つける恐れがあるだけでなく、拭き取り能力が著しく低下し視界を十分確保することができません。

 

豪雪地帯では当たり前の備えとなっているのが、冬用ワイパーです。冬用ワイパーはワイパーブレード全体がゴムで覆われており、雪の付着を防止し凍結しにくい構造になっています。

通常のワイパーブレード交換と手間は変わらず、誰でも簡単にできるため、非降雪地域であっても1台に1セット備えておくと安心です。

社内ルールを整備する

社用車を安全に運行する上で避けたいのが、認識の相違による従業員個々の単独行動です。

大事なアポがある、毎日決まった訪問先があるなど、仕事熱心な従業員程無理をしてでも出かけてしまう可能性があります。また、交通網がマヒするような天候では、従業員それぞれのおかれている状況に差が生まれ、組織として機能しなくなるかもしれません。

従業員に危険な運転をさせず、組織としての機能を維持するためには、下記のように雪が降ったときのルールをあらかじめ定めておきましょう。

 

●天気予報で翌日雪予報となっている場合は、前日には予定している訪問先へ天候によっては予定を変更する場合があることを連絡する

●明らかな積雪が見込まれる場合は、無理に車での移動を避け電車を利用するなど

 

全員平等なルールを設けておけば、従業員に無理をさせる必要が無くなります。

従業員の運転に関する教育を行う

ここまで紹介した対策のほか、雪道で社用車の安全運行に欠かせないのは、従業員個々の安全運転に対する意識です。

雪道への装備が満足に整っていない状態では、例えプロドライバーであっても車をまともに制御することはできません。アポを優先するあまり、雪道で事故を起こしてしまっては更なる損失に繋がります。

 

雪道以外、年間を通しても同じことですが、スケジュールにはできるだけ余裕を持たせ、無理をしない(させない)ことが大切です。そして、ミーティングや朝礼などで、安全運転への意識を共有しましょう。

社用車の雪対策を行う企業の事例

雪対策が重要と分かっていても、いったい何から手を付けて良いものかと悩ましく思われるかもしれません。そこで参考にしたいのが、車の運行を仕事としている運送会社やタクシー会社の対策です。

 

スタッドレスタイヤやチェーンといった滑り止めは、安全第一である運送事業者では常識の装備です。また、雪が降る中一晩停車するようなトラックでは、スコップや軍手といった雪かき道具を搭載していることもあります。

ひとつひとつ細かく雪対策の装備を整えるのが面倒といった場合には、使い捨てトイレや保存食、保存水がセットになっている防災キットを装備しておくのがおすすめです。

 

そして、いくら装備を整えていても、雪道の運転には技術と慣れが欠かせません。急ブレーキや急ハンドルといった“急”の付く運転は、滑りやすい雪道では厳禁です。

JAF(日本自動車連盟)や各地の教習所では、雪道運転の講習会が行われています。雪道の運転経験がない従業員がいる場合には、これらの講習会への参加もおすすめです。

社用車に備えておくべき雪対策グッズ

ここからは、社用車に備えておきたい基本的な雪対策グッズをいくつか紹介します。

タイヤチェーン

冬用タイヤとして認識されているスタッドレスタイヤですが、決して万能ではありません。スタッドレスタイヤがもっとも力を発揮するのは、凍結路面(アイスバーンは除く)や圧雪路面です。特に降り積もったばかりの新雪では、簡単にタイヤが埋まってしまいます。

そのため、例えスタッドレスタイヤであってもチェーンは携行しておいたほうが安心です。年に1度積もるかどうかという地域の場合は、コンパクトに収納でき緊急使用に適した布製のチェーンもあります。

ゴム手袋とスコップ

雪の積もった駐車場から出るときだけじゃなく、万が一雪道での立ち往生でもあると安心なのが、ゴム手袋とスコップです。

 

立ち往生した車内に留まった結果、雪でマフラー(排気管)が塞がれてしまい、車内にいた方が一酸化炭素中毒で亡くなるというニュースを耳にすることがあります。車内で夜を明かさなければならない場合、車の周りを雪掻きしたほうが安心です。

その際、手が濡れてしまうと体温低下の原因となるため、防水性のあるゴム手袋と小型のスコップを備えておきましょう。

防寒用品

対策が進んでいるものの、1シーズンに1度は日本のどこかで大雪による大規模な立ち往生が発生しています。

もちろん、大雪の予報が出されている場合には外出しないのが一番ですが、立ち往生はどこで発生するか的確に予想することは困難です。万が一立ち往生に巻き込まれてしまった場合、数時間は車内で過ごさなければなりません。

その際、暖を取るためにエンジンをかけっぱなしにしたくなりますが、雪が激しく降り続いている状況では、マフラーが雪に埋もれてしまうことによる一酸化炭素中毒の危険があります。

そこで、使い捨てカイロや保温シート、毛布などを備えておくと、エンジンをかけることなく車内で過ごすことができます。

日常点検を行い適切な車両管理を行おう

毎年冬には雪が積もる降雪地域ではなく、年に一度積もるかどうかという非降雪地域の場合、つい社用車の雪対策を怠りがちです。しかし、東京でも数年に1度は、交通機関がマヒするほどの積雪を記録することがあるため、会社の利益と従業員の安全を守るためには、十分な雪対策をしなければなりません。

日常点検はもちろんのこと、雪に特化した装備が適切に携行され機能するかも点検しておくと安心です。

執筆者プロフィール:

増田真吾

元自動車整備士ライター

国産車ディーラー、車検工場でおよそ15年自動車整備士として勤務したのち、大手中古車販売店の本部業務を経て、急転直下で独立しフリーの自動車ライターに転身。国家資格整備士と自動車検査員資格を保有し、レースから整備、車検、中古車、そしてメカニカルな分野まで幅広い知見を持つ。

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