1 最近、注目をされている高速道路における「人」対「車」の事故

 内閣府が公表している交通安全白書(令和元年版)によると、平成30年の高速道路における交通事故発生件数は7,934件で、これによる死者数は173人、負傷者数は1万3,673人とされています。前年と比べると、交通事故発生件数及び負傷者数は減少したものの、死者数は2.4%増加しています。

 このうち、最近、特に注目をされているのが高速道路における「人」対「車」の事故です。パンクしたタイヤの修理のため降車していた人が後続のトラックに撥ねられてしまう、あるいは、事故で停車中の車両に後続車が衝突し、降車中の運転手が巻き込まれてしまうなど、故障や事故のため車から降りていた人が死亡してしまうことが後を絶ちません。

 営業等のため、従業員に対し日常的に社用車の使用を認めている企業にとっては、従業員がこれらの事故に巻き込まれてしまうリスクは、無視することのできない重要なリスクと言えます。今回は、高速道路における降車中の事故をテーマに、従業員を守るため、企業に求められるリスク管理について、概要を解説いたします。

2 高速道路での事故の特徴と降車中の事故が注目される背景

(1)ちょっとした気の緩みが重大事故に

 はじめに、高速道路における事故の特徴から見ていくことにしましょう。読者の方の中には、高速道路は歩行者や自転車の通行がなく、信号もないため、事故が発生するリスクはむしろ少ないのでは?と考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、高速道路での走行は、一般道路に比べて、必然的にスピードを出した状態での走行とならざるを得ないため、前方不注意等のちょっとした気の緩みや、わずかなハンドル操作のミスが事故に結びつきやすく、ひとたび事故が発生すると、関係車両や死者が多数に及ぶ重大事故に発展するケースが多いのが特徴です。実際、令和元年版の交通安全白書によると、平成30年の高速道路における死亡事故率(2.0%)は、一般道路における死亡事故率(0.8%)に比べ2倍以上となっています。

 

出典:内閣府ホームページ 交通安全白書「第2節 平成30年中の道路交通事故の状況

 

(2)いわゆる「あおり運転」を巡るトラブルの社会問題化

 このように、ひとたび事故が起きると、重大な事故に発展しかねない高速道路での事故のうち、最近、特に注目をされているのが高速道路における降車中の「人」対「車」の事故です。背景としては、故障や事故を原因として車から降りていた場合に加え、いわゆる「あおり運転」等の他のドライバーの問題行為に起因するトラブルも挙げられます。

2017年6月には、あおり運転を巡るトラブルから事故に発展し、夫婦2人が亡くなったいわゆる「東名高速夫婦死亡事故」が大きな話題となり、ドライブレコーダーやSNSの普及により、あおり運転を巡るトラブルが日本全国で起きていることが判明しました。あおり運転では、被害者が高速道路で強引に停車させられ、車から降ろされてしまうこともあるようです。

現在、あおり運転を処罰できるように法律の改正が検討されるなどしていますが、あおり運転等の他のドライバーの問題行為に起因するトラブルは、今なお、誰しもが被害者となりかねない身近なリスクと言えます。

3 従業員が降車中に事故に巻き込まれてしまった場合のリスク

  次に、従業員が高速道路での降車中に事故に巻き込まれてしまった場合、2つのリスクが考えられます。どのようなリスクがあるのか、具体的に見ていくことにしましょう。 

(1)法人向け自動車保険(人身傷害保険)の補償範囲

 これまで、法人向け自動車保険の人身傷害保険においては、補償の対象は乗車中の事故に限定され、従業員が車から離れた際に遭った事故については補償の対象外とされることが一般的でした。 このため、会社において法人向けの自動車保険に加入している場合でも、従業員の降車中の事故については、保険によりカバーされないというリスクがあります。

(2)大幅な過失相殺

 加えて、高速道路においては、そもそも人が入ったり、歩いたりすることが想定されていないため(高速自動車国道法17条1項、自動車専用道路については道路法48条の11第1項)、「人」対「車」の事故が起きた場合、一般道路に比べ、人側の過失割合が重く評価され、損害額の算定に際しては大幅な過失相殺がされるのが一般的です。たとえば、駐停車車両の近くで車外に出ている歩行者の事故については、原則として歩行者側の過失が40、車側が60と評価されます(なお、停止表示機材を設置していたかどうかや、駐停車車両からどの程度離れていたかにより過失割合は修正されます)。このため、加害者の自動車保険(対人賠償責任保険)により保険金が支払われる場合でも、大幅な過失相殺がされてしまう結果、十分な補償が受けられない点に留意する必要があります。実際の損害額は、被害者である歩行者の年齢や収入等を考慮して算出されることになりますが、仮に歩行者が死亡する重大事故で損害額が1億円と算出された場合には、上記割合で過失相殺がされると、実際に支払われる金額は6,000万円となります。このように、従業員が高速道路での降車中に事故に巻き込まれると、自社の自動車保険(人身傷害保険)では補償が受けられず、また、加害者の自動車保険(対人賠償責任保険)においても大きな過失相殺がされ、十分な補償が受けられないリスクがあります。 

4 従業員を守るため企業に求められるリスク管理

 それでは、大切な従業員を守るため、企業にはどのようなリスク管理が求められているのでしょうか。

 (1)車両メンテナンス・走行前点検の徹底

 国土交通省が公表をしている「平成30年路上故障の実態調査結果」によると、高速道路で発生した車両故障(10,644件)のうち、タイヤの故障発生割合が58.7%と高い割合を占め、一般道路(35.3%)と比べても、高速道路ではパンクや空気圧不足を原因としたタイヤによる車両故障トラブルが多い傾向にあることが分かります。このため、車両管理規程等を整備し、日頃から車両メンテナンスを行うとともに、特に高速道路の走行前には、タイヤの摩耗量や外観の傷、さらには空気圧の確認等の点検を確実に実施することが大切です。

(2)トラブルが生じた際の対応フローの整備

 加えて、降車中の事故を防ぐ観点からは、運転者服務規程等を整備し、高速道路において故障や事故等が生じた場合の対応フローについて、あらかじめ整理しておくことも大切です。 突然、故障や事故に巻き込まれてしまった場合、誰しも動揺してしまい、常に冷静に行動できるわけではありません。 故障や事故等でやむを得ず高速道路上で停車する場合には、必ず、車線にはみ出さないよう路肩や非常駐車帯内に車を停め、後続車への合図(停止表示板、ハザードランプ、発炎筒等)を行い、同乗者も含めガードレールの外など安全な場所に避難し、非常電話や道路緊急ダイヤルで事故や故障の状況を速やかに通報する必要があります。 また、あおり運転等のトラブルが原因で、相手方が車外に出て、脅迫や窓ガラスを叩く等の暴力行為を受けた場合には、ドアがロックされていることを確認した上で、決して車外に出たり、窓を開けたりはせず、すぐに警察へ通報する、そして証拠化しておくことが求められます。これらの対応フローを整備し、場合によっては、すぐに確認できるように、車にリスト化したものを備え付けておくことも大切です。

(3)降車中の事故も補償する保険の活用

 また、最近では、あおり運転が問題化したことを踏まえ、高速道路における降車中の事故についても補償する法人向け自動車保険が出てきており、リスク管理の観点からは、このような保険を活用することも有益です。

 出典:国土交通省 「平成30年路上故障の実態調査結果」 

5 大切な従業員、そしてその家族を守るために

 最後に、車両管理規程や運転者服務規程は、整備するだけではなく、日頃から研修等を通じて、従業員に対し内容を周知して、自然と行動できるようにしておくことが大切です。 これまでの経験上、勤務時間中の交通事故を題材にした研修は、誰しもが巻き込まれる可能性のある身近なリスクのため、従業員の関心も高く、特に自社の具体的な業務に関連付けて有事の際の対応フローまで整理しておくと、より効果的です。また、会社としても、研修等を通じて、従業員を大切に守る姿勢を示すことは、従業員のモチベーションや帰属意識を高めるとともに、優秀な人材の確保にも繋がります。 故障や事故、あおり運転等のトラブルは、いつ誰にでも起こり得るリスクであることを前提に、大切な従業員を守る観点から、必要なリスクマネジメントはできているか、今一度、確認をしてみてください。

(このコラムの内容は、令和2年1月現在の法令等を前提にしております)。

(執筆)五常総合法律事務所 弁護士 持田 大輔

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