皆さま、いかがおすごしですか?旅にまつわるさまざまな仕事を手がける夫婦ユニット「旅音(たびおと)」が、日本から遠く離れた異国での、旅の思い出をお届けします。
今回の旅の舞台はベトナム中部の古都、ホイアン。16~17世紀頃、国際的な貿易港として栄えたこの街には、さまざまな国のエッセンスが散りばめられた築100年以上の建物が数多く残されています。
どこか懐かしい雰囲気が漂う旧市街は、夜になると色とりどりのランタンがあちこちで灯り、幻想的な世界へと一変します。
子どもとの旅で大切なのは無理せず焦らずのんびりペースで楽しむこと
当時5歳だった息子とベトナム縦断の旅をするため、真冬の日本を飛び出しました。ホイアンの旧市街に到着したのはお昼過ぎ。タクシーを降りたら、目の前にはノスタルジックな街の面影を残した家並みが広がっていて、思わず笑みがこぼれました。
すぐさま街歩きに出かけたい衝動に駆られたものの、息子を見ると、休みたいと顔にはっきり書いてあります。乾季で気温はあまり高くないシーズンとはいえ、日なたにいると汗ばむ陽気。涼しくなるまで、宿泊先の民家でのんびりすることにしました。
往時の面影を留める風景の中に身をおいて「何もしない」時間を楽しむ
日が傾きかけた頃、外に繰り出しました。狭い路地を通り抜けて、黄色い壁の民家が立ち並ぶ通りを、息子のペースに合わせてゆっくり歩いていきます。
西日に照らされて建物の陰影が際立つと、街の色合いが昼間よりもぐっと濃くなりました。
軒先で涼む商店主に声をかけて水を買い、空いている椅子に息子を座らせてもらってひと休み。
大量の荷物を積んだバイクや、ノンラーと呼ばれる円錐型の笠をかぶって天秤を担ぐ女性が、私たちの前を通り過ぎていきます。
特別な「何か」をしなくても、ただ通りを眺めているだけでもはっとする瞬間が何度もやってくるから、飽きることがありません。慌ただしく観光するだけでは見えてこないものが、ホイアンにはたくさん存在するような気がします。
美しい輝きを放つ夜のホイアンを魅力的に演出した突然の雨
トゥボン川沿いの建物をはじめ、旧市街一帯が色とりどりのランタンの灯りに包まれるホイアンの夜。夕食後にそぞろ歩いて幻想的な風景を満喫するつもりでいたのに、レストランを出る頃には本降りの雨になっていました。想定外の出来事は旅にはつきもの。しばらく店内で待ちます。
30分ほど経ったでしょうか。小雨になったのを確認してから夜の街へ。
待っていたのは、ひときわ鮮やかにランタンが輝くホイアンでした。雨のおかげで空気が澄み、しっとりとした雰囲気があたりを包みます。
川面に映るいくつもの光の帯がまた、特別な夜だと感じさせます。「きれいだね」と簡潔な感想を話す息子の心には、どんなふうに残るのでしょうか。
家族そろって素晴らしい風景に出合えた喜びをしみじみと噛み締めながら、宿泊先への帰路につきました。
次回予告:ここはどこでしょう?
一面、青の世界!この深く美しい青色の街並みを散策します。
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<著者プロフィール>
カメラマン(林澄里)、ライター(林加奈子)のふたりによる、旅にまつわるさまざまな仕事を手がける夫婦ユニット。単行本や雑誌の撮影・執筆、トークイベント出演など、活動は多岐にわたる。近年は息子といっしょに海外へ出かけるのが恒例行事に。著書に『インドホリック』(SPACE SHOWER BOOKS)、『中南米スイッチ』(新紀元社)。https://tabioto.com