熊本で地震に備え続けた くまもと愛で歩む代理店
地震学者が警鐘 地震に備えた保険の提案に切り替えた代理店
「自然が雄大で、みんな温かい人ばかり。いいところですよ、熊本は」。そう話すのは、保険代理店(AIGパートナーズ提携代理店)の弥頭百合子さんだ。生まれも育ちも熊本県。長年、地域に根付いた保険の提案を心がけてきた。なかでも大きな転機となったのは、2006年に地震学者に巡り合ったことだった。
「その先生はかねてから南阿蘇で地震の研究をなさっていて、熊本県の住宅地の下には活断層が走っていること、もういつ地震が発生しても不思議はないこと、いろんなリスクを私に教えてくださいました。私は先生の元に通い、自分でも情報を収集してみて、あっ、これは絶対に地震保険を勧めるべきだ、と思ったんです」
地震保険は単独では加入できない。火災保険とセットで加入する。地震保険は、家財だけ、建物だけというように範囲が選べるが、加入するとそのぶん保険料は上がる。
「熊本はそれまで大きな地震はありませんでしたから、きっと加入を渋られるお客さまが多いであろうということは予想できました。それでも、地震保険をつけない火災保険はもう提案しないと、その時に決めたんです」
火災保険の問い合わせをもらうたび、弥頭さんはあわせて地震保険への加入を提案した。どうして地震保険なのか。なぜ勧めたいのか。学者からの指摘や独自に収集して得た情報をもとに、理由をじっくりと説明した。相談者たちはよく「弥頭さんは入っととね?」と尋ね、弥頭さんが「もちろん入っとりますよ!」とすかさず答えると、「そうね、ほんなら僕らも入っとかなんね」。そんなやりとりも多かった。
震度7の熊本地震 益城町に近い自宅は全壊
2016年の春、恐れていたことが現実になった。前震が起きたのは4月14日。熊本県益城町を震源とし、最大震度7の地震が発生。その2日後である16日には前震を上回る本震が起き、熊本全域を襲った。
「益城町に近い我が家は、飛行機が落ちたのかと思うような衝撃を受け、全壊しました。街は瓦礫で埋め尽くされ、空襲にあったかのような状況でした」
自宅を失った弥頭さんは車中泊をしながら、自宅近くの公園にとどまり続けた。今こそ地域で支え合う必要があると感じたからだ。変わり果てた家や街を見るのは苦しかったが、「私は全壊・半壊・一部損の判断がなされれば、保険金が支払われることは確信していたんです」と弥頭さんは振り返る。
「でも、お客さまはどうでしょう? 私と同じく自宅が全壊・半壊してしまったお客さまは『本当に払ってもらえるのだろうか?』と不安でいっぱいのはず。きっと私以上に精神的に参っていらっしゃるに違いありません。だから、落ち込んでいる場合じゃありませんでした。一刻も早く保険金をお届けしたい。その一心で、AIGパートナーズの熊本支店や富士火災※の損害サービスと役割分担をして、お客さまに電話をかけ、保険金請求手続きのサポートを進めました」
自分を奮い立たせて動き続けていた最中、弥頭さんの元にお客さまから電話があった。「きたよ!」と受話器の向こうで聞こえる。「何がきた?」と尋ねると、「保険金が。もう入ってた。これで、見通しがたった」と明るい声を聞いて、心の底からホッとした。
「入っておいてよかった。 本当にありがとう」。そう話すのは卓夫さんだ。卓夫さんは、定年退職を機に火災保険を見直すことにした。その際、自宅も近く、かねてから友人付き合いをしていた弥頭さんに相談。最初は地震保険を考えていなかったものの、弥頭さんから地震のリスクがあることを聞いて加入を決めた。その後、熊本地震で自宅が半壊。まもなく保険の査定が入り、予想よりずっと早く保険金が支払われたという。
同じく、弥頭さんと40年越しで家族ぐるみのお付き合いをしていたというご夫妻。弥頭さんが地震保険の話をしているところに、愛娘が学校から帰宅し、「今日ね、学校で地震の話をきいたよ」。そんな娘の勧めもあり、ご夫婦は「ちょっと無理してでも入っておこうかなと思って」加入したところ、自宅が全壊。大切にしていたピアノなどが全ておしつぶされた。保険金の支えもあり、新しい家を建てることができたという。
“くまもと愛”をモットーに信頼される代理店を目指す
「お、弥頭さん! 大根持っていくね?」「おーい、ほうれん草ばやるよ」――畑の近くを通った弥頭さんの車は、農家の知人たちがくれた野菜であっという間にいっぱいになった。地震発生から5年。いまだに各地に爪痕が残るが、お互いに支えあいながら、熊本は復興に向けて着実に歩みを続けている。
「熊本の人は、みんな強くて温かい“肥後もっこす”。どんなときでも絆を大切にして、決して負けません。私もたくさん頼らせてもらいました。だから私も頼れる人でありたい。『保険屋さん』じゃなくて、『弥頭さん』と呼ばれたいです」
保険だけでつながっている関係ではない。日常的に周りの人のいろんな悩みを聞く中で、それが保険で解決できるものであればお勧めする。それが弥頭さんの仕事の流儀だ。
「『熊本地震で保険の大切さが身にしみた』とおっしゃる方も多く、私たちのリスクの提言に対し、しっかり耳を傾けようとするお客さまが増えてきました。この仕事のやりがいは、『助かった!』『安心した』と言われること。いつでも、どんなときでも熊本を元気にすることが私の役目。“くまもと愛”をモットーに歩み続けます」
- 2018年1月1日、AIU損害保険株式会社と富士火災海上保険株式会社が合併し、AIG損害保険株式会社として営業を開始。