最大震度7の熊本地震で自宅が半壊
2016年4月14日21時26分。この瞬間のことを、卓夫さんはよく覚えている。一日の疲れをとろうと、入浴している最中だった。浴槽の湯が、波立った。それはみるみる大波になり、浴室のタイルに亀裂が走るのが見えた。
あわてて湯船を飛び出し、体も拭かずに服を着る。心配して飛んできた娘とともにリビングへ戻ると、テレビでは速報が流れたところだった。マグニチュード6.5。最大震度7。熊本地方一帯を襲った、熊本地震の前震だった。
卓夫さんは妻と2人の娘との4人暮らし。「ごはんや水がおいしい。風光明媚なところもいい」と話す通り、熊本の地をこよなく愛し、70年以上にわたって暮らしてきた。しかし、これまでにこのような大きな地震は経験したことがなかったという。
「熊本の地下に活断層があるということは知っていました。明治時代にどうやら大きな地震があったらしいとも伝わっていたんです。ただ、私が知る限り、それまでに起きたのはせいぜい震度3、4程度だったんです」
一家総出で地震の片付けをして、眠りについた4月16日の深夜1時半頃。再び最大震度7の大きな揺れが熊本を襲った。これが本震とされており、28時間以内に震度7の揺れが2度も発生するのは歴史的にも例がないといわれている。
「前震をはるかに上回る揺れのように感じた」と卓夫さんがいう通り、この本震によって多くの家具が倒れた。卓夫さんの上にもタンスが倒れてきたが、椅子があったために九死に一生を得た。やっとのことでタンスをよじのぼり、廊下に出る。目が暗闇に慣れると、床には割れたガラスの破片や木片が散乱し、もはや足の踏み場はなかった。
「真夜中でしたが、一家で近所の中学校の体育館に向かいました。そこで避難所生活が始まったんです。震源地に近かった益城町からもたくさんの人が避難してきていました。地面は揺れ続けているし、落ち着かないし、なかなか眠れなくて…。つらかったけれど、家族の命が無事だったこと、そして地震保険に入っていたことが心の支えになり、悲観はしませんでした。きっとどうにかなるはずだ、と思えたんです」
「もともと加入は考えていなかった」地震保険に加入した理由
「もともと地震保険への加入は考えていなかったんですよ。もしも入っていなかったら、どうなっていたか…。加入を勧めてくれた弥頭さんには感謝しています」
卓夫さんが定年退職を機に保険を見直してみようと思ったのは、2008年のことだった。その際に相談したのが、保険代理店(AIGパートナーズ提携代理店)を営む弥頭(やとう)百合子さんだ。卓夫さんとは自宅も近く、かねてから友人付き合いをしていたという。
「2008年当時はまだ東日本大震災も起きておらず、もし被災するとしたら、きっと地震よりも台風だろうと考えていましたから、一般的な火災保険を検討していました。でも、弥頭さんから地震のリスクがあることを聞き、1995年の阪神大震災のことも頭をよぎって、『この際だから、入っておこうか』と思い直したんです」
こうして卓夫さんは地震保険に加入した。そのときは「まぁ、いつか役に立つかもしれないな…」というくらいの認識だったという。ただ、「実際に地震が起きてみて、ああ、やっぱり本当だったんだ…と。加入しておいてよかったという安堵の気持ちでした。私も家族も守られました」。
迅速に支払われた保険金 生活再建の要に
余震が続く中、「みなさまご無事ですか?ご自宅は大丈夫でしたか?」と弥頭さんから電話があったという。卓夫さんが事情を話すと、すぐに弥頭さんの手配によって、損害の査定を行う“鑑定人”がやってきた。卓夫さん宅で、外壁のひび割れや屋根瓦の落下などをすみずみまでチェックした鑑定人は、家の状態を「半壊」と位置付けた。
「査定の後、すぐに保険金が支払われました。こんなに早く出るのか!とびっくりしましたね。保険金を申請しようにも家の中はめちゃくちゃで、手続きの仕方もわからなかったから、弥頭さんが近くにいてくれて助かりました。当時、弥頭さんご自身も自宅が全壊して大変だったはず。それでも私たちのことを第一に考えてくれたことに感謝しています」
卓夫さんが家を少しずつ修復し、以前の日常を取り戻すまでに2年を要した。しかし、保険金のおかげで「再建は想像より早かったように思う」という。地震以前は台風に備えて重みのある瓦を乗せていたが、地震の際はその重みが被害を助長したため、地震後はガルバリウムという鋼板を使い、地震にも強い家づくりを目指した。
「この後も、熊本は大型台風や水害による大きな災害に見舞われました。もう、いつ何が起きても不思議はないんだ、と実感しました。とくに、ここ数年の地球温暖化などを思えばいつスーパー台風がやってくるかもわかりません。大事なのは、ちゃんと恐れを持ち続けること。この付近は大丈夫だ、というような場所はないと肝に銘じて、過信せず、慢心せず、保険もよく検討して備えておくことが大切なのだと思います」