2021/12/06
※言論プラットフォーム「アゴラ」2020/11/21掲載記事の再掲載です。
お年寄り、障がい者の避難対応どうする?
編集部:ここまで自宅への垂直避難について議論してきましたが、避難の選択肢が限られる方、お年寄りや障がい者の方への支援課題についてもう少し深堀りしていきたいと思います。
東日本大震災クラスは別ですが、建物の強度が上がるなどして実は災害で人が亡くなる確率は低くなってきているんです。しかし、その中でも例えば、大規模水害で被災者の方が亡くなられたという場合には、多くは避難弱者の方々だったりします。
車椅子の高齢者が水害に見舞われて、自宅で2階に上がれずに溺れて亡くなられたり、高齢のご夫婦の1人が、足の悪い配偶者を助けようと思って2人とも犠牲になってしまったりするケースです。さきほど話したように、住宅の強度は上がりましたが、世の中はお年寄りが増えているので大きな課題です。
編集部:どういった対策があるでしょうか。
避難弱者の方々に対して災害対応のリソースの選択と集中をしていくことです。防災はさきほど述べたように「自助」が強調されていますが、その大きな目的の一つが、この選択と集中にあると思います。食糧については行政が数日分の備蓄の補助などをして「自助」を推進していくというのは一案です。
災害時の要援護者の方々のリストはすでにあります。これを活用して個別の避難計画…例えば足が弱い方がいれば、その方がどうやって避難所に行くのかをシートに書いていくわけですね。ただ、個別避難計画はあるのですが、担当が地域の民生委員の方々。基本ボランティアなのでどこまで負担できるかという問題もあります。
去年の台風のあと、内閣府でも高齢者の避難について議論されて、ケアマネージャーといった福祉の専門職の人が個別避難計画づくりを一緒にやるというアイデアが議論されていました。
避難弱者対策では、足の悪いおじいちゃんがいるから、何かあったら周りのみんなで助け合うといった「共助」の枠組みをきちんと作ることも大事です。公助に行く前の段階でやれることはありますね。
ホテルを避難所に活用する動き
編集部:ここで避難所の話に移りたいのですが、最近は段ボールでプライバシーの確保が少しできるようになってきましたが、基本的には体育館に雑魚寝というあり方は昔のまま。ただ、最近はGo Toでホテルを活用するという動きもあるように聞きました。
避難所の環境改善はコスト面で難しいのが現実。ホテル並みの環境の避難所を自治体が持つことも難しい状況です。普段は“遊休施設”になってしまいますからね。そこで避難所、自宅に次ぐ3つ目の選択肢としてホテルがあると思います。自宅で避難することが難しく、しかも生活上、誰かの助けがいる避難困難者の方々は、エレベーターが完備され、ご飯が出てくるホテルなら大いに助かるでしょう。
ホテルを第3の選択肢として活用するのは有効でしょう。結果的に今回の台風でGo Toを使ってホテルを選んだ人が出てきたことは、新しい流れが生まれるきっかけになるかもしれません。Go Toと似たような仕組み、例えばホテルに泊まって、後日、罹災証明書と一緒に市役所に請求をしたら半額返ってくるような制度はあり得ます。防災費用として、そこにお金をかけることは、避難所にお金をかけるのと同じことと言えるので。
ただ、やっぱり問題になってくるのは、ホテルは営利施設。感染症の問題が起きる前は、満室ぎりぎりで経営している人気施設もありました。
編集部:ホテルの稼働率は一般的に6〜7割が採算の目安とされてきましたからね。たしかにいざ災害というときのキャパシティをどこまで確保できるか問題はあります。
今回の台風は何日も前から事前にやってくることがわかっていたので、空室を探すことはできましたが、地震はそうはいきませんね。観光地ではない地域はホテルが全然ないところもあるでしょうし。ただ、日本中で一般化するのは難しいでしょうが、ホテルの多い地域の自治体であれば積極的に活用もいいでしょう。ホテルがいいという人は、ある意味「自助」に近い形で避難する選択肢にはなります。
また、避難弱者という観点でいえば、基礎疾患を持った方、感染症が重症化しやすいお年寄りがホテルの個室に避難するのは安心にもつながりますね。
編集部:この感染症対策で行政側の予算が逼迫していく中で防災における「自助・公助・共助」が見直されていきそうですか。
ここへきて自治体のホームページなどを見ても、避難するときは、避難所に行くか自宅で避難するかよく考えて、自宅でも安全に避難できると判断した場合、自宅で避難してくださいということを、明言するようになりました。特にリスクの高い避難困難者、高齢者・障害者に対しての避難に公助のリソースを集中するようなことを考えざるを得ないと思います。
編集部:この半年で自治体側のマインドセットは相当変わってきているという印象ですか
自治体だけでなく、一般住民のマインドセットが今年はかなり変わったと思います。以前は、「ゼロリスク主義」的というか、とにかく無難な方向に行動しがちだったのが、避難所に感染リスクがあるかもしれないとなると、どのリスクをどの程度取って受け入れるかということを判断するようになった。つまり地震の後、この家に避難するのは危ないから感染リスクはあるが避難所に行くことを決めてマスクは着用、他人との距離に気を付ける…といった具合です。
私は今大阪に住んでいるので、関西寄りの意見になるかもしれないですが、関東と少し事情が違うのは、2018年6月に大阪北部地震があり、そのあと大型台風が来て関西国際空港が機能停止になるような災害が続いたことです。自治体がハザードマップの整理を積極的に進め、住民の皆さんも災害に対する意識が高まってきているように感じます。
編集部:大きな出来事があると意識は変わりますよね。直近の感染症を受けて、避難のあり方が着実に変わろうとしているなと、今日はお二人のお話から伝わってきました。本日は大変興味深い話をありがとうございました。
(参照)AIG総合研究所インサイト「Shelter-in-Place(在宅避難)が変える災害避難のスタンダード ―米国と日本の事例から考える―」(玉野)