2022年4月に道路交通法施行規則第9条の10(安全運転管理者の業務)のうち、6号と7号が改正され、安全運転管理者による運転者のアルコールチェックを目視等で確認し、その記録の保存することが義務付けられました。

今回の改正では、緑ナンバーの車を保有する企業だけでなく、一定台数以上の白ナンバーを保有する事業所も対象となります。

対象となる企業は管理体制や確認方法など、法律に則った方法でアルコールチェックを行わなければいけません。

ここでは、法改正の全体像のほか、アルコールチェックの実務対応、実際の運用手順などを解説します。

道路交通法改正によるアルコールチェック義務化とは

道路交通法の改正により、2022年4月と2022年10月の2段階でアルコールチェック義務化の内容が拡充されました。
 

アルコールチェックは、もともと緑ナンバー(事業用自動車)のバス・トラック・タクシーなどの運転者に対して義務付けられていましたが、改正により白ナンバー(自家用車)も対象となります。
 

対象となるのは、安全運転管理者の選任条件である以下のいずれかを満たした事業所です。

● 白ナンバーの車を5台以上使用
● 定員11人以上の車を1台以上使用


なお、バイクなどの自動二輪車(原付を除く)は1台を0.5台としてカウントします。

アルコールチェック義務化が実施された背景

アルコールチェックの義務化が実施された背景には、2021年6月に千葉県八街市で飲酒運転をしていた白ナンバーのトラックが児童をはね、死傷させた事故があります。

当時、白ナンバーに対しては運転前のアルコールチェックが義務化されておらず、それが事故原因の一つとして取り上げられました。

そして、今後このような事故が起きないよう飲酒運転の取締り強化を目的として道路交通法が改正し、白ナンバーのアルコールチェックが義務付けられたのです。

2022年4月1日から義務化された項目

2022年4月1日の改正では以下の2点が義務化されています。

● 酒気帯びの有無について運転前後の運転者を目視等で確認
● 酒気帯びを確認した結果を記録して1年間保存

改正により、運転前後で運転者の酒気帯びを目視等で確認することが義務付けられました。
 

確認方法は対面が原則ですが、直行直帰などで対面が困難な場合にはカメラやモニター、携帯電話などで声や表情を確認し、アルコール検知器で測定結果を報告させる方法も認められています。
 

この確認は原則「安全運転管理者」が実施し、運転前後に行う必要があります。

ただし、この「運転前後」については必ずしも運転の直前・直後である必要はなく、出勤時や退勤時、業務の開始前や業務の終了後でも問題ないとされています。
 

また、アルコールチェック後は誰が誰の酒気帯びの有無をいつ確認したかを記録し、1年間保存しなければいけません。
 

*「目視等で確認」とは、運転者の以下のポイントを目視で確認するということです。

  • 顔色
  • 吐いた息のにおい
  • 声の調子など

2022年10月1日から義務化予定の項目(延期)

2022年10月1日からは改正では以下の2点が義務化される予定でした。

  1. アルコール検査器を用いた酒気帯び確認
  2. 常時有効なアルコール検知器の保持

目視での確認に加えて、アルコール検知器で酒気帯びの有無を確認し、かつ正常に作動するアルコール検知器の保持することが求められます。
 

さらに、直行直帰などで対面での確認が難しい場合は、運転者に携帯型のアルコール検知器を持たせ、その結果を確認しなければいけません。
 

そのため、非対面で確認する可能性がある事業所では、携帯用のアルコール検知器も保持する必要があります。

しかし、昨今の半導体不足に伴ってアルコール検知器が不足しているため、2022年10月からのアルコール検知器を用いた確認については当分の間延期となっています。

アルコールチェック義務化に伴い企業が行うべきこととは?

アルコールチェック義務化に伴い、企業には以下5つの措置を行う必要があります。

  1. 管理体制の構築
  2. 安全運転管理者の選任
  3. チェックの記録と保管
  4. 就業規則の見直し
  5. 社内への教育

それぞれを詳しく解説します。

1.管理体制の構築

法律では、運転前後でアルコールチェックを実施するよう定められていますが、実際の運用にあたっては社内でルール化し、管理体制を構築する必要があります。
 

また、安全運転管理者がいない場合や直行直帰の場合など、あらゆる状況を想定して状況に応じたチェックフローを整理しなければいけません。
 

一般的の事業所では以下のようなフローでチェックを行うとよいでしょう。

このように社内でチェックフローを整理し、アルコールチェックを怠らない体制の構築が必要となります。

2.安全運転管理者の選任

乗車定員が11人以上の自動車が1台、またはその他の自動車が5台以上を使用している場合は、事業所ごとに安全運転管理者を1名選任する義務があります。
 

安全運転管理者とは、運転者の酒気帯び確認や運行計画の作成、安全運転の指導など事業所の安全運転を確保する責任者です。
 

原則20歳以上で、運転管理経歴が2年以上ある従業員から選任することが条件です。(副安全運転管理者が置かれる事業所では30歳以上)
 

また選任者が決まったあとは、所定の用紙を各都道府県警察へ届け出なければいけません。
 

もし安全運転管理者の選任基準を満たしているのにもかかわらず、選任していなかった場合は、50万円以下の罰金が科されます。
 

その他、安全運転管理者の解任命令に違反した場合や、安全運転確保のための是正措置命令に従わない場合も50万円以下の罰金となります。
 

加えて、車を20台以上保有している事業所では副安全運転管理者の選任も必要です。

副安全運転管理者も同様に、選任をしていなかった場合は50万円以下の罰金が科されます。
 

企業としての対応をないがしろにすると、事故リスクが高まるのはもちろんのこと、従業員が飲酒運転をした場合は道路交通法違反として従業員だけでなく会社に重い罰則が科されます。
 

そのため、自社が業務で使用する自動車台数を確認し、条件を満たした従業員の中から安全運転管理者を選任しましょう。

3.チェックの記録と保管

2022年4月の改正により、アルコールチェックを行った際にはその結果を記録し、1年間保管することが義務付けられました。

具体的には、以下の内容の記録が求められます。

 

● 確認者名(安全運転管理者)
● 運転者名
● 自動車のナンバー
● 確認の日時
● 確認の方法

○ アルコール検知器の使用の有無
○ 対面でない場合は具体的方法

● 酒気帯びの有無
● 指示事項
● その他必要な事項

なお、記録簿については指定の様式や媒体はありません。

自社でフォーマットを作成することも認められ、保管方法も紙とデータどちらでも可能です。
 

出典:警察庁「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令等の施行に伴う安全運転管理者業務の拡充について(通達)」

紙の記録簿のデメリットとは

アルコールチェックの記録簿を紙で記録・保管することを検討している企業も少なくないでしょう。
 

しかし、紙の管理では紛失や改ざんのリスクもあります。
 

もし、公安委員会から記録簿の提出を求められた際に、紛失や改ざんの事実が判明した場合は、安全運転管理者の解任や一定期間の車両使用停止などの行政処分を受ける可能性があるので注意しましょう。
 

徹底した管理を行うのであれば、アルコールチェックのアプリなどを活用し、記録簿を電子化して管理することをおすすめします。
 

アルコールチェックアプリについてはこちらをご覧ください。
【社労士解説】アルコールチェックはアプリを活用して効率的な管理を

4.就業規則・社内規定の見直し

アルコールチェックの実施に伴い、就業規則や社内規定の見直しも必要になります。
 

たとえば、構築した管理体制について「いつ・誰が・誰に対して・どのよう」に実施するのかを車両管理規定などの社内規定に明記するなどが挙げられます。
 

また、従業員が飲酒運転やアルコールチェックを拒否した場合に備え、就業規則の服務規律や懲戒規定なども整備しておくことで、アルコールチェックの実施を担保できます。

5.社内への教育

アルコールチェックは法律で定められた、強制力の高いものです。
 

安全運転管理者だけではなく、車を運転する全従業員が飲酒運転の危険性やアルコールチェックの重要性などを理解しなくてはいけません。
 

コンプライアンス違反防止のためにも、社内研修のほか、外部セミナーも活用しながら社内教育を徹底して行いましょう。

アルコールチェック義務化の実運用に関するQ&A

アルコールチェックを実際に運用するにあたり、さまざまなケースが出てきます。

ここからは、アルコールチェックの運用に関する不明点をQ&A方式で解説します。

アルコールチェック義務化となる対象の従業員は?

アルコールチェックの対象となる従業員は、業務のために運転するすべての従業員です。
 

社有車やレンタカー、私有車などにかかわらず、業務で自動車を使用する従業員はアルコールチェックと記録を行う対象となります。
 

ただし法律上は、マイカーで通勤する従業員にはアルコールチェックは義務付けられていません。

とはいえ、通勤中の事故であっても民法では「使用者責任」として会社が責任に問われることになります。
 

飲酒運転撲滅のためにも、マイカー通勤者に対してもアルコールチェックを実施することが望ましいでしょう。

夜間や早朝など、担当者不在の場合のチェック方法は?

実務では夜間や早朝などで、アルコールチェックを行う担当者が不在になることも想定されます。
 

その場合は、「副安全運転管理者」もしくは「安全運転管理者の補助者」が確認しても差し支えありません。
 

安全運転管理者の補助者については、資格要件などの制限がないため、安全運転管理者の責任のもとで適任者を選定し、その業務を補助するよう指導を受けた者であれば誰でも選任が可能です。
 

あらかじめ事業所ごとに補助者を選任し、配置しておくことで担当者不在に対応できる体制を整えておきましょう。

行き帰りの運転者が違う場合のチェック方法は?

業務上の都合で行きと帰りの運転者が違う場合には、運転前と運転後にそれぞれの運転者のアルコールチェックが必要です。
 

たとえば、行きの運転者の場合、出発前にアルコールチェックを行い、目的地に到着した時点で携帯電話やモニターなどでアルコールチェックが必要になります。

帰りの運転者も同様に、目的地を出発する前にアルコールチェックを行い、事業所に帰社したあとに再度アルコールチェックが必要になります。
 

なお、他の事業所の安全運転管理者がアルコールチェックを行った場合は、検査後に所属する事業所の安全運転管理者にその結果を報告すれば、酒気帯びの確認を行ったものとして取り扱うことが可能です。
 

アルコールチェックは運転者ごとに運転前後のチェックが必要となることを覚えておきましょう。

従業員がアルコールチェックを拒否した場合の対応は?

従業員がアルコールチェックを拒否した場合は、その従業員に運転をさせてはいけません。
 

その日は運転の必要ない業務に従事させるなどの対応が必要です。
 

また、このような事態に備え、アルコールチェックを拒否した従業員への措置については、あらかじめ規定を整備しておくとよいでしょう。

まとめ

道路交通法施行規則の改正により、アルコールチェック義務化の対象となる事業所では、安全運転管理者による酒気帯び確認を目視等で確認することが求められます。
 

2022年10月から予定していたアルコール検知器での確認義務化が延期となり、測定結果というエビデンスがない以上、目視等で確認した記録を確実に残すことが自社のコンプライアンス維持に繋がります。
 

あらゆる状況を想定して管理体制を構築し、就業規則や社内規定の見直しもあわせて行いましょう。
 

また、社内研修や外部セミナーなども実施し、一人ひとりが飲酒運転撲滅を意識することが大切です。
 

飲酒運転で人の命を奪わないためにも、アルコールチェックを適切に行い、二度と痛ましい事故を起こさないようにしなければいけません。

執筆者プロフィール:

名前:北 光太郎

肩書:きた社労士事務所 代表

紹介文:
中小企業から上場企業まで様々な企業で労務に従事。計10年の労務経験を経て独立。独立後は労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力し、法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、自身でも労務専門サイトを運営している。

MKT-2023-509

「ここから変える。」メールマガジン

経営にまつわる課題、先駆者の事例などを定期的に配信しております。
ぜひ、お気軽にご登録ください。

お問い合わせ

パンフレットのご請求はこちら

保険商品についてのご相談はこちらから。
地域別に最寄りの担当をご紹介いたします。

キーワード

中小企業向けお役立ち情報