大規模な災害が発生したとき、中小企業が抱える問題

――今年も多くの自然災害がありました。もし被災した場合、中小企業はどのような問題を抱える可能性がありますか?

前原さん(以下、前原):建物や設備の損壊といった物理的な被害はもちろんのこと、サプライチェーンの寸断や物流の停滞から、事業の継続が困難になるケースが考えられます。そうした問題が重なると、最悪の場合、廃業に追い込まれてしまう可能性もあります。

笹野さん(以下、笹野):ひとつの会社が事業活動をストップしてしまうことで、取引先や協力会社にも影響が出る可能性があります。被害の拡大を防ぐためにも、BCPを作成しておく必要があるんですよ。

――BCPとは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

前原:BCPとは、事業継続計画のことです。具体的には「事業活動の根幹を担う業務は何か?」「その業務を再開するための手順とは?」といった内容を洗い出し、役割分担をしたり、少ない人員でサービスを復旧させるための業務マニュアルを策定したりする作業になります。

受注から製造、出荷まで、それぞれの業務の分野において、復旧までの目標期限を設定しておくのもBCPのポイントとなります。

笹野:災害発生時には、一度すべての業務がストップしてしまうかもしれません。そう考えると、ある程度の資金の確保も必要ですよね。支払いに備えて、売上高の1ヵ月分ほどの資金を確保するなど、いざというときのために解決手段を講じておくことが大切です。
 

――保険の加入状況の見直しも必要ですよね。では、BCPと防災計画との違いは何でしょうか?

前原:緊急事態を想定し、備蓄や避難経路の確保を行うなど、人命救助に対して備えるところまではBCPも防災計画も同じです。BCPと防災計画の一番の違いは、「重要な事業をどのように継続、またはすみやかに復旧するか」という観点を持つかどうかです。BCPは、防災計画からさらに一歩踏み込み、「どうすれば事業をすみやかに復旧することができるか」を具体的に計画していきます。

笹野:大きな被害を受けたときにどうすべきか事前に計画し、できるだけ業務を素早く復旧させることで、顧客の他社流出やマーケットシェアの低下防止が望めると考えています。BCPを作成することで、業務内での優先順位や課題を把握するなど、企業の現状を見つめ直すきっかけにもなるはずです。

BCPを作るメリットは意外なところにも

――神奈川県では、BCPの認知・普及のために、これまでどのような取組みを行ってきたのでしょうか?

笹野:神奈川県では以前からBCPに着目し、中小企業の方々にBCPの作成を呼びかけてきました。認知を広げるため、セミナーの開催などを行っていた矢先に東日本大震災が発生。そこで改めて、災害発生時に中小企業が事業を継続させるための備えとして、BCPが注目されたんです。

現在では、どの企業でもBCP作成に取り組みやすいよう、ウェブサイト上でBCPに関するさまざまな情報を公開しています。


――BCPを作成することで、企業の底力がアップしそうですね。取引先にも「万一の事態でもしっかり対応してくれる、危機管理能力の高い企業だな」というイメージを持ってもらえると思います。ただ、BCPを初めて作成するときは、何から考えればいいか悩んでしまいそうですね。

笹野:神奈川県では、ウェブサイト上にBCP作成支援ツール「BCP作成のすすめ(かながわ版)」を公開しています。各企業が取り扱う製品やサービスの特徴に合わせて、3つのレベルから事業継続計画を選ぶことができるため、それぞれの企業に合ったBCPの作成が可能です。

初めて作成する方でも、手順どおりに進めれば簡単にBCPを作成できるような構成となっていますので、ぜひ一度ご覧ください。

前原:ウェブサイトには、実際にBCPを作成した企業の実例集も掲載しています。例えば、「経営者(設計者)にもしものことがあった場合、代わりを務められる従業員がいないと気付いたため、人材の育成に力を入れることにつながった」という企業もあるようです。

災害に限らず、何か不測の事態が起こった際は、代替案がいくつか用意できていると心強いですよね。

――確かに、実例が詳しく載っていて参考になりそうですね。企業でBCPを作成する場合、誰が中心となって作成していけばいいのでしょうか?

笹野:おもに、経営者の方や管理職の方が中心になると思います。作成にあたり、現場の方に話を聞くことも必要になるでしょう。また、作って満足するのではなく、企業全体でそれを周知徹底しなければ意味がありません。

悩んだときはご相談を

――BCPを実際に作成する上で、特に気を付けるべき点はありますか?


前原:
最近では、情報が経営資源となる場合も多いですよね。そのため、サーバーやデータの保護も計画に入れておくべき課題として挙げられます。重要情報等のバックアップシステムの構築とそのリスト化は、特に力を入れたい項目ですね。

また、BCPのボリュームが膨大になってしまうと、周知徹底に至らない場合もあります。作成する際は、できるだけ簡潔にまとめたいところです。

笹野:先日、大きな水害が発生しましたが、これまでの想定とは異なる被害だったという声もありました。停電対策やインフルエンザなどの感染症による被害など、複数の緊急事態を想定してBCPを作成できるとベストですね。

前原:まずは日頃から、「災害が起こったらどうすればいいか」という意識を持つことが大切です。四半期に1時間でもいいので、考える時間を設けてみてください。

また、BCPは一度作成して満足するのではなく、定期的に見直すことでより強固な備えとなります。事業の拡大などによって、業務量は日々変化していきます。基本方針が現在の自社の状況に合致しているか、自社の取扱製品やサービスに変更はないか、目標復旧時間に変更の必要はないか、重要業務に必要な経営資源に変更はないかなどの項目に分けて、BCPの内容と現状が合致しているかを確認してみてください。


――もし、BCPを作成する上で悩んでしまった場合はどうすればいいでしょうか?
 

笹野:神奈川産業振興センターをはじめ、県内の中小企業支援機関には、BCPの作成指導やアドバイスを行う専門家や、BCP作成指導者という心強いパートナーが在籍しています。BCP作成に困った際には、ぜひ相談してみてください。どこで相談を受けられるか、詳しい情報はウェブサイトに掲載しています。


――ありがとうございました。災害はいつ発生するか予想できないものですが、BCPの作成を通して、「想定する」という一番の備えができることがわかりました。BCPの計画を実行するための施設・設備の導入や改善のほか、資機材やコンサル費用も対象となる融資制度「フロンティア資金」も紹介した、神奈川県の「BCP作成のすすめ(かながわ版)」をご一読されることをおすすめしたいですね。