「座りすぎ」が死亡リスクを増加させる

はじめに

 AIG総研は、職場の健康増進という観点から、1日のうち座っている時間(座位時間)が長いと心疾患などのリスクが上昇するという「座りすぎリスク」に着目し、2019年より労働安全衛生総合研究所(JNIOSH)などとともに共同研究を行っています。

 今回のリスクコラムでは、この座りすぎリスクに関する最新の知見として、京都府立医科大学の小山講師をはじめとする研究チームによる調査結果について紹介します。

座位時間と死亡リスク

 この研究では、30代から60代までの日本人の男女64,000人あまりを平均7.7年追跡調査し、1日の座位時間と追跡期間中の死亡率との関係を分析しています。最近、日本においても座りすぎリスクについての話題がみられるようになってきましたが、その根拠となっているデータの多くは、海外の研究で得られたものでした。今回の研究で注目されるのは、調査の対象が日本人であることに加え、コホート研究注1により座りすぎによる死亡率の上昇を分析している点、また座りすぎによる健康リスクと、余暇における活動量との関係についても分析している点にあります。

 それでは、座りすぎはどのくらい死亡率を高めるのでしょうか。図1は、1日の平均座位時間を2時間ごとに区切り、追跡調査による死亡率をもとに、年齢・性別などによる影響を除去した相対的な死亡リスク(Hazard Ratio)を示しています。これによると、死亡リスクは座位時間の増加とともに上昇し、座りすぎが死亡リスクを高める健康リスク因子であることがわかります。具体的には、座位時間が2時間増加するごとに、死亡リスクが平均15.3%上昇しています。

図1: 座位時間と死亡リスク上昇の関係(生活習慣病の疾患数別) (出典2 内Table2よりAIG総研作成)

図1: 座位時間と死亡リスク上昇の関係(生活習慣病の疾患数別) (出典2 内Table2よりAIG総研作成)

 そして、この傾向は、高血圧・脂質異常症(高脂血症)・糖尿病などの生活習慣病に多く罹患しているとより強まります。これら3つの生活習慣病すべてに罹患している場合、座位時間の増加2時間あたりの死亡リスクは41.7%上昇することになります。生活習慣病に罹患している人にとって、座りすぎリスクは特に警戒すべきものだといえます。

おわりに

 仕事の業務内容や勤務形態によっては、一日中座ったままという方もいると思います。WHOが発表した身体活動・座位行動ガイドラインによると、座位行動は最小限にとどめ、代わりにどんな強度でも良いので身体活動注2を増やすことが推奨されています。電車通勤では座らない、自動車での移動では定期的に車外に出て歩く、会議の合間に立ち上がったり、屈伸などをすれば、小まめに動くことができます。みなさんも、座りすぎを防ぐために、生活の中で意識的に体を動かす工夫をしてみてはいかがでしょうか。

注1:コホート研究とは、同じ対象者の集団を長期にわたって追跡する研究のこと。
注2:身体活動とは、生活活動と運動のこと。生活活動とは、日常生活における労働、家事、通勤・通学などの身体活動を指す。また、運動とは、スポーツ等の、特に体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施し、継続性のある身体活動を指す。

(出典)

  1. AIG総研と独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所による健康増進分野における共同研究の開始について, 2019,
    https://www-510.aig.co.jp/assets/documents/press-release/2019/2019-05-28-joint-research-on-health-promotion-ja.pdf
  2. Teruhide Koyama et al, Effect of Underlying Cardiometabolic Diseases on the Association Between Sedentary Time and All‐Cause Mortality in a Large Japanese Population: A Cohort Analysis Based on the J‐MICC Study, Journal of the American Heart Association. 2021;10:e018293
    https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/JAHA.120.018293
  3. World Health Organization, 2020, WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour,
    WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour , p38
  4. 厚生労働省, 2013, 健康づくりのための身体活動基準 2013 (概要),
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/index.html , p1

AIG総合研究所

AIG総合研究所(以下、AIG総研)はAIGジャパンの研究機関として2017年12月に設立されました。AIG総研は、リスク・マネジメントに関する社会的な議論を喚起するthought leaderとして、グループ内外の様々な知見を結びつけ、リスク管理に関する提言・発信を行う情報ハブを目指しています。