労働者からみた職場のハラスメントの現状

労働者からみた職場の ハラスメントの現状

はじめに

 厚生労働省は、2012年度より4年に1度のペースで「職場のハラスメントに関する実態調査」を実施しています。直近では、2021年4月30日に2020年度の調査結果が公表されました。これまではパワーハラスメントのみが調査の対象となっていたのに対し、今回の調査からはセクハラやマタハラなど、職場で発生しうる多様なハラスメントの実態を幅広くとらえる内容に進化しています。

 詳細な調査レポートは厚生労働省のHPから入手可能ですが、本リスクコラムではハラスメントの実態に注目し、ハラスメント経験について調査をした「労働者等調査」の結果について触れます。

職場ハラスメントを経験した割合

 それぞれの職場ハラスメントについて、一度以上「経験した」と回答した労働者等の割合は以下のとおりとなっています注1(図1)。

図1:職場におけるハラスメントを経験した人の割合(厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」
令和2年度調査、労働者等調査の数値データ
をもとにAIG総合研究所作成。以下同じ)

図1:職場におけるハラスメントを経験した人の割合(厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」令和2年度調査、労働者等調査の数値データをもとにAIG総合研究所作成。以下同じ)

 パワハラについては女性より男性のほうが、セクハラについては女性のほうが経験している割合が高くなっています。一方で、「就活等セクハラ」については、僅差ではあるものの男性のほうが割合が高くなっていることが注目されます。

職場ハラスメント行為の内容

 それでは、職場ハラスメントを経験した割合の多い①パワハラ、②マタハラ・育休等ハラスメント、③就活等セクハラの具体的な中身についてみていきます。

① パワハラ

 パワハラ行為としては、暴言などによる精神的な攻撃が男女とも約半数を占め、次いで無理難題を強要するといった「過大な要求」の割合が高くなっています。また、男性においては身体的な暴力が、女性においては人間関係からの切り離しがやや高い傾向があります(図2)。

図2 経験したハラスメント行為の内容(パワハラ)

② マタハラ・育休等ハラスメント

 マタハラ(女性)ならびに育休等ハラスメント(男性)の内容は多岐にわたっています。男性の場合は、上司・同僚からの制度の利用を阻害する言動が圧倒的で、人事考課への不利益も多くみられますが、女性のマタハラはよりストレートに、非正規社員への変換や解雇・雇止めなどにつながるケースが多くみられます(図3)。

図3 経験したハラスメント行為の内容(マタハラ・育休等ハラスメント)

③ 就活等セクハラ

 就活等セクハラについては、先にも触れたとおり、女性よりも男性の経験者のほうが多いという結果が出ていますが、その内容をみると、性的な質問・性的な情報の流布・不利益な扱いの3項目が、男性へのセクハラ行為として特徴的です(図4)。

図4 経験したハラスメント行為の内容(就活等セクハラ)

おわりに

 職場のハラスメントは、労働者にとっては労働の権利の侵害となり、また企業にとっては労務管理上の大きなリスクとなります。2020年6月1日には「改正労働施策総合推進法」が施行され、企業においてパワハラ防止措置が義務となりました注2。また、この法改正ではセクハラ、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止対策も強化されています。企業の経営者や人事担当者は、厚生労働省が発信する様々な情報も活用し、ハラスメントについての理解を深め、しっかりと社内整備を行う必要があります。

注1:パワハラ、セクハラ、カスタマーハラスメントについては過去3年間、マタハラ・育休ハラスメント、プレマタハラについては過去5年間の経験について調査。就活等セクハラについては2017~19年度卒業の就活・インターンシップ経験者を対象。
注2:中小企業においては、2022年4月1日から義務化

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(出典)

AIG総合研究所 

AIG総合研究所(以下、AIG総研)はAIGジャパンの研究機関として2017年12月に設立されました。AIG総研は、リスク・マネジメントに関する社会的な議論を喚起するthought leaderとして、グループ内外の様々な知見を結びつけ、リスク管理に関する提言・発信を行う情報ハブを目指しています。