災害への備えとしての「思い出の保全」

災害への備えとしての 「思い出の保全」

はじめに

 台風や豪雨、津波などの自然災害の際、逃げ遅れて被災する痛ましい事例が発生しています。避難が遅れる理由の一つとして、避難中に自宅が被災した場合、家に残る財産ができるだけ被害にあわないようにする「保全」のための行動に手間や時間がかかる、という点があげられます。

 本コラムでは、そういった保全行動の中でも、「思い出」といったお金で買えない対象の保全について、いざというときに避難が遅れないための事前の備えという観点から考察します。

思い出を守るためにどうすればよいのか

 家の中にある、「いざというとき保全したいもの」には、大きく分けて、「物的財産(家屋、家財、金品)」と「思い出(過去の経験、家族との思い出、町並み・生活の記憶)」の二つがあります(図1)。

図1:避難時の保全行動の行動コスト低減のための事前の備え

 思い出については、それを思い出す(想起)ためのトリガーとなる「もの」が被災によって失われてしまいます。例えば、写真や動画・土産品・位牌、町並みそのものや町の人々などの存在などです。こういった思い出の品はお金で買えないものであるため、お金で買いなおすことができる物的財産とは異なり、保険によるリスクヘッジの対象とすることが困難です。では、いざというときに大切な思い出を守るためにどのような事前の備えができるでしょうか?

  1. 思い出のデジタルアーカイブ化
     まず、「思い出のデジタルアーカイブ化」という方法があります。これは、写真やビデオを事前にデジタル化すること、さらにはそのデータをクラウドストレージなど自宅から物理的に切り離された環境に保存することを指します。自宅が被災してアルバムなどが消失したとしても、そのデータがクラウドにデジタルアーカイブされていれば、それらは失われることがありません。

  2. 思い出のShelter in place(=安全な場所に保管する)
     次に、「思い出のShelter in place」とは、デジタルアーカイブ化が難しい「思い出の品」を、あらかじめ被災しにくい場所、状況で保管しておくことを指します。水害リスクに備え、建物の最上階や外部のトランクルームに品物を保管することや、それでも建物が流失するリスクに備え、流されにくい金庫内に保管するといったことが考えられます。(Shelter in placeについては、リスクコラム「米国のShelter in placeを取り入れた新しい避難枠組「避難所2.0」へのアプローチ」を参照)
    https://www.aig.co.jp/sonpo/lp/pp/riskcolumn_202206

おわりに

 災害発生時、迅速な避難のためには、「避難行動のコスト(避難に要する手間や時間)」を減らすという視点が重要です。そのために、個人レベルで事前に備えることのできる具体的な取組みとして、①自然災害を補償する火災保険等により、「お金で買えるもの」が被災することへのリスクヘッジをする、②「思い出のデジタルアーカイブ化・Shelter in place」により、「思い出=お金で買えないもの」の被災に備える、などがあげられます。

(関連レポート)

(出典)

  • 関谷直也・田中 淳:避難の意思決定構造-日本海沿岸住民に対する津波意識調査より-,自然災害科学,vol.35,特別号,pp.91-103,2016

AIG総合研究所 

AIG総合研究所(以下、AIG総研)はAIGジャパンの研究機関として2017年12月に設立されました。AIG総研は、リスク・マネジメントに関する社会的な議論を喚起するthought leaderとして、グループ内外の様々な知見を結びつけ、リスク管理に関する提言・発信を行う情報ハブを目指しています。