在宅勤務時のCO2濃度リスク ~30分に1度の換気で、ベストパフォーマンスを!~

1. 在宅勤務で気を付けたい換気問題

 国土交通省が2021年3月に発表したWEB調査結果によると、2020年の就業者におけるテレワーカーの割合は22.5%で、過去5年間の最高値を記録しました。テレワークの実施場所は自宅が約90%と最も高くなっており、テレワーカーの多くが在宅勤務をしていることが分かります。

 在宅勤務でオフィスと同じレベルの生産性を保つためには、作業環境などの整備を行う必要があります。デスクやチェア、PCやディスプレイの新調といった目に見える対応は分かりやすいのですが、作業を行う部屋のCO2(二酸化炭素)濃度の管理は忘れられがちです。なぜなら、オフィスで働いている場合には自ら意識しなくても適切な換気が行われていることが多いのに対し、在宅勤務では自ら意識して換気を行わなければならないからです。

 本コラムでは、CO2濃度と労働生産性の関係に関する研究結果を踏まえた上で、在宅勤務をする部屋のCO2濃度管理について紹介します。

2. CO2濃度と仕事の生産性

 ハーバード大学公衆衛生大学院のジョゼフ G. アレン氏の研究によると、仕事環境におけるCO2濃度が、業務のための認知能力に大きな影響を与えることが分かっています。

 この研究では、CO2濃度などが異なる複数の環境のもとで、知的労働者24名に戦略的意思決定能力を測定する「SMS(Strategic Management Simulation)」と呼ばれるテストを受けてもらい、その成績が比較検討されました。CO2濃度として、一般的なオフィス環境に近いと思われる945ppm、より外気に近いクリーンな環境を想定した550ppm、そして換気が不十分な環境を想定した1400ppmという3つの水準を比較した結果が図1に示されています。一般的なオフィス環境(緑色)でのスコアを100としたインデックスでみると、換気が不十分な環境(赤色)では、全体的な活動水準で24ポイント低いスコアが出ています。特に戦略的思考、情報の活用、集中的活動といった項目で落ち込みが激しく、危機対応や多様なアプローチなどの項目のスコアも低く出ています。CO2濃度が高い環境では、業務の「質」が下がってしまう可能性が示唆される研究結果です。

図1  CO2濃度ごとの認知能力テストSMSのスコア比較(Allen, Joseph G. et. al, 2015 よりAIG総研作成)

3. CO2濃度を低く保つ換気の目安

 では、どのくらいの頻度で換気をすれば、在宅勤務環境のCO2濃度を低く保つことができるのでしょうか?

 産業技術総合研究所の実験によると、約24畳の広さの会議室に空調を止めた状態で8人が集まると、500ppm前後だったCO2濃度がわずか35分で1400ppmにまで上昇することがわかりました。一人で在宅勤務をしている部屋の広さが6畳だとすると、理論上、CO2濃度の上昇スピードはこの実験の約半分となるため、CO2濃度が500ppmから始まったとすると、35分後に950ppm、70分後に1400ppm程度にまで上昇する計算になります。この結果からみると、1時間に1回程度の換気では不十分だと考えられるため、30分に1回程度の換気が望ましいといえるでしょう。部屋の対角線位置の窓を開けることができる場合には、換気に要する時間は5分程度で済みます。対角線位置の窓を開けることができない場合には、より長く換気をしましょう。

 なお、先の研究ではCO2濃度は低ければ低いほど業務のパフォーマンスが向上することが分かっています。ですから、もし可能であれば窓を開けたままとし、外気に近いCO2濃度を保つことが理想的です。とはいえ、外の騒音や気温によっては常時窓開放は現実的ではありません。そういった場合、自宅に24時間換気システムが備えられているなら、その動作レベルを引き上げることを検討しましょう。住居における24時間換気システムは、1時間あたり0.5回以上の換気能力を備えており、2時間に1回の窓開放(全換気)に相当します。それだけでは決して十分ではありませんが、定期的な窓開けやドアの開放による換気と組み合わせれば、窓を閉めている間のCO2濃度の急上昇を防ぐ効果を期待できます。

(出典)

AIG総合研究所 

AIG総合研究所(以下、AIG総研)はAIGジャパンの研究機関として2017年12月に設立されました。AIG総研は、リスク・マネジメントに関する社会的な議論を喚起するthought leaderとして、グループ内外の様々な知見を結びつけ、リスク管理に関する提言・発信を行う情報ハブを目指しています。

執筆:玉野絵利奈