日本の建設現場では生産性の向上対策が遅れているため、国土交通省はICT技術を応用した「i-Construction(アイ・コンストラクション)」いう生産性革命プロジェクトを、2016年より推進しています。このi-Constructionが成功すれば、コンクリート工の分野で生産性が向上し、再び建設業が活性化すると見込まれています。

ここでは、i-Constructionがどういうものなのか、導入することでどのようなメリットがあるのかをご紹介します。

 i-Constructionの概要  

i-Constructionは、2016年9月に首相官邸で行われた「第1回未来投資会議」の場で、第4次産業革命による建設現場の生産性向上のための方針として誕生しました。第4次産業革命とは、モノのインターネットと呼ばれる「IoT(Internet of Things)」や経済活動などをデータ化した「ビッグデータ」のほか、「AI(人工知能)」を用いた技術革新を指します。

i-Constructionには「ICT(Information and Communication Technology)」、つまり情報通信技術を用いて建設現場における調査・測量、設計、施工・検査といった工程の生産性を向上させる狙いがあります。具体的には、公共工事の現場で測量にドローンを使い、施工、検査といった建設プロセス全体を3次元データでつなぐことなどによって生産性を向上させ、2025年までに建設現場の生産性を20%向上させることを目標としています。

また、このような取り組みを通じて、建設現場の「きつい」「きたない」「危険」といった、いわゆる3Kのイメージが払拭され、人手不足が解消されることも期待されています。

i-Constructionが推進される背景

日本でi-Constructionが推進される背景にあるのは、建設業界の「労働生産性の低さ」や「就業者の減少」です。続いては、建設業界における労働生産性が低い理由と、就業者が減少する理由を解説します。

建築業界における労働生産性が低い理由

建設業界の労働生産性の低さは、ほかの業種と比べてどのくらいの違いがあるのでしょうか。

例えば、労働生産性を示す指標のひとつである、労働者がどのくらい付加価値の高い仕事をしているかを表す「付加価値労働生産性」を見てみると、製造業では1999年から2018年までに1.5倍近く上昇しているのに対し、建設業ではほぼ横ばいです。

では、なぜ建設業界で労働生産性が向上しないのでしょうか。実は、建設業界すべての労働生産性が向上していないわけではありません。トンネル工事などは、「矢板工法」から「NATM工法」に変わることで、労働生産性が約10倍となっています。ところが、土木やコンクリート工の現場ではほぼ横ばいです。これは、土木やコンクリート工の現場での技術革新が遅れているため、いまだに人手を要する作業が多いことが原因と考えられます。これらの現場で技術革新が行われれば、労働生産性が向上する可能性があるということです。

出典:「建設業ハンドブック2020」(日本建築業連合会)

建設業界の就業者が減少する理由

就業者数自体は建設業界のみならず、さまざまな業界で減少してきています。実際、日本の就業者数を見てみると、2020年の3月に6,700万人だった就業者数が、2021年3月には51万人も減って6,649万人となっているのです。中でも、著しく減少しているのが建設業で、2020年の3月に512万人だった就業者数が、2021年3月には13万人減少し、499万人となっています。

建設業界以外で同じくらい減少しているのは、宿泊業界、飲食業界、サービス業界ですが、これらは2019年末から続くコロナ禍における需要低下の影響を受けたためであると考えられます。建設業界では、需要の大きな落ち込みはありませんので、就業者の減少には別の理由があるといえるでしょう。

続いては、なぜ建設業界で労働者が減少しているのか、その理由を詳しくご説明します。

・就業者の高齢化

建設業界の就業者が減少する理由のひとつに、建設業界の就業者に高齢者が多いことが挙げられます。2014年の建設業界における技能労働者343万人のうち、50~59歳が73万人、60歳以上が80万人となっており、全体の44.6%を占めています。日本建設業連合会によれば、2025年までにはこの153万人のうち、約7割の110万人が離職すると推計されており、さらなる就業者の減少が予想されるのです。

・若年層からの敬遠

高齢者の離職が進むにもかかわらず、若年層の就業者が増えないことも、建設業界の就業者が減少する理由であると考えられます。若年層の就業者が増えないのは、建設業界に「きつい」「きたない」「危険」、いわゆる3Kのイメージが定着してしまっていることが要因でしょう。さらに、建設業界はほかの業種に比べて休日が少なかったり、労働時間が長かったり、死傷事故が多かったりします。また、建設業界における労働賃金の低さも、若年層が就業を避ける理由のだと考えられます。

高齢者が多いという事実は変えようがありませんが、i-Constructionの推進によって現場で技術革新が行われることで3Kのイメージが払拭され、政府が推進する「給与」「休暇」「希望」の新3Kのイメージが定着すれば、若年層の就業者が増える可能性はあるでしょう。

出典:「建設業ハンドブック2020」(日本建設業連合会)

出典:「建設現場の生産性に関する現状」(国土交通省)

出典:「労働力調査(基本集計)」(総務省統計局)

i-Constructionで行われるトップランナー施策

国土交通省が推進するi-Constructionの中でも、特に重要視されているのが「ICT技術の全面的な活用」「規格の標準化(コンクリート工)」「施工時期の平準化」の3つで、これらをトップランナー施策と定めています。

続いては、このトップランナー施策について、詳しく見ていきましょう。

ICT技術の全面的な活用

i-Constructionの中で一番革新的なのが、ICT技術の全面的な活用です。これは「ICT土工」とも呼ばれ、調査・測量、設計、施工、検査などの建設生産プロセスにおいてICTデータを活用します。

例えば、ドローンで3次元測量を行うことで、調査日数を削減することができます。従来の方式では、数千地点を測量するのに1週間かかっていましたが、ドローンの3次元測量であれば、数百万地点の測量を約15分で行うことができるのです。

また、竣工後の検査日数も、ドローンを使うと大幅に削減できます。さらに、3D測量データと設計図面との差分から、自動的に施工が完了した面積を算出したり、作成した3D設計データなどを使ってICT建機を自動制御して施工したりすることもできます。特に、ICT建機の利用は注目されており、これまでのように熟練者でなくても、建設機械の操作を安心して行えるようになりました。

規格の標準化(コンクリート工)

建設業では、現場ごとに作業内容が異なるため、同じ物を大量に生産する製造業のような作業の標準化が難しく、これも生産性の向上を妨げる原因になっています。そこで、i-Constructionでは、建設施工の工程の中で大きな比重を占めるコンクリートの生産工程(設計、発注、調達、加工、組立など)や維持管理のプロセス全体を最適化するためのガイドラインが策定されました。

例えば、機械式鉄筋定着工法に関するガイドラインでは、これまで鉄筋をつなぐために行っていた鉄筋を重ねる部分の作業が廃止され、工数が約1割削減されています。ほかにも、部材の規格を標準化したり、プレキャスト製品やプレハブ鉄筋などを工場で製作したりして、現場作業の簡略化を行っています。

施工時期の平準化

施工時期の平準化も、建設業界で求められていた改革かもしれません。先にご紹介したとおり、建設業界の就業者数は減っているため、限られた人的リソースをできるだけ効率良く運用させたいところですが、4~6月は公共工事の発注が少ないなど、施工時期に閑散期と繁忙期ができてしまうのが現状です。

そこで、国土交通省は各自治体に早期発注などにより平準化を推進するように通知しました。これにより、閑散期の落ち込みが改善される見込みです。

i-Constructionを導入するメリット

ご紹介したように、i-Constructionで重要視されているトップランナー施策は、どれも生産性の向上に役立つ内容です。では、これらの施策を現場に導入することで、どのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。

工事期間を短縮できる

ICT建機を導入し、ICTデータを活用した施工を行うことで、建設機械を利用した作業の効率が向上します。また、ICT建機の自動制御を利用することで、従来は現場の目視が難しい夜間にも作業を進めることが可能になります。その結果、全体的に工事期間を短縮できることがメリットといえるでしょう。

なお、工事期間を短縮することは、騒音や振動などによる工事現場周辺への影響も低減でき、CO2の排出を削減することにもつながります。

現場作業を効率化できる

ドローンを用いて取得した詳細な地形データや3D設計データを用いて施工手順をシミュレーションすることで、効率的に作業を行えるようになるでしょう。

例えば、3D設計データや仕様などを管理するCIM(Construction Information Modeling/Management)を利用することで、施工前に設計ミスを発見できます。さらに、施工手順のシミュレーションを行えば、施工手順に問題がないかを確認することも可能です。

建機オペレーターの熟練者不足を解消できる

ICTデータを活用すれば、ICT建機を自動制御できるため、オペレーターの経験が浅くても、施工速度や品質などへの影響が少なくなります。そのため、これまで熟練者にしいていた長時間の作業が不要になり、効率良く作業を進められるようになるでしょう。

また、熟練した建機オペレーターには高齢者が多いため、建機オペレーターの熟練者不足の解消にもつながります。

工事現場の安全性が向上

建設現場で検査測定(検測)をする際、作業員には施工機械との接触事故といったリスクが生じます。しかし、事前に3D設計データを用いて設計ミスをなくしたり、施工手順を確認したりしておけば、検測作業員の立ち入りを最小限に抑えることが可能です。

また、ICT建機を自動制御することは、オペレーターによる操作ミスを減少させることにつながります。

受注の増加が期待できる

工期の短縮や設計上のミスをなくしたりすることで、顧客からの継続的な受注も期待できます。また、最近では工事の発注条件に「ICT導入済みであること」が含まれているケースもありますので、i-Constructionを導入することで、競合他社よりも受注獲得を優位に進められるでしょう。

なお、国土交通省では2021年6月現在、ICT建機の活用を支援し、企業の設備投資を促すため、ICT建機の認定制度の導入が検討されています。ブルドーザーや振動ローラーといったICT建機だけでなく、3D計測器などの測量機器も認定対象になる予定です。

ICT建機の認定制度の具体的な導入時期は未定ですが、この制度をうまく活用して設備投資を行うことで、さらなる受注の増加も期待できます。

i-Construction以外の就業環境も対応しよう

i-Constructionで労働環境が改善されれば、生産性が向上するほか、就業者増加も期待できます。しかし、建設現場で死傷事故に遭うリスクは低減できても、ゼロにすることは難しいでしょう。

そのため、万が一に備え、労災保険などで就業者にとって働きやすい環境を整えることも、企業にとって大切なことだといえます。

MKT-2021-516

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