企業の大小を問わず優れたサービスや商品は、その良さが目立つほどに、他社から模倣されることがあります。しかし、この状況を放置してしまえば、良い商品やサービスを提供して利益を上げていく企業としての役割は全うできません。これら模造品や模倣されたサービスを抑制し、利益率を維持するために欠かせないのが、知的財産権(知財)です。日本の99%を占めるといわれる中小企業。とくに、ものづくり分野の技術系企業や、現代社会に欠かせないITサービス系の企業にとって、知財の取得は必須の条件になってきているといえます。ここでは、知財を生かした経営戦略について解説します。
前編では中小企業がニッチトップになるための知財経営、後編では知財経営に伴う金銭的なリスクについてご紹介します。
(本記事は2023年4月26日に行われた鮫島 正洋弁護士によるセミナーの内容を基に、編集・再構成したものです。)
知財経営に伴う金銭的リスク
知財を中小企業の経営戦略として位置づけた時、売上を確保しつつ、利益率の低下を防ぐ効果が期待できるとともに、企業価値や競争力を上げニッチトップへの道も開けてくるというプラスの側面があります。反面、リスクも考えなければいけません。各企業が同様に知財戦略をとれば、それだけ知財取得が競合することになるからです。そのリスクとしては、特許権や著作権といった知財の保護、権利侵害に関する知財訴訟が想定されます。ここでは知財紛争の現在の状況、どういった知財訴訟があるかを例に挙げ、その金銭的リスクとともに権利侵害回避活動はどう行うべきかを考えてみます。
1. 中小企業をとりまく知財紛争
知財の取得が増えれば、それだけ権利侵害に関する紛争も増えてくると考えられます。現代のグローバル社会では、日本人だけでなく、外国人による知財の出願件数も増えると考えられるため、その実態を把握し、知財紛争に備える必要があります。
・特許権、商標権の出願・登録件数状況
知財の中で、企業に関わりが深いのが産業財産権です。産業財産権といわれるものは4つあり、中でも特許権、商標権の出願、登録件数の割合が多いといわれています。その特許権の出願・登録件数は近年減少傾向にありますが、登録だけでみると2015年以降はほぼ20万件程度で推移しています。反対に、増加傾向にあるのが商標権の出願・登録件数です。、また、特許権、商標権ともに外国人による出願・登録件数も増加傾向にあります。(グラフ参照)
・中小企業間で起こる知財訴訟リスク
次に知財全体の訴訟件数を紹介します。知財全体では、年間500件前後で推移していますが2021年には年間600件を超えてきました。今後は紛争が増えていく傾向にあるかもしれません。とくに特許訴訟において、権利者(原告)・被疑侵害者(被告)ともに、中小企業が半数近くを占めており、中小企業にとって訴訟リスクが高いことがうかがえます。知財戦略でニッチトップを目指すと同時に訴訟リスクにも備えておく必要であると考えられます。
それでは、特許訴訟になった時、どの程度侵害と認定されているのでしょうか。侵害と認定(認容)される割合は22%、和解も含めると実質的な権利侵害とされるのは45%、およそ半分になります。侵害が無効であるとして無効審判を行ったとしても、無効となるのは17%、2割に届きません。つまり、訴訟された時に権利侵害となるリスクは高いといえます。(グラフ参照)。