① 打ち明けてくれたことに感謝を示す。
1 はじめに
最近、「LGBT」という言葉を目にしたり、耳にしたりする機会が増えてきています。
その一方で、「LGBT」という言葉自体は知っていても、今一つ、きちんと内容を理解できていない、知っているようで良くわからない、そのような方も多いのではないでしょうか?
LGBTなどのいわゆる性的少数者の方は、社会的にはマイノリティ(少数派)に属するため、生き辛さを感じていたり、時には偏見や差別を受けている場合があります。
そこで、今回のコラムでは、今さら聞けないLGBTに関する基本的知識について、解説をいたします。
2 LGBTとは?
まず、「LGBT」とは、以下の各性的少数者の頭文字を取った言葉で、セクシュアルマイノリティ、すなわち性的マイノリティの総称として、世界的に使用されている言葉です。
- L:レズビアン(女性を恋愛や性愛の対象とする女性)
- G:ゲイ(男性を恋愛や性愛の対象とする男性)
- B:バイセクシュアル(男女どちらにも恋愛や性愛の対象が向く人)
- T:トランスジェンダー(出生時の体の性別とは異なる性別を生きる人)
このうち、Tのトランスジェンダーとは、いわゆる「性同一性障害」(心の性別と体の性別が一致しない人のことを指す医学上の診断名)よりも広い概念で、当事者が自分達の生き方にプライドを持ち、名乗るときに好んで使われることが多い言葉です。
LGBTなどの性的少数者の方は、固定観念や先入観に基づく周囲からの偏見や差別的言動にさらされ、傷ついたり、誰にも悩みを打ち明けることができず、苦しまれているケースが多くあります。
以下、本コラムでは、LGBTに関する諸問題のうち、職場におけるハラスメント(差別的言動)と「アウティング」(暴露)について、概要を見ていくことにします。
3 職場におけるLGBTに対するハラスメント(差別的言動)
まず、LGBTに関する差別的言動とは、具体的にどういった言動を指すのでしょうか?
前提として、「差別」とは、あるものと別のあるものとの間に存在する違いそのものを指すのではなく、合理的な理由もなく取扱いに差をつけたり、不当に低く取り扱うことをいうものと考えられます。
そのような観点からは、たとえば、「同性を性的対象としてみる人は、仕事ができない」など、性的指向を理由として能力が低いなどとする言動は、LGBTであることを理由とする差別的言動に当たると考えられます。
また、「男なら男らしく、女なら女らしく」といった性別を理由とした言動も、LGBTの方にとっては、差別的言動に該当し得ると言えるでしょう。
このような差別的言動がなされた場合、即、不法行為というわけではありませんが、差別的言動が行われた経緯や具体的な状況次第では、不法行為と評価され、損害賠償請求をされる場合もあり得ることに留意する必要があります。
4 いわゆる「アウティング」(暴露)について
(1)「アウティング」とは?
次に、「アウティング」(暴露)の問題について、概要を見ていくことにしましょう。
「アウティング」とは、一般に、本人の同意を得ずに、公にしていない性的指向や性自認等の秘密を暴露する行為をいいます。
アウティングについては、2015年に都内の大学生が同級生にアウティング(暴露)されたとして、自殺を図り亡くなるという痛ましい事故が起きており、どのように対処すれば良いのか、問題意識を持っている方も多いかと思います。
(2)センシティブな情報であること
前提として、性的指向や性自認に関する情報は、当人にとってはセンシティブな情報です。誰しもがプライバシー権として、自らの情報としてコントロールする権利、むやみに暴露されない利益を有していると考えられます。
そのため、本人の同意を得ずに、その意向に反してアウティング(暴露)することは、プライバシー侵害に当たります。
(3)LGBTであることを打ち明けられたら?
それでは、LGBTの方からカミングアウトされた際、受け止める側は、どのようなことに注意すれば良いのでしょうか?
まだまだ議論が始まったばかりで、確立された方法論があるわけではありませんが、一般に、受け止める側のポイントとしては、以下の点が指摘されています。
② 自分に何かできることはないか、支える姿勢を伝える
③ アウティングを防ぐために、打ち明けた範囲を確認する。
④ 打ち明けられた際に感じた疑問や気持ちを素直に(言葉を選びながら)伝える。
まず、打ち明けるLGBTの方にとっては、信頼できると思っている相手だからこそ、打ち明けようと決断したとはいえ、実際に打ち明ける際には、相当な覚悟・勇気が必要です。
そのような覚悟を前提として、カミングアウトを受けた以上、まずは、打ち明けられた側としては、打ち明けてくれたことに対し、受け入れる気持ちを示すことが大切です。
そして、これからも支える姿勢を示すことで、今後も相談しやすい環境を整えることができることになります。
そのうえで、アウティングによるトラブルを防ぐためにも、本人から打ち明けた範囲を確認しておくとともに、お互いの認識の齟齬を少なくするためにも、打ち明けられた際に感じた疑問や気持ちを素直に(言葉を慎重に選びながら)伝え、意思疎通を図っていくことが大切と言われています。
5 性別に関係なく、誰もが自分らしく生きることができる社会へ
性的マイノリティであることを理由として、差別をされたり、人格的尊厳を傷つけられたりして良いはずがないことを言うまでもありません。
企業としては、カミングアウトしていないだけで、自社にもLGBTの従業員の方がいることを前提に、従業員教育や職場環境の整備に努めることが求められていると言えます。
本コラムをきっかけに、少しでも多くの方に問題意識を共有いただければ幸いです。
(このコラムの内容は、平成29年8月現在の法令等を前提にしております)。
(執筆)五常総合法律事務所 弁護士 持 田 大 輔
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