監修者プロフィール:
山本喜一(やまもときいち)
社会保険労務士法人日本人事
特定社会保険労務士、公認心理師、精神保健福祉士
上場支援、労働基準監督署、労働組合、メンタルヘルス不調者、ハラスメント、問題社員などの対応を得意とする。著書「補訂版 労務管理の原則と例外 働き方改革関連法対応」新日本法規、「労働条件通知書兼労働契約書の書式例と実務」日本法令、「IPOの労務監査標準手順書」日本法令など多数。
働き方改革関連法のひとつである時間外労働の上限規制などが、2024年4月から建設業で適用されることになります。天候の影響などを受けやすい建設業界において、労働時間に制限が設けられるのは工期の遅れにも直結するため、2024年問題として対策が急がれています。建設業界における2024年問題の主な原因は、人手不足による長時間労働の常態化です。
ここでは、社会保険労務士の山本喜一さんのお話を交えながら、2024年問題が建設業に与える影響とその対策を解説します。
山本喜一(やまもときいち)
社会保険労務士法人日本人事
特定社会保険労務士、公認心理師、精神保健福祉士
上場支援、労働基準監督署、労働組合、メンタルヘルス不調者、ハラスメント、問題社員などの対応を得意とする。著書「補訂版 労務管理の原則と例外 働き方改革関連法対応」新日本法規、「労働条件通知書兼労働契約書の書式例と実務」日本法令、「IPOの労務監査標準手順書」日本法令など多数。
2024年問題とは、時間外労働の上限規制などを含めた働き方改革関連法が施行されることで生じる問題の総称です。
時間外労働の上限規制は⼤企業で2019年4⽉から、中⼩企業は2020年4⽉から導入されています。しかし、建設業をはじめとした下記の事業・業務は5年の猶予期間が設けられており、2024年4月から一部特例つきで規制が適用されます。
2024年4月から自動車運転業務でも時間外労働の上限規制が適用されることで、物流業界では運べる荷物の量が減り、売上減少やトラックドライバーの収入減少などの問題が出るといわれています。そして建設業においても、これまでのような条件で長時間働いてもらうことができなくなるため、工期に間に合わなくなったり、従業員の収入が減少したりといった問題が考えられます。
なお、時間外労働の上限規制を守らなかった企業は、罰則として「6ヵ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」が科される可能性があります。
2024年問題については、下記の記事もご覧ください。
【社労士監修】2024年問題とは?物流業界への影響や対策を解説します
前述のとおり、時間外労働の上限規制などはすでに一般企業では適用されており、建設業は猶予期間がありました。なぜなら長時間労働、休日出勤が常態化しており、すぐに新しいルールを適用するのはハードルが高いと判断されたためです。
事実、建設業は全産業と比べて年間の総実労働時間が90時間以上長くなっています。長時間労働が常態化する原因のひとつとして、少子高齢化を背景に人材確保が難しいことが挙げられます。建設業は労働者の3割以上が55歳以上と、特に高齢化が深刻になっており、若い人材の確保が急務といえる状況です。
出典:「建設業を巡る現状と課題」(国土交通省)
「建設業では雨や台風で作業ができない日があるものの、納期は決まっているために作業時間の波が出てしまい、どうしても長時間労働が発生するタイミングが出てきます。分業があまり進んでおらず、少人数で対応するような町の工務店などは、特に長時間労働を防ぐのが難しいのが現状です。とはいえ、頭ごなしに法律を守れと言ってもなかなか伝わらないと思います。働き方改革関連法は、あくまでもみんなが働きやすくなるための新しいルールであることを、研修などを通じて従業員向けに地道に伝えていくことが大切です」
建設業では2024年問題にどう対応していくべきなのでしょうか。特に時間外労働の上限規制に対応するため、一般的に考えられるのは下記の対策です。
例えば日本建設連合会は、具体的な取り組みとして本社による現場支援や事務手続きの代行を図ることで作業時間を削減したり、時差出勤やテレワークといった働き方を積極的に取り入れたりすることを紹介しています。
出典:「時間外労働削減ガイドライン」(一般社団法人日本建設業連合会)
「従来の長時間労働がきつく、どうにかしてほしいと思っていた人たちは、時間外労働の上限規制が設けられることを歓迎しています。逆に、長時間労働によって稼げていた人にとっては、賃金が減ってしまうことになりかねず、辞めてしまうかもしれません。このような理由で労働者を失えば、さらなる人手不足を招いてしまう可能性も出てきてしまいます。それを防ぐため、労働状況が悪化しないよう、企業側が働き方についてアドバイスをしたり相談窓口を設けたりするといった、働き手を失わずにすむ方法を模索する必要があるでしょう。このような取り組みを行い、積極的に広報活動することで、若い働き手の選択肢に入る可能性もでてきます」
出典:「【経営者から学ぶ】経営破綻という谷から這い上がれたのは「人こそ資産」の考え方にある。創業140年の姫野組に学ぶ「人の生かし方」」
さらに建設業界全体の取り組みとして、ドローンによる測量などITの知識を活かして現場を支援する「建設ディレクター」という新しい職域も登場しています。作業ボリュームが多くなりがちな書類データの入力作成を代行したり、IT技術を活用して業務を効率化したりすることで、少しでも現場の負担軽減を行うのが主な役割です。
「建設ディレクターを設置するなど、分業につながる取り組みは、特に規模の大きい建設現場で有効だと思います。書類作成の業務を代行するだけでも、現場の技術者の労働時間削減につながりますよね。また、キャリアアップの観点から見ても、こうした新しい職域が出てくるのは働き続けるモチベーションにもつながると思いますので、働き方の選択肢を増やす意味でも良いと感じます」
建設業では、働き方改革関連法により、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されます。建設業は長時間労働や休日出勤が常態化していたため、適用までに5年の猶予期間が設けられていました。すでに本腰を入れて動き出している企業もあり、いまだ取り組めていない中小企業は、早急に検討する必要があるでしょう。
建設業において、長時間労働が常態化する原因のひとつに人手不足があります。
企業はさまざまな取り組みを始め、事務作業を中心に担う新しい部署の新設やITの知識を活かして現場を支援する建設ディレクターの設置といった動きも出てきています。長時間労働を削減するために、今後はよりこうした分業の取り組みを進めていく必要があるでしょう。
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